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 メイクラシアの首に光る夜光石の光に気が付いてか、四季の塔の前に集まっていたらしい一行から一人が駆け寄ってきた。大した距離でもないはずが、四季の塔の周りはもはや一寸先も見えないような吹雪だった。四季の塔の入り口に光る夜光石と、マコトの夜光石を頼りに進んできたのだが、方角があっていて安心した。
 駆け寄ってきたのはナツらしかった。メイクラシアがぱっと顔を明るくして、ナツの名前を呼ぶ。
「メイ、サヤカ。よかった、道は間違えなかったみたいだね」
 その言葉に、メイクラシアがあからさまに不満そうな顔をする。どうやら心当たりがあるらしい。ぷいとそっぽを向いたメイクラシアに、ナツが苦笑した。
「あの、ナツ」
「ん、なんだい」
 サヤカの声に、ナツはいつもと変わらない調子で答えた。ただ、その声色がいつものような諧謔を帯びていないことが分からないほど、サヤカは鈍感ではない。こっちだというかのようにサヤカたちを誘導するナツに、サヤカははきはきと続けた。
「今朝はほんとにごめん、言い訳でしかないけど、混乱しちゃった」
「ああ、気にしないでくれ。あれはあたしがずっと隠してたのが悪いんだから、謝るのはこっちだろう」
「ナツが謝る必要なんてないよ。私のことを考えてくれてたんでしょう?」
 ナツが面食らった顔でサヤカのほうを振り返る。朝と違って、サヤカはしっかとナツを見つめていた。視線がゆっくりと絡み合う。
「私の真実を教えてくれてありがとう。ここまで連れてきてくれてありがとう」
「……いや、そんな」
「ナツがいなかったら、私はほんとの家族と会うことも、両親と本音でしゃべることもきっとできなかったよ」
 そう言ってサヤカは柔らかく微笑む。風が三人の間を吹き抜けていった。メイクラシアは、そんな二人をただ見つめていた。
「……そうかい。それならいいんだ」
 ふにゃりと、ナツは気の抜けた笑みを零した。サヤカとメイクラシアが同時に面食らった顔をしたのを、ナフェリアが笑いながら指摘した。
「あんたら、声もだけど……驚いたときの表情がまったく同じだね」
 いつの間にか、すぐそばに仲間たちが居た。ナツのその声に、ミコトが反応する。
「確かに。さすが双子だな」
「うん、サヤカちゃんと王女様、声だけだったらそっくりで見分けられないや」
 メイクラシアの夜光石の光を頼りにしているようだった。次々と駆け寄ってくる人たちは、口々に王女とサヤカについて述べる。その優しい口調の中に、サヤカへの心配が詰まっていることに気が付いて、サヤカは笑った。安心して、という気持ちを籠めたつもりで。
「そろそろ塔に入りませんか。風邪ひきますよ」
 メイクラシアと対峙しても怖気づくことなく、シュカがあっけらかんと述べる。たしかに吹雪は勢いを増し、サヤカの帽子の上にも相変わらず積もっているようだった。一度帽子を脱いで雪を払うと、シュカに同意するように頷いた。
 その言葉にこくこく、と大袈裟に頷いて見せたメイクラシアが、先に立って四季の塔の入口へと歩いて行った。するりとサヤカの手からメイクラシアのぬくもりが消える。ざく、ざくと足音が立ち、雪景色にメイの姿が紛れていった。