08

 僕も王都に向かおうとしてたんです。
 もう一度歩き始めてからそう言ったマコトは、どこかサヤカに気を使っているようだった。降り注ぐ太陽の光のせいで、雪景色がやけに眩しい。
「じゃあ、とりあえずの目的地は同じですね」
「ええ」
 ふたりの会話は、そこでぱたりと途絶えた。
 地図を広げたサヤカと、自分の方位磁石を見るマコト。右をちらりとむけば、彼の手の中にある随分と使い古されたそれが目に入る。方位磁石の意匠は古い文様で、その間にはなにやら石がはめ込んであるようだった。沈黙に耐えかねて、サヤカはそれを話のきっかけにしようと顔を上げる。半歩ほど先に歩いている彼に、「あの」と声をかけた。マコトが振り向く。
「その方位磁石、……っいた、」
「サヤカさん?」
 怪訝な顔でマコトがサヤカを覗き込む。左手首を抑えたサヤカに、「ちょっと見せてください」と前置いて手を取った。マコトの指先がやけにつめたく感じる。
「……腫れてるじゃないですか」
「さっきまでは全然……」
「どこかでひねったんでしょうか」
「あー……さっき、落ちたときかも……」
 サヤカがそういうと、マコトは眉を潜めた。何とも言えない表情に顔をゆがめる。
「痛みは」
「動かすと少し痛いです。でもそんなに腫れてないし、包帯だけ巻いて固定しますね」
「そうしましょう。とりあえず心臓部分より高く上げておいてください」
 言われたとおりに手をあげる。どこか落ち着ける場所でちゃんと手当てしないと、とマコトが続けた。サヤカは周りをぱっと見渡して、向こうのほうに見える大木を指さした。
「あの下あたりでどうでしょう」
 いいですね、と続けたマコトが、先に立って歩き始めた。