03



聞いたことのない鳴き声の鳥が囀る昼下がり。針葉樹が多い森の中、獣道を頼りに歩いていた。 
死んでも気づいたら必ず廃教会前にいる有栖川さん、というハルカちゃんの話が気になり、一応調べておこうと廃教会へ向かうことにしたのだ。 
酒場から東に1キロ歩く程度であの南国風の青い海に行けることも分かり、ちーちゃんとハルカちゃんが住む魔王城も森の奥に見える。世界全体の広さはディズニーリゾート程度であろうか、そうなると全体の規模的には大きくはないように思える。 
 
ハルカちゃんは有栖川さんが寝れないと言っていた。 
この世界では眠る都度、現実世界で普通に暮らしている夢をみるという。胡蝶の夢の話に似ている。 
俺の夢である説もまだ捨てがたいが、仮にみんなが共有した夢を見ているならば、集合的無意識というユング心理学にも通じる。仮にそれだとしても有栖川さんがこの世界で寝れないのは少し引っかかる。 
 
「う……宇宙について考えてるみたいで途方もなさすぎ、吐き気がする……。普段こんなに頭使わないからな」 
 
手持ちの情報では不確かな物が多く、考えても仕方ないと切り替えるように頭を振った。 
とにかくわかっていることといえば、現実世界の有栖川さんの自殺志願者思考はしっかり夢の世界にも受け継がれていて、ハルカちゃんは彼女が寝ようと思って自殺未遂を繰り返していると勘違いしていることだ。あの違和感はこれだと思う、多分。 
しかし有栖川さんはどういう理由で自殺未遂を繰り返しているのか全く見当がつかない。 
彼女のことだから、現実世界と同じ理由と思うんだが。 
 
「そもそも夢で死んだらどうなるんだ? 普通は目覚めるのがオチだが、この夢が俺の推測通り集合的無意識であるとすれば……」 
 
廃教会の前に差し掛かった時、狼に似た魔物が現れる。 
 
「ちょ、魔物出るとか聞いてないんですけど!」 
 
唸るのも束の間、この世界で戦う術も知らなかった俺は、たったのカミツキ1発で目の前が真っ暗になった。 
夢で死んだらなんて言って死亡フラグ立てすぎかよ、薄れる意識の中、他人事のように思った。 





 ←prev page next→



top