「どう考えたっておかしいだろう、なんでこんなに冬が長いんだかねえ!」
確かに、どう考えたっておかしい。サヤカはいろんな意味で、その言葉に頷いた。目の前に広がる銀世界と人影は、予想だにしない現実である。
黒髪を振り乱して走るナフェリアの後ろを、サヤカたちはついていっていた。彼女とは今朝方、町で別れたはずだ。昼前に町を出たサヤカたちは、ナフェリアの向かった南西の森の方角へとはいかず、街道沿いに南へと歩いていたはずだ。夕暮れ時を控え、マコトたちは野宿する場所を見つけようと森へ入った。背の高い気が立ち並ぶそこは幻想的で、魔法の力が満ちているような気がしなくもないが、こんな奇跡が起きるとは予想外である。
道の途中で出会ったのはナフェリアだった。途轍もない確率で再会を果たした三人を悪趣味に言祝ぐかのように、雪が降り荒れていた。吹雪である。
「昨日ナツが言ってた理由じゃないの!?」
「あんな御伽噺のような話があってたまるか、せいぜい国王様の死を悼む期間だとかそんなもんだろう! いい加減予定が狂うから、早く春にしてほしいものだねえ!」
「ナツ、落ち着いて……いや、僕も同じ気持ちではあるけど!」
ごうごうと吹きつける吹雪をなんとか凌げる場所を見つけなければと、視界の悪い森の中サヤカたちは周りを注意深く見つめていた。雨を凌げるような大木の下も、強風から身を隠せる大岩もいまは意味を成さない。雪穴を掘ろうにも、連日続いた晴れが災いして雪の高さが足りなかった。ナフェリアは苛立ちをあらわにずんずんと森を歩く。
こういった緊急事態に、出会った人と離れて単独で行動するのはもちろん危険だ。サヤカとマコト、それにナフェリア達は無言の同意で行動を共にしている。見ず知らずの人ではないのが救いだった。マコトは定期的に方位磁石を取り出しては、いまどこを進んでいるのかを確認している様子だった。濃霧と同じくらいに視界の悪い中、彼の持つ方位磁石の、夜光石の光はずいぶん役に立つ。マコトはそれを服の中にしまい込むことなく、三人の目印代わりに服の外に出していた。
「ふたりは魔法で何とかできないかい? 残念ながら、あたしは無理なんだ」
「僕もできない。道を一瞬照らすことぐらいならできるけど」
「光魔法かい?」
「そうだね。雷だから、攻撃性が高いけど……サヤカは? 土魔法で洞窟みたいなの作ったりできない?」
「無理だと思う。完璧に呪文を詠唱したら、三時間くらい保つ薪は作れるけど……そもそも植物しか扱えないから、土はいじれないよ。植物だけで屋根をつくったところで、多分すぐに消えちゃう…………天幕を持ってる人はいないの?」
「小天幕なら持ってるけど、この吹雪じゃ何の役にも立ちやしないね。早めに何とかしないと、三人とも凍死だよ」
「……さらっと恐ろしいこと言わないでよ……」
物理的な寒さとは別の寒さを感じたマコトが、小刻みに首を振りながらナフェリアに言った。悪びれない様子で首を傾げた様子のナフェリアにため息をついた。白く染まった息遣いは景色に溶けていく。
そういえば、今なら違和感なく聞けるかもしれない。雑貨店でマコトと話していたことを思い出したサヤカがふとナツに問いかけた。
「ナツは何の魔法が使えるの?」
「あたしは水魔法。すごく攻撃的だし、こんな温度じゃすぐさま凍っちまうよ。意味がない」
「……じゃあ、だめか。ほかの魔法を使える人はいないんだよね」
吹雪の中に降りた沈黙が、サヤカの問いの答えとなっていた。
この世界では、誰しもが魔法を使える。ただ、魔法は先天的な才能に大きく左右され、稀にいくつもの種類の魔法が扱える人もいれば或いは、一種の魔法しか使えない上に、その魔法すらそもそもが虚弱という場合だってある。要するにまさに天から授かる才能であり己の努力の限界が存在する分野でもあるのだ。魔力の強弱でその人間の価値は決まらないと長年謳われてはいるが、魔法が扱えるほうが何かと便利であることは事実だった。
サヤカは土魔法の中でも植物に特化して魔法を扱うことができ、それなりの力を発揮し、そして意のままにできる類の人間だったが、マコトとナフェリアは一種の魔法しか使えない上に、体質との相性もあり魔法そのものを扱うことが難しい型の人間だ。後者の二人はその分を体術で補っている。
マコトは、触るだけでつんと刺すような冷たさの方位磁石を見ながらつぶやいた。「火の魔法使いでもいればいいんだけどな」
「まさにそれだねえ。火の魔法使いがいさえすれば、適当な岩陰や大木の下を陣取ってしまえばいい話なんだけど」
「確かにね。……僕の」
「あっ、ねえねえ」
周りを見渡していたサヤカが、一行を呼び止めた。会話の流れを遮ったその発言に、マコトとナフェリアがサヤカを振り向く。
「あそこ、なんか光ってない? ……なんだか小屋に見えるような気も」
サヤカが吹雪で飛んでいかないようにと帽子を押さえながら、ぼんやりと見える灯りを左手で指で指し示した。見定めるように目を細めたナフェリアが、頷く。
「行ってみようじゃあないか」