06.交わす暮れ六つ
どうして死にたいだなんて思ってたんだっけ。どうして死んでも良いだなんて考えてたんだっけ。どうして、死ねないことに絶望してたんだっけ。
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昼下がりの青空が窓の外に広がっており、暑すぎない程よい気候の中、私たち七人は執務室に召集された。急かされてなのか何なのか、平腹さんですら肋角さんの命令となると時間通りに集まっている。
私たち七人よりも背が高くて威圧的な赤い眸の肋角さんは、今日は煙管ではなくて葉巻で、しかし変わらずの紫煙を燻らせていた。その煙はこちらに向いていない上、匂いも伝わらないので、受動喫煙は避ける形となっている。そんな肋角さんと私たち獄卒を見守るように、灰青色の眸をした、これまた肋角さんほどではないものの、背の高い副長も今日はいるらしい。
「集まったか、お前たち」
「はい!」
全員が集まり、横一列に並んだのを確認した肋角さんは、私たちにそう言うと、それに対して声を揃えて返事をした。面倒臭がりの田噛さんですらだ。
こうして日頃任務に出向いている七人が集められるのは、初めてだ。具体的に言えば、私が来てからは初めてだろう。任務内容が深刻であれば全員が出向くこともあるらしいが、今日はそれで集められたのだろうか。すると肋角さんは、人差し指と中指で葉巻を挟み、一度口から離すと、そのまま話し始めた。
「今日は訓練を行う」
「はい!」
「は、はい!」
その内容が思っていたものと違ったので、ワンテンポ返事が遅れてしまい、恥ずかしくて消えてしまいたい衝動に駆られたが、他の獄卒たちはそんなことを気にしていない様子で、肋角さんも私を見て無言で頷いた。
訓練も、小耳に挟んだことがある。定期的に行われる、実践での動きを鍛えるためのものだそうだ。私が入ってきてからは、ペースが少々崩れていたらしいが、基本的に週一で行われるものらしい。相手は肋角さんや同じ獄卒だったりするらしいので、手を抜かれることもないし、実際に亡者や怪異よりも強いため、とても身になる訓練だと聞いている。佐疫さんは確か、以前は鬼ごっこをしたと言っていたが、今回は何をするのだろうか。期待に不安、緊張を抱えていると、肋角さんがまた葉巻を咥えて煙を口の隙間から洩らしながら、説明を始めた。
「今日の訓練は、お前たち七人に二チームに分かれてもらう」
「はい!」
「そしてお互い殺し合ってもらう。と言っても回復に時間がかかるから、今回は実際に攻撃するわけではない」
実際に攻撃するわけではないのに、殺し合うとはどういうことだろうか。この殺す、というのも比喩であろうが、私が思い浮かべたことはというと、谷裂さんとの日々の鍛錬のようなものだった。
肋角さんは私の疑問を汲み取ったのか、災藤さんに目配せをすると、それに対して頷いた災藤さんが、手に持った袋から何やらを取り出した。
「お前たちには今日は自分の武器じゃなくて、ここに入ってあるのを使ってもらうよ。と言っても、武器自体はお前たちが普段使っているものと同じだし、感触もおおよそ同じにしてあるからね」
大きめの袋から出てきたのは、確かに私たちが普段使っているものと何ら遜色のないものだ。刀や銃、ツルハシを模したものであるが、細かな装飾などがわずかに異なっている。各々の武器を手に取るが、皆も同じことを考えているだろう、本当に私たちが普段使っているものと重さや触り心地はほとんど同じであった。しかし、引き金を少し引いてみると、軽さが異なっていた。
「もう気がついたかな。銃を使う二人は引き金の軽さが、他の五人は素材が少し異なっているんだよ」
「これでどのように殺し合いを?」
「これを付けてもらうよ」
そうして災藤さんが手に持ったのは、ペンキの缶のようなものだった。確かに、ここに入ってきたときにいつもないものが増えていたので気になっていたけれど、このためのものだったのか。
「速乾性じゃないから、ちゃんと付けられるよ。これを各々の武器につけるんだよ。銃だったら弾の代わりに入れて、それで急所を攻撃できたらその時点でされた方は館の前に設置した檻の中に入っておいてね」
ペンキと共に渡されたのは、シールのようなものだった。なるほど、これが今回の急所になるらしい。それを心臓の位置、左胸に貼ると、各々が武器を一旦外し始めた。佐疫さんだけ、外套の上から貼るとひらひらして不安定なので、外套の左側を肩に乗せる形にした。私はまだ任務外だと武器は部屋の方に置いているし、そもそも一挺しかないが、佐疫さんなんて普段から外套に何挺もしまい込んでいるらしいので、一つ一つ置くのが大変だ、なんて見ていると、どういう仕組みになっているのかわからない特注の外套を脱いだかと思えば、新しい外套に今回の訓練で使う銃を一つ一つ入れ始めた。
「相変わらずすごいね、佐疫の外套は」
「特注だからね」
感心する木舌さんに、当たり前のようにそう言いながらも外套の釦を留める佐疫さんだが、最近になってようやく慣れてきたものの、初めて外套にたくさんの物が吸い込まれていく様子を見たときは、誇張なしに目が飛び出しそうであった。まるでどこかの猫型ロボットのポケットのようなものが、目の前に存在しているのだから。
「では、準備ができたら外で集合だ」
「はい!」
配布された武器に各自でペンキを付けていく中、私も合わせてシリンダーや弾倉に赤いペンキを注いでいった。
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肝心のチーム分けはこうだ。佐疫さん、田噛さん、谷裂さんがAチーム、そして私、斬島さん、平腹さん、木舌さんがBチームとして振り分けられた。私が四人の方に入ったのは、まだ他の六人に比べると実戦経験がなく、さらには初めての訓練だからだろう。
開始の合図があるまで、片方のチームから離れた場所で隠れて待機という形を取っており、私たち四人は木陰で作戦会議をしている最中である。
「頭脳派二人があっちにいるのが怖い……」
「大丈夫だよ飢野、田噛はやる気がなければそうそう頭を使わないさ」
訓練だからやる気は出してもらいたいけどね、と苦笑を零す木舌さんであるが、他にも不安はあった。
まず一つ、佐疫さんの武器だ。私たちのチームの四人は、一つの武器しか使わない。獄都に来てひと月近くになるが、私も結局初めに手に取った銃から変わることなく、同じものを使い続けている。それに比べて佐疫さんは、色々な種類の銃を使い分ける上、その命中率も申し分ない。私もそんな佐疫さんに普段は射撃の練習に付き合ってもらっているから使い慣れてきてはいるものの、佐疫さんには到底及ばないのだ。
「おれは飢野の狙撃も大したものだと思うよ」
「ああ。いざというときに決めてくれることが多いな」
「お褒めの言葉光栄です……」
そして、武器を二つ以上使うといえば、田噛さんだ。鎖は直接攻撃の武器としては少し弱いので、今回の訓練での使用が許可されている。あの鎖に何度かお世話になっているからわかるのだが、やはり強く縛られた際の身動きの取れなさは異常である。なんだかんだで普段は手加減してくれているのだが、本当に緊急事態ともなると強く縛られざるを得ないため、あの絶妙な痛さも経験済みである。まあ、本気ではないだろうし、本気ですることも対獄卒や人間ならばないだろう。
「うーん、おれは田噛に縛られたことがないからわからないけど」
「俺もないな」
「……私は助けてもらうときによく引っ張ってもらいます」
「オレも田噛に怒られるときによく吊るされるなー」
あれ地味に痛ぇんだよな、と呑気に話す平腹さんに共感をしようとしたが、もしかすると田噛さんの鎖に縛られたことがあるのが獄卒の中でも私と平腹さんだけなのではないかと考えて、平腹さんには失礼だが、共感したい気持ちよりも恥ずかしさが勝ってしまったので、自制した。
それから最後は谷裂さんだが、シンプルに怖い。一番手合わせをしているから癖は把握してきているが、武器の見た目もあってなのか、まあ怖い。見た目だけならば木舌さんの斧も大概であるが。しかしまあ、今回の訓練では見かけだけで、直接殴打されて気絶したりなんてことはないので、あまり怯えずにいくことにしよう。
「谷裂さんは絶対に斬島さん狙いですよね」
「それだけは間違いないなあ。斬島、囮にでもなる?」
「別に構わん」
あとはこちらのチームの話になるが、平腹さんの動きが未だに読めない。正面突破するのか、それとも律儀に隠れて待機してくれるのか。平腹さんはあまり言うことを聞かないイメージだから、きっと綿密に作戦を練っているであろう向こうに比べると不利かもしれない。
けれど、その場の瞬時な適応能力も大切だ。恐らく司令塔である佐疫さんから倒すことを決めたとき、合図の笛が鳴り響いた。
「制限時間はなしだ。それでは、始め!」
肋角さんの合図と共に、私たち四人は陰に隠れたままじりじりと前方へと進んでいく。そして向こうの様子を確認すると――
「えっ、普通に立ってる」
「向こうは谷裂が囮なのかもしれないな」
相手チームの待機地点とこちらの丁度真ん中で、金棒を大きく構えた谷裂さんが堂々と立っていた。堂々すぎて清々しい。きっとこの感じは、谷裂さんに突っ込んでいったらどこかにいる佐疫さんあたりに攻撃されて、
「ラッキー! 谷裂もーらいっ!!」
「待って平――」
木舌さんが止めるのも聞かずに、シャベルを構えた平腹さんが正面突破だ。ああ、絶対やると思った。あんなに正面から、いや、谷裂さんはああいうの好きだと思うけど、今囮作戦だって話をしていたのにあの人は。木陰から残った三人で様子を見ていると、案の定だった。
「ほ?」
「あーあ……」
飛び出していった平腹さんが間抜けな声を出すと、その左胸がすぐさま赤に染まった。やはり佐疫さんが草陰かどこからかスコープで狙っているのだろう。左から飛んできたから、左の草陰のあたりだろうか。平腹さんが谷裂さんに怒っている様子が見えるが、谷裂さんは特に何もしていない。私がいるにも、三対四でこちらの方が多くて有利だったはずが、すぐに三対三で同じ人数となってしまった。まあでも、平腹さんは普段から正面突破タイプだから、このような訓練は不向きなのかもしれない。
檻の方へシャベル片手にとぼとぼ歩いていく平腹さんを木陰から見守りつつ、作戦を立て直す。
「とりあえず、おれと斬島は近距離タイプだから谷裂を狙ったらまず佐疫にやられると思う。飢野、いけるかい?」
「え、えーっと、……私のも佐疫さんのと違って遠距離用ではないんですけど、」
「それでも十分さ。谷裂の注意を陰に隠れている飢野に引き寄せて、その間に斬島かおれが気配を消して攻撃しよう」
人差し指を立ててそう言った木舌さんに、斬島さんと頷くと、二人と分かれた。確かに、私が一発撃つだけで、谷裂さんの視線も、ついでに佐疫さんの注意もこちらに引きつけることができそうだ。だからと言って、命中させる気持ちは忘れずに、佐疫さんがいるであろう草陰の丁度反対側に忍び込むと、谷裂さんの左胸を狙った。もちろんスコープが付いていない拳銃なので当たるはずもなく、それでも命中率は悪くなかったので、標的からわずか逸れたところにペンキが付着した。
「そこにいるんだな、飢野」
思った通り、谷裂さんの注意がこちらに向いた。その間に私はその場から静かに離れ、佐疫さんを探すという役割になっている。木舌さんに親指を立てられたので、それを確認すると、三時の方向へと捌けた。谷裂さんはおそらく佐疫さんか田噛さんの指示で、囮作戦をとっているのだろうが、谷裂さんの性格上こちらに来ざるを得ないだろう。だから佐疫さんの方は今お留守に――
「……って、あれ?」
表に出ていないから忘れていた。佐疫さんがいるであろう方向に走っている最中に、やっと気がついた。
田噛さんが、どこかにいる。足音をなるべく立てずに、素早く足を動かす。田噛さんがどこかに隠れているはずだ。もしかして司令塔かもしれない、田噛さんは、
「……え〜…………」
これまた、普通にいた。立っていたとか、武器を構えていたとかそういうわけではないけれど、涼しい木陰で横になって、制帽で顔を覆って足を組んで、これは、寝ている。近くに武器があるわけではないし、規則正しい呼吸の音も聞こえる。やる気さえ出さなければ、とは聞いたものだが、ここまで油断して寝ているだなんて。二人で十分だ、なんて随分舐められたものだ。それから少しずつ近づいてみれど、半径一メートルの範囲に入っているのに起きる気配はない。
でもまあ、正々堂々と戦えば負けてしまうのは確定である。ごめんなさい、田噛さん。そう思って引き金を引いて――
「――わっ!」
「相変わらず甘ぇな」
帽子の隙間から夕焼け色が覗いたかと思った瞬間、覚えのある感覚だ。また右腕を伸ばした田噛さんの袖からは鎖が伸びてきて、私の腕ごと身体を拘束した。軽くホラーだ。ちょっと、前より痛いです。
身体を捩ってみても、もちろんその拘束から逃れられることはなく、またしても田噛さんの上に倒れ込むことになった。デジャブデジャブ、これ二回目です。
「俺がそんな単純なわけねぇだろ馬鹿」
「う、……」
「平腹に匹敵するぞ」
とても褒め言葉とは思えないそれを吐き捨てた田噛さんは、そのまま今回は私ごと身体を起こすと、左手で何やら後ろをまさぐって、そのままお決まりの舌打ちをした。ああ、手が届く範囲にツルハシがなかったのか。そのまま左手で頭を掻いた田噛さんは、私の手元に目を向けると、思いついたように左手をこちらに伸ばしてきた。
「借りるぞ」
「あ、……」
「別に自分のじゃなくてもいいもんな」
流石にこの至近距離なら使い慣れない銃でも、ましてや左手でも外すことがないだろうと考えたのだろう。私の手から拳銃を取り上げると、左胸に銃口を当てた。恨むなよ。そう言って田噛さんが引き金を引こうとしたとき、私の脳裏に一つの思いが駆け抜ける。生前から変わらない、プライドが高いゆえの、負けず嫌いゆえのそれだろう。
こんなところでやられたくない。
もう捨て鉢だった。引き金を少し引くその動作が目に入った瞬間、唯一自由に動かせる頭で、歯を食いしばってから、思いきり田噛さんに頭突きをかましてやった。目を見開いた田噛さんは、こんな動き、予想外だっただろう。私だってまさか自分がこんなことするなんて、予想外だ。人生で頭突きをするのも初めてで、思ってるよりも痛い。そのままよろけた田噛さんの左手から、拘束されて動かしにくい腕で素早く銃を取り返すと、田噛さんをまた押し倒した。それから徐々に田噛さんの左胸を撃てるような位置へと移動すると、鎖の合間から仕返しのように銃口を当てた。
「……私、平腹さんとは違いますから」
「あー……俺の負けだ。あと結構失礼なやつだな、お前」
的の中心を狙うと、田噛さんの左胸が赤く赤く染まったのを確認すると同時に、私を拘束する力が緩まった。ようやく身動きができるようになり、そこから立ち上がると、田噛さんは、やっとゆっくり寝れる、なんて言いながら檻の方へと向かっていった。
さて、他の人たちの状態はどうなっているだろうか。望ましいのは、谷裂さんがもう既にやられていて、あとの二人も生き残っている状態であるが、現実はそうではないらしい。
「いや……普通に捕まってるし」
館の方に目を向けると、平腹さんと谷裂さんのみならず、斬島さんと木舌さんまで檻の中に放り込まれていた。誰も聞いていないのにツッコミとして独り言を零してしまった。それから田噛さんも合流だ。おおよその予想だが、谷裂さんを殺った後、佐疫さんが二人とも、もしくはどちらか片方を撃ったのだろう。
なるほど。ともなると、一番避けたかった状況だ。私と佐疫さんの一騎打ち。近くに仲間がいない状況がこんなにも心細いだなんて。よりにもよって同じガンナーの佐疫さんだなんて。
「わ、私は遠距離タイプじゃないのに……」
「練習する?」
「うわあっ!」
一人泣き言を言いながら佐疫さんを探していると、どうやら佐疫さんが先程から皆を攻撃していたのは草陰じゃなくて、木の上だったらしい。一際立派な木の幹を背もたれに、枝部分に腰かけている佐疫さんが大きなライフルを片手にしていた。田噛さんのときも思ったが、今まで気配のなかったところからいきなり声をかけられたりするのはホラーである。肩が勢いよく跳ねてしまった。私も気配を消す練習をもっとしなければならないだろうか。
それでもいつもと変わらない柔らかい微笑みを見せた佐疫さんは、外套の中にライフルをしまうと、私と同じ型の拳銃を取り出した。フェアな戦いをするためか、それとも飛距離を考慮してだろうか。
「飢野の腕もすごく上がってきているよ。拳銃での狙撃だと俺より上なんじゃないかな」
「……お褒めに預かりありがとうございます」
「うん。でも加減はしないよ」
そう言った刹那、佐疫さんの目の色が変わった。あれは、任務のときに見たことがある。それだけでなく、私に射撃の手本を見せてくれるときだってそうだ。いつでも手を抜かない、本気の表情。
だったらまずい。佐疫さんがこちらに撃ってくるよりも先に、私が引き金を引いた。視界がぶれる。当たったかどうかなんて、考えている余裕もなく、そのまま反動で後ろに倒れて――
「そこまでだ」
閑かながらも厳かでよく響く肋角さんの声と共に、私の胸元を見やると赤いペンキが付いていて、それから木の上にいる佐疫さんの普段は隠れた左胸に視線を移すと、同じように赤いペンキが付いていた。
確かに私の方が先に撃った。佐疫さんが引き金を引くところなんて見えなかった。ということは――
「今回はAチームの勝ちだな」
「……あれ?」
肋角さんが放った言葉は、とても私の思っているものと違った。呆気に取られていると、佐疫さんが木の上から軽い音を立てて下りてきた。ふわりと外套が舞い、鬼なのにまるで天使のようだ。
佐疫さんが言うには、実は佐疫さんが引き金を引く方がコンマ数秒差で速かったそうだ。やはり佐疫さんには敵わないな。
「うー……悔しい……」
「しかし飢野の働きは大したものだった」
「うん、初めての訓練でここまでの動きと判断力はすごいよ」
それに加えて咄嗟なのに命中率も上がっている、と佐疫さんは自身の左胸を指さした。確かに、焦りながら撃ったにもかかわらず、的の真ん中付近を貫くことに成功している。それを見た瞬間に、嬉しくて堪らない感情に支配されつつあった。負けたのに、嬉しい。悔しいのに、達成感がある。
「どうだった、初めての訓練は」
肋角さんが最後に私にそう聞いたから、私は素直な感想をすべてぶつけた。
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その晩、今日は閻魔庁からの任務が一件も入ってこない平和な日だったらしく、ゆっくりとした時間を過ごした。それから、今まで断り続けてきたお誘いも、せっかくの休みだし、とどこか後ろめたさを感じつつも受け入れることにしたのだ。
「嬉しいよ、まさか飢野が乗ってくれるなんて」
「だって、人間じゃないなら歳は関係ないんでしょう?」
「ははっ、その通りだ」
夕食もお風呂も済ましてから、グラスにお酒をついでもらう。最初だから飲みやすいものをお願いして、甘い果実酒を喉に流し込んでいるところである。飲んだところから熱くなって、蜂蜜と果物の甘さが舌に広がっていった。飲みやすいものにしてもらったから美味しいのかもしれないが、ジュースと変わりなく、こんなに美味しいのならもっと早くから飲んでいれば良かった。
それからは木舌さんに今日の訓練の功績を称えられたり、あのときおれたちは何をしていた、だとか、それから日々の任務の話、他の獄卒たちの話など、本当に他愛もない話で盛り上がった。途中から、何を話していたかなんて自分でも覚えていないし、木舌さんが何を言っていたかも覚えていないが、身体が熱くなって、そのまま眠気を誘って、グラスを手に持ち机の上に突っ伏したまま瞼を閉じた。
その直前に、頭に色々な思いが駆け巡った。獄卒って、大変だけど楽しい。人間と違って、こうして周りを気にせずにお酒が飲めたり、殺し合いなんて物騒なことができたり、貴重な経験だらけだ。
私、どうして死にたいだなんて思ってたんだっけ。どうして死んでも良いだなんて考えてたんだっけ。どうして、死ねないことに絶望してたんだっけ。
本当に今、幸せだ。
そこで、完全に意識を虚空へと手放した。