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 ひとしきり再会を喜び合ったフィーザ家が、ミコトとベルに勧められてソファに座っていた。泣き始めると止まらないらしく、いまだしゃっくりを繰り返しているシュリを、ミコトではなく今度は母親が慰めている。ミコトはシュリを気にしながらも、父親となにやら話している様子だった。ベルはまたミルクを温めているらしく、暖炉の前でなにやら動いている。サヤカとマコト、ナフェリアだけがぼうっとその場に立っていた。
「来てくれてありがとう、母さん、父さん」
「来ないわけがないじゃない。もう二度と会えないと思ってたのよ、それが急に生きているだなんて……全部ほっぽって、ヴァールもついでに引っ張ってきちゃったわ」
「グリディアの生真面目が役に立ったね。普段おとなしいグリディアが騒ぐものだから、僕も一緒に抜けるって言ったときもだれも止めなかったよ」
「母さんらしいね」
 話しながらも、シュカもまだ鼻を鳴らしている。真っ赤に目を腫らしたシュリに、ベルがそっとホットミルクを渡す。こちらは喋る元気も起きないらしく、ぺこりと深くお辞儀して受け取っていた。
「お母さん、えっと……あの、シュカ、の守り人の話って、どうなったの」
 ホットミルクを一口飲んだシュリが、つっかえながらもそう問いかける。未だ雪の降るこの季節に疑問を覚えていたのだろう。グリディアと呼ばれた母親は、目尻の涙をぬぐいながら答える。
「まだ後任は決まってないわ。冬の守り人の方が春の精霊にも認められたから、一時的にその方が守り人になってるの。ただ、今春からのはずだったんだけどね」
「……まだ決まってなかったの?」
「ええ、春の精霊が……多分、まだシュカが生きてるって知ってたんでしょうね。どの新しい候補の子も嫌だって拒否してたの」
「じゃあ、来年から、シュカになるのかな。そもそもわたしたち、お城に、戻れる?」
「もちろんよ。戻れるわ、魔導士の道に」
 うんうん、とグリディアに比べれば気の弱そうな父親・ヴァールが頷く。そこで、父親と話し終えたらしいミコトが軽い口調でシュリに続けた。
「それじゃあ、思いっきり雰囲気変えないとな。王宮なんて、ロクス様のところで会ったことあるやつがいてもおかしくないだろ」
「あはは、そうだね。髪でも、切ろうかなあ……」
 前後を知らないグリディアとヴァールが首を捻った。泣きながらそうミコトに答えるシュリは、あとですべて説明しないとなあと考える。話は長くなりそうだ。