童話 人魚姫
冷たい水が肺の中に入ってくる。
誰も助けに来ない、助けるわけがない。皆自分が助かる事だけに必死で、古い国のお飾り王子など気にもとめまい。
むしろ、老いぼれたちにとって若いくせに意見する俺は邪魔でしかないのだ。
宮廷の料理にすら毒見役をつけさせねば安心して食べる事は出来ない。
本人が危ない目にあう危険がある事はしないのだから、その本人たちも乗っているこの船の事故は偶然なのだろうが。
ディオ「(くそ、頭を打った・・・意識が・・・)」
コポッ・・・
ディオ「(これは・・・絹?・・・いや、魚のヒレ?まさか、こんな大きさの・・・)」
霞んだ視界に揺らめく、何枚もの黒色のシルクのようなヒレから白く綺麗な人間の手が見えた。
俺の視界はそこで遮られ、唇に何かが触れて、口の中に空気が送られ、息苦しさが消えていく。
目の前には黒くつややかなまつげが飾られた、左右違う色の神秘的な瞳。
そのまま相手からわずかながら空気をもらい、水面から出た瞬間に一気に咳き込み、目をもう一度だけ薄く開ける。
炎の光に淡く照らされた目の前には、さっきと同じ黒色の髪をした少女が、眉を下げて俺の顔をのぞき、頬を優しく撫でてくれていた。
その相手に微笑むと、相手も笑い返してくれた様な気がした。
次に目が覚めたのは見慣れたベットの上だった。
聞けば砂浜に打ち上げられていたところを屋敷の下僕が見つけたようで、あの時溺れはしなかったものの、酸欠で意識を失ってしまったらしい。
ならば、あの後浜辺まで俺を運んでくれたのだから、誰か目撃してはいないかと思ったが、見つけた時には人影は無く、あの日の俺を助けた人物を俺の妃にすると言えば、次々と大勢の女が名乗り出てきた。
目撃者のいない、海から陸へと泳ぎ連れて来たというものは、みな自分だと言い張った。
しかし、その中にあの時見た黒い髪の、赤と青の目をした者は一人もいなかった。
我ら一族を欺こうとした罰として、そいつらは身分、家柄問わず俺の餌になった。
ただ一人だけ、自分が助けたものではないが助けたものが誰だか知っているという異国の者が、最後にこのディオの元を訪れた。
ワンチェン「我の名はワンチェンというね。しがない薬売りよ王子さま」
ディオ「ほぉ、してその薬売りがあの時の人物を知っているというのか」
ワンチェン「人物、と言うにはあやまりがあるね。そいつは人魚よ」
ディオ「人魚だと?」
ワンチェン「あの嵐を泳いでくる事人間には不可能!!
その人物、上は裸で、魚の尾ヒレなかったか?」
普通ならそんなおとぎ話は信じないのだが、あの姿はどう見ても人間のものではなかった。
それに、こいつの言う通り、あの日の嵐は船に乗っていた殆どを呑み込み、限られた者しか生存していなかった。
ついでにあの老害どもを消し去ればいいものを、我先にと逃げて来ていたのだろう。
そう言うやつらが生き残り、その他の力のない人間は海の藻屑となった。
ワンチェン「人魚は肉を食えば不老不死になると言われてるね。
そいつ人間助ける言うならつけいる隙があるね。
誘い出して捕まえるがよろし」
ディオ「ほぉ、何かいい案があるのか」
ワンチェン「この薬使うよろし。この薬使えば、一日だけ海の中でも呼吸が出来なくてもいきていられるね。
その間に、その人魚をあの入江までおびき出すといいね。
明日、その薬を飲んだ後、明後日!!我々はその入江にて捕獲の準備をして待ってるね。
勿論我々は人魚の腕一本でももらえればよろし」
ディオ「・・・わかった。その薬貰おう。
明日の夕方、この薬を使ってその人魚に会いに行く」
俺は薬売りからその薬を受け取ると、次の日の早朝に人が来ない洞窟内で薬を飲み、あの日出会った海底へと向かった。