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「起こしてくれてよかったのに……」
「ごめんごめん、よく寝てたから」
 朝餉にと入った店の中で、いつもの服に着替えたサヤカが憮然としたような、恥ずかしがっているような表情でマコトに愚痴を吐いていた。生姜の効いたスープは体を芯から温めてくれるとはよく言うが、すでに朝から揶揄われまくったせいでサヤカはすでに暑かった。主に、マコトのローブをサヤカが持っていた件についてだ。女子だけの部屋に戻っても揶揄われ、マコトにそれを返しに行っても揶揄われる。何も言わなかったのはシュカだけであった。
「こっちの部屋に運んでこないところがマコトらしいというかなんというかねえ。サヤカを甘やかすのが生き甲斐なのかい?」
「気持ちよさそうに寝てる人を起こすのは悪いでしょ……」
「兄貴、そこにいたのが俺だったら?」
「……その底意地の悪い質問やめない?」
 パンをちぎって口に入れながら、マコトがミコトを白い目で見た。ミコトは面白そうに笑ってそれ以上の言及は控えたが、マコトは深いため息をついてみせた。サヤカはあちらこちらから自分の恥をつつかれているようで居心地が悪そうに頬を上気させていた。
 それは、全員が朝餉を食べ終わったあたりのことだった。食べるのが遅いシュリが最後にパンを咀嚼している間に、シュカが思い出したように鞄からなにやら取り出す。
「あの」
 シュカの真剣なその声色に、全員がぴたりと話をやめる。場が静まったのを確認してからか、言葉を選んでいたのか、しばらくの沈黙を置いてからシュカは喋り出した。
「姉さんから貰った、これなんですけど。みなさんでお揃いだって聞きました」
 そう言ってシュカが取り出したのは、メルバルでシュリが余分に買っていた青い腕飾りだった。ナツとシュカを除く四人の腕に今も嵌まっているそれは、シュカの手元にあるものだけが主を持たずにいるようだ。
「……これ、俺じゃなくて、ナフェリアさんにあげたいんですけど、駄目ですか」
「……あたし?」
「はい」
 話の矛先をいきなり向けられたナフェリアが、怪訝そうな顔で確認をとる。サヤカたちは文脈が見えずに疑問符を飛ばしていた。シュカが続ける。
「ひとときでも一緒に旅をしたことを忘れないようにって、姉さんは言ってたから。それなら俺じゃなくて、俺と姉さんを見つけてくれたナフェリアさんにあげたいなって」
「いや、だからあたしはなんもしてないって……サヤカたちと、シュリ自身の手柄だろう。あたしはその腕飾りをもらう資格はないよ」
「……姉さんたちが、俺にくれたものだってのはわかってるんですけど」
 ナフェリアのことを一切見ずに、シュカは続けた。
「ナフェリアさんと姉さんたちを繋ぐ確かなものが欲しいっていう、俺の我儘です。駄目ですか」
 シュカがそれを問うているのは、どうやらナフェリアでなくほかの四人であるようだった。サヤカはシュカが決めたなら賛成であるし、マコトとミコトもどうやらそうらしい。
 自然と、視線はシュリに集まった。お揃いで腕飾りをつけたいと言い始めたのはシュリであり、シュカにそれを送ったのもシュリだ。その神妙な雰囲気の中視線を受けて、シュリはぱっと答える。
「うん、いいよ。シュカがあげたいんでしょ?」
「うん」
「ナフェリアちゃんがつけててくれたら、わたしも嬉しいな」
 そう言って笑ったシュリに、シュカはほっとしたように姿勢を崩した。その神妙な雰囲気は崩れ、朝餉のゆるやかな時の流れが帰ってくる。ナフェリアだけが未だ取り残されて慌てていた。早速と言った風に腕飾りをナフェリアの手に押し付けるシュカに、慌てた様子でナフェリアが言った。
「いや、シュカ、いいよ本当に。気にしないでくれ、これはシュカのだろう?」
「俺があげたいんです」
「あたしには貰う資格はないよ」
「あります。もし今はないっていうなら、さっさと資格をとってください」
 その言葉に、ナフェリアはひどく困惑している様子だった。そこまで言われて折れたのか、ナフェリアはまだ躊躇った様子を残したまま腕飾りを受け取った。