好感度にバグ発生中
ビッグ・マム海賊団の恒例行事である15回目の出産が終わった。
今回生まれたのは13女、14女となるモーツァルトとマルニエ。とても可愛い。去年生まれたモンドールも当たり前のように可愛い ――もちろん、全弟妹皆等しく可愛い――が、個人的には女の子が産まれるとより嬉しくなる。それは私だけでなく、他の妹達も同様のようだ。
「男の子より、女の子の方が比較的手がかからないからかしら」
クイーン・ママ・シャンテ号の子供部屋。ミルクを飲み終えたモーツァルトにげっぷさせようと背中を擦っている傍らで、モンドールに離乳食を食べさせていたアマンドが、ポツリと溢した。
「どうだろう。…未だにカタクリ達を越える問題児はいないけど、確かに男の子の方がやんちゃな傾向があるような……」
「でも、オペラ達はそうでもなかったじゃない?」
同じく、部屋の片隅でモスカート、マッシュ、コンスターチの遊び相手を努めていたコンポートが言う。
「生まれたのが五つ子だって聞いた時は、ペロスペローと二人ぶっ倒れそうになったけど、五人とも大人しくて本当に助かった」
見分けるのは大変だったけどね。
「それでも、一斉に泣く五つ子を宥めるより、三つ子の相手をする方がよっぽど大変だった気がする…」
遠い目をして答えると、「カヌレ姉さんは、相変わらず苦労してるわね」とエフィレが笑った。
そうなのだ。いくら子供好きとは言え、また弟妹やホーミーズの手助けがあるとは言え、子育ては重労働である。しかも、私が面倒を見なければならない対象は、新生児や乳幼児だけでなく、全弟妹達である。
シャーロット家の子供達の暗黙の了解として、「3歳以上の子供は弟妹のお世話を手伝う」というものがあるらしい ――ペロスペローとコンポート談である、そう言えばみんな3歳になったら自主的に下の子の面倒を見始めていたような ――が、そうは言っても彼らもやはり下の子な訳で。自分より年下の兄妹が寝付けば、今度は自分を構ってくれと寄ってくる訳だ。今でこそ兄らしく振る舞っているカタクリ達も、アマンド以下の子らがいない時は、今でも弟モード全開である。それはそれで、とても可愛いけど。
「カタクリ兄さん達が姉さんのこと好きなのは、今に始まったことじゃないじゃない」
「…まぁ、そうなんだけど」
「もちろん、私達も大好きよ。ねぇ、ブリュレ?」
アッシュに顔を向けられたブリュレが、人形遊びを中断して、私の元へ走ってきた。そのままトン、と腰に抱きついてくる。
「カヌレお姉ちゃん、大好きー!」
「あたしもー!」
「大好きー!」
ブリュレに便乗して、ブロワイエとカスタード、エンゼルも寄ってきた。それを見たモスカート達三つ子も集まり、あっという間に妹弟達に囲まれる私。ようやくモーツァルトがげっぷをしてくれたので、そっとベビーベッドに寝かせると、私を囲む子供達を抱き締める。…もう、みんななんて可愛いの。
「私もみんなのこと、大好きよ」
嬉しそうに笑うみんなの頭を撫でていると、それを見守っていたはずのアマンド達が急に声を張り上げた。
「姉さん!終わったら次は私達も!」
「ぎゅーってして!」
「頭撫でて!」
「「大好き」って言って!」
「……いいけど、今の「みんな」には兄妹全員含まれてるよ?」
「わかってるけど!改めて言って欲しいの!」
「…わかったから、大きな声を出さないの。モンドールがびっくりしてるじゃない」
自分に食事を食べさせていたはずの姉が、スプーンに離乳食をのせたまま大声を出すものだから、1歳になったばかりの弟は驚いて目を瞬かせていた。アマンドを嗜めると、妹はモンドールに謝りながら、止めていた手を再開させた。
私は、次はマルニエにミルクを飲ませるため、足元に集まっていた子供達に解散を命じた。各々が散っていくのを見、ベビーベッドで寝かされて私を見上げていた妹を抱き上げる。哺乳瓶を口に差し込んでやり、ゴクゴクとその喉が上下する様を見ながら、思う。
……なんでこんなに私への好感度高いんだろう??
小さい子達ならばわかる。基本的にお世話はしない主義のママに代わり、母親同然に愛し、世話をし、躾ているのが私だから、私に懐いてくれるのは納得だ。だがしかし、ある程度年齢を重ねた子達ならば、私が海賊という家業において一ミリも役に立っていない穀潰しであることが理解できるはず。戦闘はからっきしで弟妹よりも弱いし、頭もずば抜けていい訳でもなく、14歳になっても“悪魔の実”は私の元には回ってこない。「子育て」という役割を失えば、私には何の価値もないのだ。そんな穀潰し、見ているだけで不快になるだろうに。
だが、弟妹達は口を揃えて私を好きだと言ってくれる。一体なぜだろう。本当に小さい時、まだ記憶も定かでないような幼少期に面倒を見ただけだ。物心がつく頃になれば他の子達に相手を任せ、私が特に面倒を見るのは専ら0歳児から2歳まで。だから、私が彼らを世話した時間は、記憶に残っていないはずなのに… ――
「カヌレ姉」
ふと、入り口の方から名前を声がかけられた。カタクリだ。ブリュレの一件があってから、誰にもなめられないようにファーで口許を隠し、「クールにして完璧な男」を目指すようになったカタクリの登場に、弟妹達が湧く。そうそう。みんな、カタクリみたいな兄を慕いなよ?隙あらば自殺しようと目論んでるド屑な姉ちゃんよりさ……
「料理長が呼んでいる」
「何の用だろう。急ぎ?」
「今日のメリエンダで出すお菓子のことで、相談したいことがあるらしい」
めっちゃ急ぎの案件だった。メリエンダに出すお菓子が重要なのは、何もママだけに限った話ではない。私を除くシャーロット家の子供達は、総じて甘いお菓子が大好きだから、午後3時のメリエンダが遅れようものなら死人が出る。お菓子のために人を殺すなんて、そんなアホな…と言いたくなるが、あいにく我が家はそれが日常なのだ。そのせいで滅んだ国や町を、私はいくつも見てきた。
「わかった。コンポート、マルニエをお願い」
「もちろん」
妹にマルニエを預けて、私はカタクリと連れ立って子供部屋を出た。並んで歩いている間、もうすぐ到着する島では何が美味しいだとか、どこのドーナツが有名だとか、カタクリが話してくれる。お前はグルメ情報雑誌か。
「カヌレ姉は、島に着いたらどこへ行くつもりだ?」
「まだ何も決めてないよ。どれだけ滞在するかもわからないし、シュトロイゼンからお使いを頼まれるかもしれないし」
「そうか。おれ達もまだ何も決めてねェ」
「……」
何でも好きなことしなよ〜と思うが、弟がわざわざそれを私に話したということは…
「じゃあ、一緒に散策しようか?」
待ち望んでいたのであろう言葉を口にすると、弟は嬉しそうに目をキラキラと輝かせた。おい、「クールにして完璧な男」どこ行ったよ。可愛いけどな。
「あぁ、そうしよう」
声音はいつも通りだが、常に身に纏っているジャックナイフのごとき鋭いオーラが、隠しきれないほどふわふわしたものへ変わっている。私は気づいているけれど、敢えて指摘しなかった。私の前では、「完璧」でいる必要はないのだから。
ブリュレが傷つけられたあの時から、カタクリは他人だけでなく、家族にすら弱味を見せなくなった。それは別にいい。自分のやりたいようにやるのが一番だし、私もあの事件は生まれて初めて人に殺意を覚えたほどの出来事だったから、事件の間接的な要因 ――私達は誰もそう思っていないが、本人は「己のせい」と考えているようだ ――となってしまったカタクリが思い悩むのも無理はない。
て言うか普通、カタクリに敵わないからって、無関係のブリュレに手出す?しかも女の子の顔に怪我させる?そんなの、妹云々関係なく万死に値するよね。いつもならば、家族の破壊行為に「うわぁ……」ってなる私だが、ブリュレを傷つけたあいつらに限っては殺されても仕方がないと思った。…まぁ、カタクリ達が連中をぶっ殺したあと、ブリュレの怪我のことを知ったママがぶちギレて大暴れ ――ゼウスもプロメテウスもナポレオンも絶好調だったぜ! ――したのは、やり過ぎだった気もするけど。町には無関係な人の方が圧倒的に多かったからね。ブリュレの治療が終わって、動揺していた心を何とか落ち着けようと甲板に出て見ると、さっきまで賑わっていた町が一面焼け野原になっていて「何事……?」ってなったよ私は。
とにかく、この一件を受け、カタクリは己の浅慮を深く後悔した。私達は無論、大怪我を負ったブリュレでさえカタクリのせいではないと言ったけれど、家族想いのカタクリがそれで納得するはずもない。まぁ私達は、それまでのカタクリだろうと、「クールにして完璧な男」のカタクリだろうと気にならないので、それで本人が納得するのならばと彼の意思を尊重した。拒む理由もないしね。
「どこに行きたいの?」
「カヌレ姉の行きたい所、どこでもいい」
「……気を遣わなくても、カタクリ達の行きたい所でいいよ」
「カヌレ姉が一緒なら、おれはどこでもいい」
「…」
そういう台詞は姉ちゃんじゃなくて、未来の彼女か嫁に言ってやれよ。間違っても姉ちゃんに言う台詞じゃねェ……!
「…じゃあ、その人気のドーナツ屋さんに寄ってから考えようか?」
「あぁ」
これで、港に着いてからの予定は決まった。と言うか、決められた。たまには一人でぶらぶらしたいなぁ、という願いは叶ったことがない。なにせ、弟と妹が私から離れない。弟19人、妹14人もいれば、一人になる時間など存在しないのだ。みんな可愛いし一緒にいて楽しいけども、やっぱり一人の時間って必要じゃん?メリエンダが息抜きになるカタクリと違って、メリエンダが苦痛になる私には息抜きの場がない。一日の中で一人になる時間なんて、トイレに入っている時だけだが、トイレの時間は息抜きにはならない。つまり、私には自分のために使える時間がないのだ。いつか死ぬんだし、と自分を納得させてはいるものの、週1回30分でいいから、自由にして欲しいのが本音である。
ほんとに、なんでみんなそんなに私のこと好いてくれるんだろう。私はただ自分のためにみんなを可愛がっているだけなのに。もちろん、本当に可愛いと思っているし、本物の愛情はあるけどね。
「カヌレ姉」
不意に、カタクリが口を開いた。考え事をしていた私は、「んー?」と上の空で返事をする。
「おれも大好きだ」
「ぶっ!!」
そんなクールな声で、格好いい真顔で言うことかよ。ビックリし過ぎてめっちゃ唾飛んだし、今の今まで何を考えていたのか全部ふっ飛んだわ。
「どっ、どうしたの、いきなり……」
「さっき妹達に言っているのを聞いた」
「……あぁ、それで…」
いつから聞いていたのだろう。まさか混ざりたかったのだろうか。いや、いくらお姉ちゃんが大好きなカタクリと言えども、もう11歳なんだしさすがに……
「あとでアマンド達にもするなら、おれにも」
「……」
…あっ、混ざりたかったのね。
カタクリが立ち止まる。そして、つられて足を止めた私に向かって、両手を開いた。
……11歳の男の子が、14歳の姉ちゃんに、「ん!」ってハグを要求するのを見ると、姉心ってどうなると思う?ギュン!ってなるよ?普通の弟はどれだけ可愛がっても、次第に姉ちゃんの相手してくれなくなるからね?現に「前世」の弟は、今のカタクリくらいの年齢になった頃から素直に甘やかされてくれなくなったからね。「前世」で立派なブラコンでシスコンだった私は、その事実に三日三晩咽び泣いた。
それを考えると、この時ばかりは、シャーロット家のやや異常な家族愛に感謝である。
「甘えたねぇ……」なんて言いつつ、私は弟をぎゅっと抱き締めた。いつの間にか身長をやや抜かれたけれど、抱き締めている感覚は昔と変わらない。小さいときのままでかわい…
「あー!」
「またカタクリだけ!」
「カタクリ!兄を差し置いて、お前は!」
「カヌレ姉!おれも!」
「おれも!」
「ぎゅーってして!」
「抱っこ!」
「だっこ!」
「だっこー!」
どこから現れたのか、他の弟たちが寄ってくる。私が誰か一人と一緒にいると、毎回自然と他の子達も寄ってくるんだけど、みんなセンサーかなんかついてんの??
「ん"ん"っ」
次々とタックルしてくる弟達。私を取られたくないのか(可愛いなオイ)強まるカタクリの腕。極めつけに、身長差のせいでほぼ脛にダイレクトアタックを決めたヌストルテ、バスカルテ、ドスマルシェの三つ子…
可愛い弟達にもみくちゃにされ、みんな可愛いなぁと思いながらも、私はやはり再び感じずにはいられなかった。
やはり私の好感度はバグっている、と。
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