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 しばらくすると、ミコトが戻ってきた。ミコトは自分で頭を掻きながら言っていたが、ものを頼まれると断れないたちらしい。今回も然りで、小さな料理店の赤ワインを運ぶのを手伝っていたらしく、シュリを探すのは後回しになっていたようだ。ごめんな、と両手を合わせるミコトに対し、シュリは笑って許していた。もう慣れっこらしい。
 サヤカはシュリに言われた通り、自分の連れであるマコトのことを黙ったまま、広場で談笑していた。どこかナフェリアに似たように話し上手なミコトと、それに茶々をいれたり補足したりをしてころころと笑うシュリに、たくさんの情報でいっぱいいっぱいになっていた頭が少しほぐれていく。壁を感じさせないミコトにすぐ慣れたというのももちろんあるけれど。
 大きな宿のある通りから、見慣れた色のローブが出てきた。サヤカにすぐさま気が付いて、一瞬前寄った末に控えめに手を振る彼に、サヤカも笑って振り返す。その横でシュリは、ミコトに無理やりフードをかぶせ俯かせていた。何するんだよ、という声が隣で響いていた。思わずサヤカは笑った。
 シュリの隣に人影があることに気が付いてか、マコトが駆け寄ってくる。広場の真ん中を陣取っていたサヤカたちのところにマコトはすぐさまたどり着いたが、無理やりマコトに背を向けさせられフードを被っている人物に不信感を持ったようで少し眉をひそめる。シュリはミコトを黙らせることに夢中なようなので、サヤカが代わりに紹介した。名前を言っていいのかどうか一瞬迷い、一応やめておくことにする。その状況の混沌とした雰囲気に引っ張られ、気まずさなんてどこかへ飛んで行ってしまったようだった。
「シュリさんの旅の仲間さん、見つかったよ」
「……ええと、そこにいる方?」
「はい!」
 シュリがぱあとした笑顔でそういうと、マコトは面食らったように目を見張る。この表情はマコトでさえ見たことがなかったらしい、というのを一瞬考えたが、そんなのはそのあとのシュリの台詞で吹き飛ばされる。抵抗をやめおとなしくなっていたミコトとマコト、それぞれを見つめた後に続けた。
「ふたりとも、驚きますよ」
 そこにサヤカは入っていないようだった。流石にここまでされて察しないほど、サヤカとて鈍感ではない。思わずくつくつと笑いながら状況を見守る。さっきのサヤカ以上に疑問符を頭の上で踊らせているマコトたちを、シュリが一気に引き合わせた。
 ぱさり、とミコトのフードが取れる。それと同時にマコトと向き合うようにくるりと体の向きを変えられて、ふたりの視線がぱちりとかちあった。マコトは不審そうに、ミコトは不満げそうに細められていたひとみが一気に見開かれる。
「……えっ、ミコト?」
「兄貴!?」
 どうしてここに、とお互いがお互いに、言葉にこそ出さなかったが問いかけていた。