01



 深く青くて遠い空、寄せては返すターコイズブルーの海。 聞くものを安心させる細波の音。 
  
「……ここはどこだ?」   
  
白浜の上で左半身を波に晒し、仰向けになったままの俺は至って冷静だった。   
俺は確かに、つい先ほどまで大好物のアプリコットジャム入りのジンを嗜みながら曲を書いていたはずだ。記憶を辿れば辿るほど、この南国風の景色とは縁のないことしか浮かばず、考えに考えた末、出した答えは2つ。  
  
「夢か、死んだか」  
  
3日間寝ていなかったので前者の方が可能性は高い。いや、そうであってくれとの祈りを込めて、ここは夢の中と結論を出した。  
  
夢と無理やり結論つけたところで、どう目を醒ますか考えようと徐に立ち上がり、眩しく輝く水平線を見た。が、何かを目撃し一瞬静止する。  
水平線の手前に、金髪で長髪の女がゆっくりと沖を目指して歩いている。様子を見ている最中にも女は散歩のように歩みを続け、とうとう静かに海へ沈んだ。ただ素潜りをしてるのなら良いのだが、赤いカーディガンを羽織ったまま海に潜るだろうか。  
  
「入水……!」  
  
不穏な様子を察し、慌てて海に飛び込む。  
何年ぶりかわからない海の中で泳ぎ方も忘れ、無我夢中でただ単に先に見える赤い影を目指して進む。 
同時に、この自身の行動に既視感を覚えていた。 まるで今までも何度も何度も手を伸ばしたような。 
そう、金髪で長髪、赤いカーディガンと死にたがりの人。夢と分かっていても、見紛うことのないこの人は俺の、大切な……、 
  
「有栖川さ……ん」  
  
無事に抱えることはできたが浮かぶことはできず、一緒にゆっくり深く沈んでいった。  
  
薄れゆく意識の中、遠くなる水面が青い空を反射していて、自分の口から出る空気の泡さえも絵になってる。右に視線を落とせば、眠ったように動かない金髪の美女。 
溺れているのにも関わらず、この夢はもったいないほど綺麗だ。醒めるのが、とても惜しい。 





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