ほっとかない

ただ今さつきの横を歩いているのは、同じクラスの白布賢二郎。

彼はバレー部のレギュラーメンバーである事で比較的名の知られている人だ。さつきも1年の頃、違うクラスであったがバレーが上手いことやその容姿の良さから、よく噂で名前を聞いていた。
そして2年に学年が上がった時、同じクラスになった。さつきとは真反対であるが故に、別世界の人なんだろうな、とクラスにいることに対して気にしてはいなかった。さつきが保健委員会に入り、男子枠を求めている時に彼が手を上げるまでは。

そうして今日の委員会が終わり一緒に教室へ帰っているのだが

「白布くんって忙しいのによく委員会やってくれたよね」

なんて、前々から思っていたことを伝える。バレーの練習が大変ってよく聞くから、どの委員会にも入んないかと思ってた。と言うと

「立花さん困ってたし、別にそんな苦でもないよ」

なんてぶっきらぼうに言うが、その声の裏に嘘はないとさつきはなんとなく感じた。
2人の歩く音が廊下に大きく響く。外では色々な部活がそれぞれの目標に向かってひたむきに頑張っている。青春だなぁと思いながら、外をじっと見つめながら歩いていると

「外に立花さんの彼氏でもいた?」
「え、いや、そもそも彼氏いない、よ?」

サラリとそんなことを聞かれたが、苦笑いで答える。さつきが歯切れが悪くなってしまうのも無理はなく、実のところ彼氏という存在が出来たことは高校二年生になった今でもないのだ。年齢=彼氏いない歴、まさにその称号が今も尚手元にある。

「そうなんだ、外じっと見てたし、可愛いから彼氏がいてもおかしくないと思った」
「えっ!?」

白布は唐突にそんなことを言った。可愛い、そんな単語を軽々しく白布がいうようにも思えなかったのと、さつき自身のことを可愛いといったことに対して、さつきはただただ驚いた表情をするしかできなかった。

「俺だったらほっとかないのにっていうだけ」

そんな言葉を残して、白布は先に教室へ入っていった。彼にきっと他意はない。そう自分に言い聞かせるものの、どこか意識してしまう自分もいる。
新しい一面を見てしまったことと、その言葉の意味をずっと考えることになってしまった。







「立花さんおはよう」
「白布くん、お、おはよう」
今まで意識すらしなかった挨拶でさえ意識してしまう。勘違いでもいいから、意味でも聞こうと奮闘することになるのはまた別のはなしである。


作成日:2017/11/15
更新日:2017/11/15
back next


HQ-TOP / ivy