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 もともとマコトたちが使っていたらしい部屋にサヤカたち女子が、そしてマコトの父親の部屋だという場所に男子が泊まることになった。荷物を適当に置いていた女子のところへ、ミコトの粗雑なノックが響く。
「父さんに取り次いでもらう話するから、シュリ来てくれー」
「あ、はーい!」
 言いながら、シュリが部屋から飛び出していく。そこにマコトの姿はなく、あれとサヤカは疑問に思う。彼はまだ居間に残っているのか、それともミコトたちの話が終わった後に自分の話をするのか。不自然に閉じられた扉を見つめるサヤカに、ナフェリアが「どうしたんだい」と声をかけていた。
 多少もやもやとしたまま荷物の整理をして、寝巻代わりのワンピースに着替える。部屋といえども、布団の敷いていない寝台がふたつあるだけなので野宿と同じように眠ることになりそうだ。屋根があるだけで全然違うというのはもっともなのだが。
 持っていた毛布にくるまって、壁に寄りかかるようにして寝る支度を整える。ただシュリたちの話の結果が気になっていたので、部屋にあった大きな窓から空を見上げていた。相変わらず雪が降り積もり、雲に覆われて星はひとつも見えやしない。月明かりの代わりに目に入るのは、街に吊るされた夜光石ばかり。
「なんで鐘が鳴ったのに、まだ冬なのかなあ。ナツはどう思う?」
「さてねえ。こんなこと今までなかったし、わからないよ。きっと宮廷魔導士が原因究明に大忙しさ」
「四季の塔の管理って、宮廷魔導士がやるんだね」
「……え、ああ、まあそうだね」
「そういえば、前……アルトンにいるときに言ってたよね。今の王女さまに双子の兄弟がいるのかもって」
「あー、言ったねえ。鐘が鳴ったってことは、まあ四季の塔の扉は開いたんだろうさ」
「じゃあ、双子の王子さまとか王女さまとかはいなかったってことかあ」
 残念そうに言ったサヤカに、ナフェリア揶揄うように笑う。
「居てほしかったのかい?」
「うん、なんだかロマンチックじゃない? ある日まではただの村人だったのに、いきなり自分がお姫さまーだとか王子さまだったーってなるんだよ」
「大出世もいいとこだね、確かに」
「お姫さまになるなんて、女の子の憧れじゃない?」
「サヤカもそのくちかい?」
「うん、まあ……美しいドレスを着て、どこかの国の王子さまと結ばれる、とかね。小さい頃に御伽噺とか聞いて憧れてたなあ」
「今なら、マコトがいるじゃないか。彼は十分王子っぽいだろう? サヤカ姫どの」
 にやにやと意地悪く口角をあげながら、ナフェリアがマコトとの仲を揶揄った。もう、とサヤカがナフェリアの肩をはたく。確かに王子然としたところはあるけれど、まさか自分がお姫さまだなんて大口をたたくつもりはない。
「お姫さまっていうなら、シュリのほうが似合うよ」
「確かに。ただあれだね、ミコトが王子っぽくない」
 真剣な表情で紡がれたその辛辣な評価に、サヤカは思わず声をあげて笑った。王子さまというよりはどこかの兵士とかのほうが似合いそうだなんてナフェリアが続けるものだから、サヤカの笑いは収まらない。つられてか面白かったのか、ナフェリアもひとしきり笑ってから、まとめた。
「シュリがミコトのお姫様だってことは確かだろうけどね」
「どんな話してたの、ナフェリアちゃん!?」
 そのタイミングで扉を開けて入ってきたシュリが、突然飛び込んできたその恥ずかしい台詞に思い切りよく返事をした。それがますます面白くて、何の話をしてたのと詰め寄るシュリに答える間もなくサヤカは笑い転げていた。