晃の怪我も完治し、最初に出会った小路につれてきた。
いよいよ俺のそばから離れていくのかと思ったが、ただの散歩だとでも思ったのか、
晃は当たり前のように帰る俺の後ろをついてきた。

本当についてきて欲しくなければここで蹴飛ばすこともできただろうし、
何より手当てなんかするはずもない事を、この頃の俺は気付いていなかった。
この行為はただ晃が俺から一生はなれずそばにいてくれることを確認したかったのだと思う。


そしてその日から三年間ずっと俺たちは唯一の家族として生活してきた。
晃とは何か不思議な力で結ばれているように感じるほど息が合い、気が安まった。
最初は戸惑ったものの、本当の父にも母さんにも感じない不思議な感覚が晃にはあった。

一緒に生活して晃についてわかったことはたくさんある。
どうやら会話としての言語はわかるものの、文字を書いてみせると、どうやら理解が出来ないらしい。
今まで人間の会話を聞いていてもスペルを学ぶ機会が無かったのだろう。

なので簡単な単語を書きながら教えていくと、段々と文字を理解できるようになり、
つたなくも、文字盤を使った会話が出来るようになってきた。

また、チェスやカードのルールを教えれば相手にもなるし(まぁ俺よりは弱いが)
賭け相手がイカサマしようものなら僕に鳴いて目配せして教えてくれるし、良いカードの時は毛づくろいをして教えてくれる。


路上で子供だからと暴漢に狙われる時も一番に晃が気づいてナイフにも動ぜず攻撃するので、
いくら意表を突かれても応戦する事が出来る。
どうやら普通の猫以上に強くしなやかなくせに、そこらへんのネズミより気配には敏感らしい。

何より、あの夜感じたとおり、やはり町の猫を従えている事がわかった。
この前は猫がコインをくわえて晃に献上している場面を目撃した。
最初は光ものだからかと思いきや、直接晃からコインを何枚も受け取った時は、これは晃が指示したのだとわかった。

いぜん、のら猫どもに餌を分け与える母さんに苛立ちは消えないものの、同じ猫でも晃に食事を与える母さんの姿には苛立ちは感じなかった。

とはいえ、猫が拾えるコインも限られているし、食べ物も何故か晃は猫どもから受け取らず、俺が用意するものか、俺が食べられるぐらいの木の実や鶏しか受け付けなかった。
誰からか奪うわけでもなく、ましてや俺以外に与えるそぶりも見せない、今までにない不思議な存在だと感じた。

まぁ仕事の方も晃との連携もあり、確実に賭けに勝てるので、計画的に負ける事で以前よりも効率よく対戦相手がみつかる。

母が死んでからも、父が母のドレスを質に入れようとした時に止める事が出来たし、
お酒を買うお金をやりくりできたし、以前よりもいい食べ物も食べられるし、十分身なりも整える事が出来た。
何より賭け金が貯金に回せる事は俺にとっては大事なことだった。

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