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 そこまで、三人の会話には一切口を出していなかったシュカが、ぱっと顔をあげた。その動作をめざとく見とがめたものはいなかったが、流石に声をあげられれば気が付かざるを得ない。
「あっ、思い出した」
 急なその言葉に、サヤカたちはぱっとシュカを振り向く。机の上でなにやらしていたらしい彼は、その視線にようやく自分が声を上げたことを気が付いたようだった。少しだけ目を見開いたのち、何事もなかったかのように視線を手元に戻す。動揺して首を変な角度に傾げたサヤカだったが、ナフェリアは目をぱちぱちと瞬きながら問う。
「いや、なにがだい?」
 至極まっとうなその疑問に、シュカは少し肩を竦めた。蓑虫のように体を縮こまらせていたサヤカも、寒さを堪えつつシュカのほうを覗き込む。
「たいしたことじゃないですよ」
「あんな言わ方しちゃあ、誰だって気になるよ。あんたさえいいなら教えてくれないかい?」
「…………ナツさんが尾行してたっていう、金髪の旅人ですけど。見覚えがあるなあと思っただけです」
「……それは本当かい?」
 揶揄うような軽い口調だったナフェリアが、いきなりぎらりとした視線をシュカに向けた。それにはさすがに驚いたのか、少しだけびくりと肩を揺らす少年。サヤカも、あの視線は向けられたくないと、思った。マコトも驚いたようで、視線がナフェリアへと集中する。誰もなにもしていないというのに、ぴりついた緊張感が小屋に流れた。ナフェリアははっと我に返って、にこりと取り繕う。
「ああ、……すまないね。少し熱くなりすぎた。悪かったよ、シュカ」
「…………いえ」
「その旅人だがね、あたしの急ぎの要件だったんだ。あたしの事情を全部しっかり話すから、もしそれを聞いて話してくれる気になったらでいい。聞かせてくれないかい」
 シュカはまだ少し怯えたような表情だったが、それでもこくりと頷いた。それよりも硬直していたのはサヤカで、ナフェリアが彼女の肩を揺するまでぴたりと静止したままだった。暖炉の前に再び座り込んだサヤカに、ナフェリアが「すまないね」とだけ告げる。それから、シュカの向かいに座った。
 マコトは何も言わずに、サヤカの隣に腰を下ろした。