06月
前から行きたかったが男だけではなかなか入れなかった、念願の椿屋珈琲店のブラックコーヒーは、想像より濃厚で渋かった。可能なら角砂糖を2つ溶かしたいぐらいだが、目の前に座る栖原さんがブラックを悠々と嗜んでいるところを眺めると自尊心が許してはくれない。
せめてと、そっとミルクに手を伸ばしたら、栖原さんがシュガーポットから素早く角砂糖を1つ入れた。それを見てちょっとだけ心が軽くなり思わず笑ってしまう。彼女もこぼすように苦笑し、
「いつも職場で飲んでるブラックよりはるかに濃くて……、背伸びしようともまだまだ慣れませんね」
そう言って、スプーンを2周ゆるりと回した。コーヒーカップを覗き込んだ彼女の金に近い茶髪は3センチほど根本が黒い。
「俺も無理しすぎました」
ミルクへ伸ばした左手をすぐに進路変更し、角砂糖を2つ取り出してコーヒーへ投げ入れる。さらさらと円を描いて沈んでいく角砂糖。プライドがとかださいなあ、俺。
「意外に甘党なんですね、サングラス掛けてる人って甘い物摂取しないのかと思ってた」
「はは、なんだそりゃ。仕事のときは俺もブラックなんですけど、とか強がりをしてみたり」
気を取り直してもう一度カップに口を付ける。
「あの、」
気不味そうに栖原さんが口を開いた。視線がテーブルの端を泳いでいるし、頬が赤い。
「フォンダンショコラ頼んでもいいですか」
それはずるいだろ。
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