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「ええと、まず……わたしたち、元は王宮の出なの。宮廷魔導士っていう、こう、国の魔法関連のあれこれをやるひとたちの子供で、小さなころから使用人としてお城に居たの。……ええとそれから、四季の塔には四季の精がいるっていうのは、みんな知ってる?」
 随分と飛躍した話ではあったが、サヤカとマコト、それからナフェリアは、流石にそれは知っていると言いたげに頷いてみせた。ミコトはどうやら事情に通じているようで、シュリと一緒に残りの三人を見渡している。
「四季の精には、その精霊のお付きになる『守り人』って人たちがいてね。一年のうちその季節だけ、四季の精と一緒に塔に籠ることになってるの。お世話をしたり、一緒に遊んだりする役割なんだ。あと、四季の変わり目に、四季の精を起こしたり寝かしつけたりするのも『守り人』の役目」
「……『守り人』は一生ものの役割です。四季の精に見初められたものだけがなれる特別な役割で、守り人が高齢になると、四季の塔に次代の守り人の候補となる数人の子供が連れていかれて……その中から、四季の精が『守り人』を選びます」
 サヤカの目が白黒としてきていた。複雑かつ、聞いたことのない話はすぐに頭には入ってこない。マコトとナフェリアも、何度も頷きながら一生懸命に話を聞いている様子だった。
 サヤカは、その話がどこへ向かおうとしているのか、それすら皆目見当がつかない。そんな三人の様子に、一度止まった話だったが、ナフェリアが先を促した。
 シュカが続ける。
「俺が、その……次代の『春の守り人』でした。攫われる一年ほど前に、俺も姉さんも魔力が強いからと候補になって、俺が選ばれたんです。そのあと攫われたんで、きっと別の人が選ばれたもんだと思ってたんですけどね」
「今年になって、なんだか冬が長かったから……もしかして、シュカがいないせいで冬が長くなってるんじゃないかってずっと思ってたの。でも、この気候だとそうでもないみたいだね」
「まだ鐘が鳴っていないことだけが不安なんですけどね」
「……おーい、兄貴にサヤカ。難しい話なのはわかるんだけどな、帰ってこい」
 立ち止まって頭を抱えたサヤカに、ミコトがあきれた様子で声をかけた。ナフェリアは何とか話を飲み込んだようで、斜め上を見て何度も頷きながら意味深に「なるほどね」と呟く。マコトは様々なことを言いたげに口をぱくぱくとさせていた。
「まあ、本当に春の守り人がまだ決まっていないなんてことはありえないでしょう。でも、気になるから早く王宮まで帰りたいんです。……両親に会いたいのももちろんありますけどね」
「ええっと……つまり、待ってね、シュリちゃんとシュカは、すごくえらいひと……?」
「そんなことないよ、ただの魔導士の娘。シュカは偉い立場になる予定だったってだけ」
「僕も正直なところあんまり理解できてない。けど、とりあえず直ぐにでも帰りたい理由はわかった、つもり」
「……ええと、まあいいさ。とりあえず複雑なんだね、事情が」
「さては誰も分かってないだろ。俺も理解するのに三日くらいかかったけど」
「……とりあえず僕は、シュリさんが、あまりにも想像を超えた壮絶すぎる人生を送ってきたことに驚いてます。攫われた上にロクス様の館に来たのは知ってたんですが、王宮の出なことまでは……」
 思考の限界を超えて疑問符が飛び交う六人に、シュリが笑って見せる。
「そんな深く考えなくていいのに」
「いや、その……」
「それより、ナフェリアさんはどうするんですか。旅の便利屋って言ってましたけど、これから行き先は」
「……どうしようか。あんたらについてくのが一番面白い気がするし、そうしようかねえ。とりあえずアルトンまでは一緒だ」
「……そうですか」
 シュカがそう言って前を向いた。サヤカはいまだ話が噛み砕けず、ぐるぐると考えながら一行に追いすがった。