シュカは既に、自分の荷物をざっと纏めているようだった。しばらくして、サヤカの次に起きたのはナフェリアで、そこからはすぐに全員が目を覚ました。その中でも、目が腫れてしまったと笑うシュリは、それでも晴れやかな顔つきをしていた。
シュカは、調度品はそのままに、自分の着替えや小物を詰めた鞄を背負って小屋を出ることにしたようだった。鍵をゆっくりと閉めると、それをそのまま地面に埋める。樵が帰ってくる前にシュカがこの家を出ることになった時はここに鍵を埋めておくと決めていたらしい。出発の前に長い置き手紙を書いていたのは記憶に新しかった。
アルトンまでの道のりは六人という、騒がしい人数で進むこととなった。
「そういえば、みんなで酒場に行きたいって話が出てたっけねえ。どうするんだい?」
「私は行きたい!」
「僕はみんなに任せるよ」
ナフェリアの問いかけに、各々が反応した。他の人が行くなら行く、と曖昧な返事だったのはマコトとシュカだったが、ほかの面々は面白そうだと行きたい様子だった。シュリはシュカの隣を陣取りながら問う。
「酒場って……俺は行っていいもんなんですか、それ」
「酒飲まなきゃ平気だろ。飯だけ食ってれば」
「アルトンにそこそこ大きな酒場があったはずだよ。あたしも行ってみたかったし、今日中にアルトンに着ければ行ってみるかい?」
「ナフェリアちゃん、何かおすすめの料理とかある?」
「あたしは辛い物が好きだから、それしかお薦めできないけど……辛いものは平気なくちかい?」
「うん、割とみんな食べられるよね」
「何度も言うようだけど、僕は無理だからね。ねえ聞いてる? ミコト、あとサヤカも」
「旨いんだけどな、辛いもんって酒に合うんだぜ」
「お酒も、辛いものも食べない人にそれ言われても……」
「酒場に向いてねえなあ、兄貴」
悪びれないミコトに、マコトがわざとらしく肩を落として見せる。サヤカがまあまあ、とくすくす笑いながら宥めていた。
「お酒かあ。変な酔い方しないといいなあ」
「サヤカちゃん、泣き上戸だったらどうする?」
「えっ、恥ずかしいから嫌だなそれ」
「可能性はあるよー」
「シュリちゃんだってこう……変な酔い方するかもしれないじゃん」
「どんな?」
「……わからないけど」
酒場に行ったことがないサヤカは、変な酔い方の具体例をよく知らない。しばらく迷った末に具体例を諦めたサヤカを、ミコトとナフェリアが笑う。
シュカも多少笑いながら、話題をそっと変えた。
「俺はまず教会と、孤児院に寄りますね」
「あ、じゃああたしは国兵のところに顔出してくるよ。悪党たちをきちんと捕まえたかも気になるしねえ」
「じゃあ、わたしシュカと一緒に行くね。酒場に寄るってことは……アルトンには一晩残ることになるのかな」
「じゃあ、サヤカと僕とで宿取っておこうか。男女で割って、二部屋あれば平気?」
頷いたサヤカに、ミコトが「三手に分かれることになりそうだな」と続けた。アルトンには夕暮れ頃に到着するだろう。
「酒入ったらまともに話せないやつ出るかもしれないし、先にこの先どうするか話し合っとこうぜ」
ミコトがそう提案する。先頭を歩いていたナフェリアが、くるりと振り返って後ろ向きに歩きながら問いかけた。
「シュカは王都に行くんだろう? シュリはどうするんだい?」
「わたしもシュカと一緒に王都に行くよ。なんとかして両親に連絡とらないと」
「俺もシュリと一緒に行くから、とにかく急いで王都だな。兄貴たちも王都だっけ?」
「僕たちはそこまで急ぎじゃない──よね? 王都だよ」
マコトがサヤカに確認をとるようにしながら答える。サヤカはそうだなあ、と首を傾げた。
「一緒に行っていいなら行きたいな、私は。みんなは?」
「俺らはもう途中の町だとか、観光だとか関係なしに王都だけを目指しちゃうけど、それでよければ一緒に来る?」
「……そんなに急いでるの?」
シュカとシュリが、同時にこくりと頷いた。最後尾を守るサヤカとマコトは顔を見合わせて少し悩んでいる様子だった。とくにマコトは、連絡こそ途中でしたものの騎士を罷免になって初の帰省である。気まずさももちろんある。だから正直ミコトと一緒に行けるのは心強くもあるのだが、サヤカはどうなのだろうか。町の観光をそれなりに楽しんでいる様子だったし、とマコトは悩んでいた。
「杞憂かもしれないけど、わたしとシュカは早く王宮に行かなきゃいけないの」
「ああ、そういえば昨日もなんか言ってたねえ。冬が長いのは俺のせいだとかなんとか、シュカが」
「ああ、あれ」
シュカがなんてことなさげに言う。話していいのかとシュリに目配せしてみせると、シュリが頷いて話し始めた。