それはそれ、これはこれ

 何の因果か「前世」での記憶を持って生まれた私、シャーロット・カヌレは、今日も弟妹達に加え今生の母親ママが毎年のように産み落とす赤ん坊のお世話に明け暮れている。「自分で世話しねェなら生むな!」と、ママに(心の中で)言いながら。

 今年生まれたのは、モスカート・マッシュ・コンスターチの男1女2の三つ子ちゃん。三人ともクラッカー達以上に大人しく、8歳になった最初の三つ子達に見習わせたい程手のかからない子達だった。要求があって泣いても、終わればすぐに泣き止んで眠る。…全ての赤ちゃんがこうだったら、世のお母さん達は子育てがぐっと楽になるだろうに。

「私、三つ子は凶暴な生き物だと思っていたけど、それはあの子達が例外だったんだと、最近思う」
「ペロリン♪おれもそう思うぜ、カヌレ姉」
「姉さんも兄さんも、カタクリ達には手を焼いていたものねェ」

 シャーロット家の長女・長男・次女が子守りから一時的に解放される、この時間。午後3時のメリエンダが始まる少し前、私達はキッチンで総料理長シュトロイゼンの手伝いをしていた。まぁ、手伝いと言っても、シュトロイゼンがママのためにお菓子を作る傍らで、子供達が食べる用のお菓子を作っているだけだが。
 その子供達、すなわち私達の弟妹達は、現在お昼寝中であり、ゼウスとプロメテウス ――ママのソウルを直接与えられた、言わばママの分身のような存在 ――が見守ってくれている。


 ソウルを入れるとはどういうことか、そもそも「悪魔の実」とは?と思ったのは随分と昔のことのようで、今となっては「当たり前」として受け入れられるようになっている。そうでもしなければ、ここではやっていけない。

「くくくく!!全く、あの三つ子は今でも変わらねェ。おれ達の…特にカヌレ姉の手を煩わせてばかり」
「かまってほしいんだよ。他の弟妹達もそうだけど、私達はみんな、姉さんのことが大好きだから」
「ふふ。ありがとう」

 子供に好かれるのは純粋に嬉しい。ペロスペローとコンポートはそれぞれ1歳、または2歳しか年齢は変わらないが、精神年齢で言えば私はアラサーなので、我が子でもギリギリ通用する年齢差がある。生まれて間もないモスカート達も、1歳違いのペロスペローも、私にとっては等しく“子供”だった。だから、可愛くて仕方がない。

「もっと大人しくしてくれるのなら、いくらでも一緒に遊ぶんだけど…」

 何せ、あの三つ子達は体が大きい。私より3つも歳下なのに、それほど背の高さは変わらない。抱っこができた期間も、恐らく彼らが最も短い。だが、それは仕方がないことだ。身体的な問題はそうそう解決しないのだから。
 だと言うのに、三つ子達はそれがどうにも気に入らないようで、未だに隙あらば私の膝に乗ろうとするのだ。見た目は可愛い子供だが、あの三人は揃いも揃って体の大きさと重さは可愛くないのだ。膝の骨折れるっつーの。ソファーでうっかり眠りこけてしまった日には、とんだ災難に見舞われる羽目になる。

「ついこの間のあれ……!姉さんは大変そうだったけど、三つ子は嬉しそうだったねェ」
「ちょっと、コンポート、笑わないでよ。ペロスペローが叩き起こしてくれるまで、本当に大変だったんだから」

 その時のことを思い出し、私は拗ねたような声で言った。



 それは、つい先日のことだった。
 赤ん坊組が軒並み眠ったので、少し休憩しようとソファーに座って本を読んでいると、同じ部屋の片隅で何やら揉めていた三つ子 ――昔は喧嘩する度に仲裁していたが、この頃は毎度止めに入るのも面倒だし、部屋を破壊さえしなければ殴り合いでも何でも好きにしてくれ、と思って放置していた ――が徐に近づいてきたのだ。何の用事だろうかと考えながら、それでも声はかけられなかったので気にせず本を読み進めていると、オーブンが私の右隣に、ダイフクが私の左隣に、カタクリが床、つまり私の足元に座ってきた。かと思うと、それぞれ私の方へ体を凭れかかってきたのだ。オーブンとダイフクは私の腕にしがみつき、カタクリは私の両足を全身ホールドして、膝に頭を委ねて。

(かっ、可愛い……!!)

 何食わぬ顔で読書を楽しみつつ、心の中でその可愛らしさに悶え狂う私をよそに、やがて三つ子たちはそのまま眠りに落ちた。どうも、昼寝の場所を探していたらしい。弟達が寝落ちたところで、私はようやく読書を中断し、その可愛い寝顔を眺めることに没頭していた。

 問題が発生したのは、それから30分と経たないうちだ。

「おっっっも……!」

 そりゃそうだ。弟達は私とそう身長が変わらない上に、横幅に至っては私より大きいのだ。しかも、赤ちゃんの時からだけどもアホみたいに力が強い。私の腕や足を締め上げる力の強さといったら。後で肌に痕が残るくらいには強かった。偶然通りかかったペロスペローが、「何やってるんだお前達は!!」とその頭を叩いて起こしてくれるまで、私は弟達の成長をこの身でひしひしと感じる羽目になったのである。




「元々の力の強さもあるのだろうが、悪魔の実の力によるところも大きいだろうな。ペロリン♪」
「でも、ペロスペローも能力者だけど、私のこと潰したりしないじゃない」
「おれの能力は力に頼るモンじゃねェ。繊細さが必要なんだ」

 …力業でないこともないじゃん、と思ったが、私は微笑むだけに留めた。弟は、母から受け取った力をとても気に入っているのだ。キャンディ好きが高じた結果、キャンディ人間になることができたのだから、気に入るのも当然かもしれない。
 それに、確かにペロスペローは能力者になってから、飴細工で様々なものを作ることができるようになったから、繊細が重要と言うのもあながち間違いでもなさそうだ。それを駆使した技も考えているようだし…私だったら、ただ“キャンディ作りが上手い人”になるだけだろうに。


 それにしても、弟達が次々と“悪魔の実”を食していくのに対して、長女であるはずの私はまだ何も貰っていないのは一体どういうことなのだろうか。まぁ、コンポートやアマンド達もまだなので、ただ年功序列に与えているのではなく、ママなりに私達に合う実を与えているのかもしれないが。とは言え、男兄弟と共に体を鍛えている妹達がいる中で、長女の私が一切武術を齧っていないのはいかがなものか。……もちろん、決してやりたい訳ではない。寧ろやりたくない。やらなくて済むのならそれに越したことはない。

 ……だってさぁ、できる?私中身がパンピーでチキンなので、殴り合いなんてしたことがないし、武道なんかも経験したこともない。そんな私がいきなり、戦場で一騎当千の武勇を誇れると思う?できるわけないじゃんね?
ママみたいにあんな…トマトを握り潰すように人を握り殺したり、踏み殺したり、一般人だった頃の記憶を引き継いで生まれてきてしまった私にできるわけがない。

 だから、今生でも「前世」の通り生きていきたい。人を殺すことも、殴ることもせずに。もちろん殺されることも、殴られることもなく。死ぬときは自分で苦しくないように、痛くないように、怖くないように死ぬからね。
 とは言え、あまりにも何の役に立たないとなると、それはそれでママから見放されてしまいそうだ。いや、ほら、だって流石に実の親に殴り殺されたり、寿命を抜かれたりするのは嫌じゃん?死ぬなら、なるべく痛くないように死にたいじゃん?ワガママなのは百も承知。


 死にたい。でも、痛いのも苦しいのも怖いのも嫌。かと言って、自分が誰かを傷つけたり、殺すのはもっと嫌。


 だから、決して戦闘向きではないけれど、それなりに有効な“悪魔の実”が欲しいのだ。なくてもいいけど、あったら便利!くらいの能力がいい。私がいざ死んだ後、みんなが不自由を感じないように。

 しかし、もう11歳になるというのに、私には未だママからのお呼びがかからない。どうしたものか。そんな都合のいい能力はそう簡単に手に入らないということだろうか。

「カヌレ姉!」
「ペロス兄!」
「コンポート姉!」

 ぼーっと考え事をしていると、キッチンの入り口の方から三つに重なった声が聞こえた。「んー?」と振り返ると、噂の三つ子が揃っている。一人ずつ長姉、長兄、次姉を呼んで…か わ い い !!!

「どうしたの?」
「カヌレ姉、今日のお菓子は?」
「ドーナツ?」
「豆大福?」
「焼き菓子?」

 全部それぞれの好物挙げただけじゃねぇか。可愛いなオイ。

 そんなうるさい脳内の声を無視して、私はにこりと微笑んだ。

「今日は、カヌレ・ド・ボルドーよ」と答えると、大喜びしたのはオーブンで、他の二人は残念がりこそしないが、少しテンションが下がった。
 だが、いやいやカタクリよ、一昨日のメリエンダ、ドーナツだったろ?それにお前、3歳のときドーナツの食べ過ぎで口が裂けたこと、忘れたわけじゃなかろうな??今は体がモチなので、口を開けるのに苦労はなかろうが、当時「ねえさん!カタクリが……っ!!」とコンポートに呼ばれて駆けつけた先で、口の両端を切ってだらだら血を流している弟を見たときは、悲鳴を上げる間もなく白目剥いてぶっ倒れたのはいい思い出である。
 そして、ダイフクよ、昨日は豆大福だったろ?何なら一緒に作ったろ??

 弟妹達が食べるお菓子は毎日日替わりで、ペロスペローから順番に兄弟の好きなものを作っている。今日はオーブンの番で、彼の好物は“焼き菓子”とアバウトだったために、ペロスペローやコンポートと相談してカヌレに決めたのだ。
 因みに私は、元々甘いものは人並みだったはずなのに、シャーロット家に生まれて甘いものに囲まれ続けた反動か、今生では甘いものがあまり好きではない。お菓子作りは前世から変わらず好きなので作るのはいいが、食べるのは専ら弟妹に任せている。弟達は、自分の好物を私に好きになってもらおうと思っているようで、無理矢理食べさせられそうになったことは数知れないが、基本的に甘いものは体が受け付けない。だってここの味付け特に濃いんだもん。


「ちょうどよかった。キッチンに来たなら、三人とも手伝って」
「手伝う!」
「「えぇー…!!」」
「ありがとう。オーブンはいい子ね」

 近寄ってきた弟の頬を撫でる。能力に影響されているのか、弟は普段でも体温が高いからとても温かい。可愛くて可愛くて、弟も嫌がらないからいいかと、いつまでも撫でていると、後ろからドスン!ドスン!と体当たりを食らった。背骨折れたかと思った。「こらっ!!」とペロスペローとコンポートが怒鳴る。

「カタクリ、ダイフク…お願いだからタックルかまさないで。お姉ちゃん、潰れて死んじゃう」
「カヌレ姉、おれも手伝う!」
「おれも!」

 「だからおれも撫でてくれ!」とねだってくるのは可愛いのだが、この子達もう8歳だよね?「前世」の弟は、8歳になる頃には私が構うと「姉ちゃんうるさい!」と相手にしてくれなかったのだけど。嬉しい反面、ちょ〜っと私への好感度高すぎでは?と思わなくもない。いずれ死んでフェードアウトしていく身としては、心苦しいというか何というか。

「今おれがカヌレ姉に構ってもらってるのに!」
「うるせぇ!!次はおれの番だ!」
「お前はさっさと退け!」

 ……まぁ、でも、可愛いから別にいいか。死にたい云々は別として、子供から好かれるのは嬉しい。それに、こんなに懐いてくれるのも今だけだろう。やがて反抗期やら思春期やらを迎えれば、姉離れしてくれるだろう。そのタイミングでフェードアウトできるのがベストだよなぁ…と思いつつ、私はペロスペローとコンポートが弟達をぶん殴ろうと、拳を構えるのを見ていた。

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