王都を懐かしがる双子と姉弟に連れられて、サヤカたちは石畳の町を練り歩いていた。メルバルに負けず劣らず露店もあり、そして民家の合間にところどころ雑貨店や飯屋、菓子店などもある。サヤカは一年前にそれなりに観光したが、路地裏なんかには行ったことがなかったので新鮮だ。これで陽が出ていさえすればなあ、とサヤカは無責任に思った。
いきなり季節が冬に逆戻りしたことを、春の守り人だと名乗るシュカはなぜだか気にしていない様子で、楽しそうに街を歩いている。むしろシュリのほうがちらりちらりと白のほうを見て、城内にある四季の塔について気にしているようだった。大陸側の領地と半島側の領地をつなぐように広がる王都の中、その中心の東寄りの場所に城は建っている。背後に海、その両端を跳ね橋とする絶海の砦、リチアド王都ウェルハルトのその真ん中に鎮座しているのだ。もっとも、今は雪でほとんど見えないけれど。
朝餉を済ませてから数時間して、サヤカたちはマコトの家へと戻った。流石にずっとお世話になるわけにはいかないので、今晩は適当な宿に泊まるつもりだ。ただ、朝からベルが拵えてくれていたフィーザ家への手紙、それが届いたかどうかだけ確認に戻ると朝伝えておいた。家に着いたミコトが、無遠慮に扉を開ける。
「ただいまー」
きいと軋みをあげて開かれた扉の中には、なにやらすでに人影がいるようだった。ベル以外に三人、それも大人──思わず立ち止まったミコトに、後ろにいたマコトが怪訝そうに覗き込む。ベルより先にマコトたちに反応したのは人影のほうだった。
「父さん!」
ぱっと顔を明るくしたミコトが、一人の人影のもとへと駆け寄る。マコトもそれに続いた。マコトの後ろにいたサヤカが、恐る恐る中へと入る。
「おー、久しぶりだな二人とも! 大きくなったなー!」
わしゃわしゃと、ベルと同じようにマコトたちの頭を撫でるその男性こそがマコトたちの父親らしい。魔法騎士とは聞いていたが、想像していたよりも細身の男性だった。ミコトに似た少しの癖毛に、マコトにそっくりな金色の目。ふたりの端正な顔は彼譲りのようだ。そんな彼の後ろからふと顔を出したのは、いかにも研究者然とした大人二人だった。
相変わらずフードを被っていたナフェリアが、その大人二人を見てかフードを深くかぶった。それに誰も気が付かなかったのにはもちろん理由がある。サヤカの後からついてきたシュカとシュリが、マコトの父親の後ろにいる人影に向かって猛然と走っていったからだった。
シュリとよく似た女性が、駆け寄ってきた二人をぎゅうと抱き締める。女性の後ろに控えていた男性も姉弟の頭を慈しむように撫で、いつしかその女性まるごと包み込むように抱き締めた。彼らこそ、シュリとシュカの両親らしかった。
言葉すらなく再会を噛み締めているらしい一家の代わりにか、マコトの父親が微笑みながら口を開いた。
「フィーザどのには仕事を抜けてきてもらったよ。今は少し忙しいけど、まあ家族には代えられないさ」
よく俺に連絡するって思いついたなあ、とマコトたちより幾分か低い声で褒める父親にマコトは少し照れていたようだった。ほのぼのとした空気の中、その隣では家族の再会が繰り広げられている。
「お母さん、お父さんっ……」
シュカと再会した時と同じように泣くシュリに対して、つられてかシュカも泣き出していた。よく頑張ったなあ、ひさしぶりだなあ、と二人を慈しむ声が部屋に響き渡る。ナフェリアが、気を利かせてか開いていた扉をゆっくりと閉めた。
マコトが何を思ったのか、父親の手を逃れてサヤカの隣へと向かってくる。理由はもちろん簡単で、サヤカが家族と言うものに対して持っているらしい憧れと翳りが心配だったからというだけだったのだが、それをサヤカが知る由はない。いつかと同じように眩しそうにふたつの家族を見つめるサヤカの後ろで、ナフェリアが気配を消していた。