支障しかない

 万国は、来月に行われるお茶会の準備に向けて、どこもかしこも浮き足立っていた。

 万国の女王でもある海賊ビッグ・マムが主催するお茶会には、世界中の裏社会の権力者達が集う。招待されれば決して断ることのできない、地獄のパーティー。だが、今回のお茶会は、平時のそれとは少し違っていた。何故ならば、外海に遠征に出ている子供達が全員、お茶会の日に合わせて帰国するからだ。なぜ、子供達はわざわざお茶会の為だけに帰国するのか。それは──

「カヌレ様。こちらのドレスはいかがでしょう?」
「こちらは?」
「この色違いなどはどうでしょうか?」

 鏡の前に立つ私。四方八方から伸びてくる腕が、色とりどりのドレスを私の体に押し付けてくる。もう、かれこれ2時間は同じことやってるんだけど。立ってるのも着替えるのもしんどい。何着着たと思ってんだ。

「綺麗な顔が台無しだぜ、カヌレ姉。ペロリン♪」

 からかうような声に、私は鏡越しに背後を睨み付けた。「おっと…美人の真顔は怖ェな」と返した弟は、飄々と笑った。

「カヌレ姉、あともう少しよ!」
「頑張って!」
「お姉ちゃん、すごく綺麗よ!」
「お姫様みたーい」

 愛らしい声は、私が向き合っている鏡から聞こえてきていた。鏡の中、すなわち“鏡の世界”には、能力者であるブリュレと共にカスタード・エンゼル・ブロワイエがいる。私が何を着ても「綺麗!」とか「似合ってる!」としか言ってくれないので、いまいち役に立っているのかいないのかわからないけれど、後ろで「ペロリン♪」なんてふざけた語尾で喋っている道化師よりはマシ。

「ありがとう。みんな」

 にこりと微笑むと、それを間近で直視した店員(女)が目をハートに輝かせながらひっくり返った。…この、同性さえ惑わす顔面な。ペロスペローと共にソファーに座っていたクラッカーが、「うわ……」と嫌そうに顔をしかめた。ドン引きだよな。わかる。

「おい。妹達には礼を言うくせに、付き添い兼荷物持ちのおれ達に礼はなしか?薄情な姉さんもいたもんだ」

 押し付けられたドレスを店員に突き返し、私は弟を見る目を細めた。

「お前が勝手に荷物持ちに立候補してきたんでしょう。クラッカーまで巻き込んで。…だいたい、誰のせいで買い物が長引いてると思ってるの?私の趣味とお前の趣味は違うんだから、お前はそこで黙って見ていればいいのに、あれこれ口出ししてきて、おかげでちっとも決まらない」
「それはあんたが優柔不断だからだろう?決まらねェなら、おれが決めてやろうか?」
「結構よ。お前が選ぶドレスは、ことごとく私の趣味じゃない」
「酷い言い種だな。おれは、遠征中の弟妹達から事前に聞いた希望を考慮して選んでいるってのに…」
「ドレスを着るのは私なんだけど?何でいちいちお前達の希望を聞かなきゃならないのよ」

 それにまともな希望ゼロだったじゃねェか。揃いも揃って美的センス狂ってんのか。まぁ、そうとしか思えない格好した奴もいれば、ほぼ半裸の奴もいるしな。 野球拳で3回負けたら全裸みたいな恰好してるもんな。誰がとは言わんけど!

 あぁ、疲れたしイライラする。何とか心を落ち着かなければと、私は深呼吸を繰り返した。



 結論から言えば、来月のお茶会のメインは、私の誕生日パーティーである。

 ママが子供達の誕生日パーティーを、こうも大々的に開くことはこれまでなかった。もちろん、さすがのママも我が子の誕生日は覚えているし、当日には「おめでとう」とお菓子をくれたりはするけれど、今回のようなパーティーは初めてだ。それは、私がママの長女であり第一子であるからこそ。来年のペロスペローの誕生日にもお茶会をぶつける気でいるし、ママにとって長女と長男は他の子とは少し違う存在なのだろう。
 
 今回のお茶会におけるママに次ぐ主役は私。だからママは私に、とびきり美しく飾り立てるように言いつけた。ゲストを楽しませるために、20歳を迎えて完成されつつあるヴィーラ族の美貌を思う存分披露しろとのことだ。 ママはマジで私のことなんだと思ってるの?…とか言いつつ、逆らう術がないので言うこと聞くけどね!


 そこで私は、お茶会で着るドレスを新調するために買い物に行こうとしたのだが、それに同行を申し出たのがペロスペロー(とたまたま近くにいたクラッカー)である。必要ないから断ろうとしたのに、ペロスペローがなぜか一切譲らなかったので、渋々許可したのだが。
 OKするんじゃなかったと後悔したのは、ドレスブティックに着いてすぐのこと。

「ここに書いてあるドレスを持ってきてくれ」

 私が口を開くよりも前に、そう言って店員にメモ用紙を突き付けた弟。何事?と思って尋ねようとする間もなく、「カヌレ様はこちらへ!」と試着室に連れ込まれ、あっという間に下着姿に剥かれた。と、先ほど弟に指示された店員が山ほどドレスを抱えて来て、試着するように言われてようやく、全てを察した。なるほど。ペロスペローが渡したメモには、店に用意させるドレスが書かれていたのか。十中八九、ママの命令だろう。

 誕生日に着るドレスすらママが決めるのか、と憂鬱になりながら、しかしやはりそれを拒むことは不可能なので、店員から渡されたドレスを見る。瞬間、私は絶句した。


 私が適当に手に取ったのは、背中は全開、胸元なんてほぼビキニ、というとんでもなくセクシーなドレスだったのである。驚いた私はそれが商品だと言うのも忘れて放り投げてしまった。気を取り直して、次に手にしたドレスは谷間が全開。その次のドレスはスリットがめっちゃ深い。パンツ丸出しになるじゃねェか。さらに次のドレスは体のラインにぴったり過ぎて、出るとこ出てる体型──自分で言うのもなんだが、ママのダイナマイトバディを見れば私も似たようなもんだってわかるよね?──の私が着ればちょっと下品になり過ぎる。特に胸と尻が。最後のドレスはフリルやリボンが多くて、私が着るにはロリータ過ぎた。……えっ?

 私に、“清楚で上品で儚い女”を求めるママが選んだドレスな訳がないはず。と言うことは……

「…全部お前の趣味なの?ペロスペロー」

 まさか最も長く共に時間を過ごした弟が、エロからロリまで網羅したえげつない性癖の持ち主だったなんて。しかもそれを、実の姉に着せようとしているなんて。業が深すぎて対処できん。する気もないけど。

「そんな訳ねェだろ」
「だよね。…よかった」
「おれはフリルとリボンのドレスを推してんだ。他のはカタクリ達とアマンド達の要望だ」

 なっっっんもよくねェ!日頃から「センスやばない?」と思う装いをしている弟が多数いるのは薄々気になってたけど、やっぱセンス狂ってたわ。そして業も深い。
 
「…あんまり聞きたくないけど、誰がどれ?」
「スリットの深いのはカタクリ、胸元が全開なのはダイフク、ピタッとしたデザインのはオーブン、背中も胸も全開なのはアマンド達だ」
「頭大丈夫??」

 いやいや、まぁ趣味趣向は個人の自由だよ?カタクリが脚が好きでも、ダイフクが胸が好きでも、オーブンが尻が好きでも、私は構わない。でも、それを実の姉に着せようとするな!アマンド達のに至ってはもはや何だよ!!

「酷いな。弟妹のお願いを叶えてくれねェなんて」
「姉に痴女になれってお願い?」
「おっと、未成年の可愛い弟の前でそういう言葉はナシだぜ」

 クラッカーの耳を塞ぐ動作にイラっとさせられる。お前も未成年だろ。成人すんの長女の私だけだろ。寧ろ精神年齢は成人どころかババアの域だわ。

「カヌレ姉のドレス選びの話をしたら、あいつらから、「姉さんに是非着て欲しいドレスがあるから、買い物にぺロス兄が付き添ってくれ!」と言われたんだ」
「……」
「みんな、姉さんの美しさをより際立たせるドレスを選んだんだ。…まぁ、カタクリ達のは、ただ自分の好きなドレスを選んだだけだと思うが」

 お前達の中の私は、背中も胸も尻も脚も露出してる痴女なんか??

「だが、コンポートとオペラ達はのってくれなくてな。…結局、おれと三つ子と四つ子のリクエストさ」

 今度何かお菓子を作って差し入れしてあげよう。

「私の為に色々考えてくれたのは嬉しいけどね、そもそもの前提がおかしいのよ。私、日頃こんなに露出多くないでしょう?」
「たまには違うテイストのドレスをと思ったんだ。少なくともおれはな」
「…お前が選んでくれたドレスはそれで納得するとして、カタクリ達が選んだのはどう見ても姉じゃなくて、酒場の女に着て欲しいドレスじゃない」
弟の女の趣味がよくわかるわ。
「わかりたくなかったけどね。まだ17のガキのくせに生意気」

 胸はわかりやすいからいいとして、17歳にして脚と尻に目覚めてるのヤバない?それより下の女の子達が、背中と胸全開のドレスを推してくるのも十分ヤバいけどな!そもそも、弟妹が姉ちゃんに着て欲しいドレスがある、ってのもおかしいけどな!!どうせヴィーラ族の体質のせいなんだろ!?なんかごめんな!!!

 脳内で八つ当たりをかまし、私は一番露出の多いドレスを見やる。

「アマンド達のは…一体どういうこと…?」
「「姉さんと一緒にお風呂に入った時、姉さんの背中がすごく綺麗だったから」らしい」
「……」
「それにカタクリ達は、「酒場の女が着ているのを見たが、カヌレ姉が着た方が似合うと思う」、「姉さんの方が脚が綺麗だしスタイルもいいから」、「純粋な興味として、姉さんが着るとどれだけ似合うのか見てみたい」だとよ」

 ……ヴィーラ族の体質が弟達の性癖をねじ曲げている件について。弟の性癖をねじ曲げる美貌。ひっでェ字面だな。ほんとごめん。 でも誰も悪くないんだよ?

「あいつらの言いてェことはわかるぜ。身内の贔屓目なしに、姉さん程の美人はそういねェからな。だよな、クラッカー?」

 突然兄に話を振られたクラッカーは、すっとんきょうな声を上げながらも、コクコクと頷いた。

「…あ、あぁ!カヌレ姉はおれ達自慢の姉さんだからな」
「あら。ありがとう、クラッカー」
「……おれも褒めたってのに」
「わかってる。ペロスペローもありがとう。もちろん嬉しいわよ。みんなが私のために・・・・・選んでくれたのは…」


 そう敢えて強調したのは、以前弟達が町を一つ滅ぼした際に、「私に褒められたくてやった」と言っていたことを踏まえてのことだ。私は学習する女なのでね。て言うか、学習しないと何の罪もない人が大勢死ぬから、学習しないという選択肢がないのよ。学ばざるを得ないよね。
 あの時私は、弟妹達の行動の根底には、私に喜んで欲しい、褒めて欲しいという感情があることを思い知った。それで本当に私が喜ぶのかどうか、実行する前に胸に手を当ててよく考えて欲しかったけどな。

 キャンディで窒息死させる、ジェリービーンズで脳幹をぶち抜く、魔神でスライスする、生きたまま焼き殺す等々の場面を見て、お前らの頭の中の姉ちゃんは喜んでのか?絶対喜んでねェだろ。
 それなのに、きっと私は喜んで褒めてくれると思い込んでいる彼らは、己の所業をとても誇らしそうに語ってくる。弁舌に尽くしがたい惨状を見せられたこともある。あの子達、絶対サイコパス診断した方がいいって!

 初めてあれを見せられた時は、顔の全表情筋が仕事をボイコットした。あまりのショックに思考回路がフリーズして、自分でもわかるくらいスンっと真顔になってしまったのだ。早く褒めないと!とは思ったものの、勝手に現実逃避しやがった頭ではろくな言葉を紡ぐことができず、私は無言を貫くしかなかった。
 しかし、私の一挙一動を全てポジティブに捉える風潮のある彼らは、「あんな凄惨な場面を見ても顔色一つ変えないなんて、さすがカヌレ姉!もっと頑張らないと!!」と思ったらしい。そんなアホな。おかげで、弟妹達の中に、「カヌレ姉=クールビューティ=シャーロット家の誇り」という方程式が爆誕した。もう勘違いの大渋滞。……これって悪いの私??


 逸らしていた目線をペロスペローへ向けると、弟は褒められたことに大変気を良くしたようで、見るからにご機嫌だった。こういう素直なところは、子供の頃から変わらず可愛いのに。 なんで人間って年取るんだろうね。素直で可愛かった弟が5mの大男に成長するんだから、時の流れ程残酷なものはないよね。…まぁ、今も素直ではあるし、可愛くないわけではないけども。

「でもね、やっぱり私はここまで露出が多いものは着れないし、フリルが多いのも年齢的に無理だわ」
「あんたなら何を着ても…」
「第一、ママが気に入らないかもしれない」

 別に嘘は言っていない。ママが日頃私に着させるのは、ディアンドル風な可愛らしい服が多いから、多分ママ的に私に似合うと思われているのだろう。私自身もすごく好き。だから、もしも弟妹達が推すお色気系のドレスを選べば、間違いなくママが却下する。
 シャーロット家の人間に言うことを聞いて欲しい時に使うフレーズ第一位の「ママが〜」を使うと、さすがの弟も黙り込むしかなかった──因みに第二位は「今日のメリエンダはなしよ」──。私をあれこれ着飾りたかったらしいブティックの店員も、鏡の向こうの妹達も。

「ペロリン♪…確かにそうだな。浮かれていて、すっかり忘れていた」
「でしょう?だから、いつも着ているようなドレスでいいのだけど…」
「でも、せっかくの20歳の誕生日に、普段と変わらねェってのは…」

 まぁ、言いたいこともわからなくはない。死ぬ気満々の身で言うのも、どの口が言ってんだって感じだが、20歳の誕生日は人生の節目である。確かに、いつもと違う特別感があってもいいのかもしれない。 …よし。

「…なら、こういうセクシー系のは一切無しで、私に似合いそうなドレスを持ってきて」
「おれが選んだドレスは候補に入れたままにしてくれ」
「それはいらない」
「……」

 そして私は、ブティックの店員達が各々勧めてくるドレス──一部ペロスペローの推しドレスもあったが──を何着も試着し、ママの機嫌を損ねない程度に私の趣味に合うドレスを探した。

 だが、目当てのドレスは一向に見つからなかった。妹達は何を着ても「可愛い!」と言ってくれるが、私的に胸元の飾りが気に入らなかったり、丈が短過ぎたり長過ぎたりで、満足いくものが全くないのだ。せっかくこれが一番マシだと思って妥協しようとしても、「これじゃ姉さんの魅力が半減する!!」と弟妹達ががケチをつけまくるせいで、また振り出しだ。

 ずっと立ったままで疲れが限界を迎えていた私は、何十着目かの試着を終えた後、休憩を申し出た。試着室から出てクラッカーの隣に腰を下ろす。ペロスペローが差し出してくれたコップの水を飲み干し、店内を見渡した。ここにあるほぼ全てのドレスを着た気がする。それでもこの場の全員が納得するものが見つからないということは、誰かが折れるしかない。弟妹達が折れてくれれば万事解決なのに。なぜ私よりも、この子達の方が私の外見に気を配るのか謎である。これもヴィーラの性がもたらす弊害なのか。

「…カヌレ姉、大丈夫か?」

 視線を下げれば、クラッカーが心配そうな目で私を見上げてくる。その優しい気遣いが嬉しくて、弟の頭を撫でながら「大丈夫よ」と微笑む。

「カヌレ姉。自分で決められねェのなら、クラッカー達に選んでもらうってのはどうだ?」
「?」
「ぺロス兄!」
「これまで試着したドレスは、おれ達が却下したものを除いてもいまいち気に入らなかったんだろう?」
「そうね」
「おれと三つ子、四つ子が選んだドレスは却下され、コンポートと五つ子は選ばなかった。…となれば、次は年功序列でクラッカー達三つ子が選ぶ番だろう」
幸い、カスタードとエンゼルも鏡の中にいる。
「三人でカヌレ姉に似合いそう、かつママが機嫌を損ねないドレスを選んでもらえばいい」
「なるほど…」

 確かに、煮詰まっている私が今求めているのは、まともな意見である。年功序列で言うのなら、次に発言権があるのはクラッカー達だ。三人がいいと言ってくれるなら、是非意見を求めたいところだ。 この際、私のドレスを選ぶ権利は年功序列である、という訳の分からない内容については目を瞑ろう。

「クラッカー、カスタード、エンゼル。私のこと、助けてくれる?」

 鏡の向こうの二人と、隣のクラッカーの目を見つめる。女の子達は「「もちろん!!」」と即答し、ブリュレと共に鏡から姿を現した。そのまま、店内に並んだドレスを見に走っていく。クラッカーは無言のままだ。突然のことにどうしていいのかわからないのだろう。そんな弟を見て私はふと我に返った。ちょっと待て。私何言ってんだ?男の子に頼むのは少し違うだろ。女の子はドレス選びを楽しめる子が多いかもしれないが、男の子はそうじゃない子の方が多いはず。クラッカーは痛がりの泣き虫だけど活発な性格だし、好きな女の子が着るドレスを選ぶのならまだしも、実の姉のドレスを積極的に選びたいとは思わないはず。だいたい、クラッカーはこの空間自体が落ち着かないようで、今日はずっとそわそわしているではないか。

 疲労とぺロスペローにのせられて、変なことを言ってしまった。申し訳ない。他の弟が私より真剣にドレスを選ぶものだから、感覚が麻痺していたらしい。

「ごめん、クラッカー。無理しなくていいよ。ドレスは、カスタードとエンゼルに選んでもら「おれも選んでくる!!」……えっ」

 私の台詞をぶったぎるように声を上げ、クラッカーはカスタード達の元へ飛んでいく。えっ、乗り気だったの? 全然そうは見えなかったけど…

 困惑している私を我に返らせたのは、ペロスペローの大爆笑する声。振り返れば、弟はキャンディケインを床に叩きつけんばかりに笑っていた。

「何をそんなに笑ってるの?」
「くくく……!!カヌレ姉、あんたやっぱり罪深いなァ!」
「?」

 何のことだと首を傾ける。確かに、“美しさは罪”を絶賛体現中だから、心当たりがないこともない。でも、今のやり取りの中になんかそれっぽいことあった?

「ただでさえ、大好きな姉さんに頼られて嬉しかったところに、あんな目・・・・で見られたら、そりゃあ一気にテンションも上がるだろうよ」
「あんな目?」
「あァ。こう、眉尻を下げてうるうるした子犬みてェな目のことだ。あんたよくやってるじゃねェか」
「嘘」
「何かお願い事がある時は絶対やってるぜ。ペロリン♪どうせ無自覚なんだろう?」

 「だから罪だと言ってんだ」と、ペロスペローは笑う。反対に、私は真っ青だ。まさか自分が知らず知らずのうちに、あざと女子の鉄板テクニックを、弟妹相手に披露していたとは!それも無意識で!これもヴィーラ族のせいか!?そうだよな?そうだと言ってくれよ!じゃなきゃ死にそう!家族相手に無自覚に色仕掛けとか!姉に無意識に色仕掛を仕掛けられていた弟達にはもう同情しかねェ!!弟の性癖が勝手に歪んだんじゃなくて、寧ろ私が歪めにいってるじゃねェか!!…惨めすぎる。死にたい。死ぬ予定あってよかった。

 私は今までで最も深い溜め息をついて、鏡へ顔を向けた。いっそ憎たらしい程美しい顔が見返してくる。ヴィーラ族が物語の上で悪役として描かれることが多いのは、この美貌がマイナスにしか働かないからだ。身内にさえ支障をきたし、幼気な子供の性癖をねじ曲げるなんて、最悪な犯罪者じゃねェか。まぁもうとっくに賞金首だけどな。生まれた時から海賊だし。

 一人心の中でズーンと落ち込んでいると、ドレスを選びに行っていた三人が戻ってきた。可愛い弟妹が選んでくれたのは、私の好みにぴったり、かつ弟妹達も納得、かつママの機嫌を損ねないまさに理想のドレスで、もう即決だった。ショックする真実が暴露されたものの、取り敢えずドレスを決められただけよかっただろうかと、私は無理矢理自分を慰めた。

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