ふと目を覚ました時には、まだ誰も起きていなかった。かすかに陽が差し込んでいるのが見えて、ああ昼過ぎか──とサヤカは思う。ずいぶん早く起きることができたな、と伸びをして、雑魚寝している面々を見つめた。
徹夜で森を歩ききって、それからようやく眠ったにしてはやけに頭がすっきりとしている。どういうことだろうかと首を捻れば、少し向こう側で気配が動いた。のそりと起き上がったのはシュカで、寝癖が目立っていた。
サヤカははじめ、何の疑問も持たずにシュカに手を振ってみせた。ぺこりとお辞儀したシュカは、静かに立ち上がって小屋の奥へと向かった。桶を片手に戻ってくる姿を見て、水汲みに行くのだなと思う。サヤカも一行を起こさないように立ち上がると、シュカに手伝いを申し出た。
小屋の外に出てから、シュカはようやく声を出した。
「おはようございます」
「……こんにちは、じゃなくて?」
「え? ……ええ、おはようございます」
今は昼過ぎではないのか。おはようございます、と疑問ながらに答えてから、サヤカは眉をひそめた。どうしてシュカも眠っているのか。夜明け直前に叩き起こされた形となる彼は別に、サヤカたちに合わせて眠る必要もない。慌てて太陽の向きを確認しようと空を見上げたサヤカは気が付く。
昼ではない、朝である。
「……もしかして、一日経ってる?」
「あ、はい。ナフェリアさんだけ一度起きたんですが、他の人はみんな眠りっぱなしでした」
一日経った朝ならば、道理でシュカも寝ているわけだ、とサヤカは納得した。シュリに負けず劣らず気を張っていたであろうミコトも、それからマコトも安心したのか起きることなく丸一日眠っているらしい。
「みなさんが起きたら、俺はアルトンに向かいます。姉さんが一緒に来るかどうかはわからないけど……」
「王都って、なにか王都に用事があるの?」
「まあ。……サヤカさんたちは?」
「私とマコトも、王都に向かってるの。シュリたちの行き先は聞いてないけど、シュリが向かうとこにミコトも来るだろうから……わからないのはナツだけかな」
「じゃあ、道は一緒かもしれませんね。サヤカさんたちさえ良ければ」
「邪魔じゃなければ、一緒に行けたら楽しいと思うな」
さんさんと陽の光が降り注いでいた。風に木々が揺れる。水汲み場にしているらしい井戸まで来た時に、シュカが思い出したようにサヤカに聞いた。
「そういえば、腕を怪我しているんじゃないですか。水汲み、今日は少ないですし、無理しないでください」
「あ、……これは……」
「……サヤカさん?」
「……もうほとんど治ってるから、大丈夫。いつも小屋を借りっぱなしだし、手伝うよ」
「それなら良いんですけど」
シュカが未だ心配そうに、釣瓶を井戸の底に落とす。ぱりんと氷が割れる音がして、釣瓶が水に沈んだようだった。サヤカは少し目を逸らした後に続ける。
「マコトと一緒に旅をはじめた切っ掛けがこの怪我なんだ。治ったら一緒にいる理由がなくなっちゃうからなあって思ってるんだよね、少しだけ」
「……そんなの、まだ一緒に居たいって言えばいいじゃないですか?」
「うん、わかってる。治ったらちゃんと言うつもりだよ」
ぱしゃり、と冷たい水が桶に移されていく。ふたつの桶に半分ずつほど水がたまると、シュカがふたつの桶をひょいと持ち上げた。サヤカが何を言う前に、皮肉っぽく口角を上げてシュカが言った。
「怪我してるサヤカさんに手伝わせて、マコトさんにいちゃもんつけられても困るんで」
「そんな人じゃないけどなあ」
「分かってますよ」
シュカの言葉に、サヤカはつい笑った。桶の中の水がシュカの足取りに合わせて揺れ、波紋を作っていく。サヤカはただシュカについてきた形になってしまったが、他愛もない話をしながら小屋まで戻った。