目の前で、晃が涙を流している。
はじめて、晃を泣かしてしまった。
動揺が隠せない、涙・・・ディオ以上に感じるこの胸の苦しみ。
何に対しての涙か、わかるからこその苦しみが僕を襲った。
単純に怒ったことではない、怒鳴ったことでもない、「来るな」拒絶の言葉。

来る前に言ったわけじゃない。約束をさせたわけでもない。
彼はずっと異変に気付いていたのだから、こうなる事はわかっていたのではないか。

この怒りは弟を守り切れない僕に対する怒りだ。
彼を守ろうと一人で歩み進めていても彼は後ろから・・・いや、遙か上空から僕らを見守っているかのように、危機を察知して僕の目の前に来てしまう。

守りたい者の背中を、僕は何度見るのだろう。
君の愛を、僕は何度感じてしまうのだろう。

それでも、それでもここには来てほしくなかったッ

これから先にあるであろう決戦に。

晃を危険な目に合わせる事も、巻き込む事も、その戦いを見せる事も、ディオの元に行かせることも、ディオの仲間にさせられることも・・・僕が決着を付けることも。
考えられるすべてが彼にとってどういう事か


ジョナサン「これから僕らがする事、起こる事、予想は付いているだろう。
この先、僕らについてきたら、君の辛いことしか待ち構えていないんだ・・・」


目の前で震える弟の頭を撫でる。一瞬、怯えた表情を見せたが、僕の言葉にはっきりと答えてくれた。


『っ・・・僕はっ、傷を治すことしかできないけどッそれでもジョナ兄さんの役に立ちたい!』


これだ、彼の優しさが、今この場ではとても胸を締め付ける。苦しい。
僕の役に立ちたいと言う君に嬉しさと愛しさで内側から押し上げられ、君に降りかかる悲劇と君を失う恐怖に外側からきつく締め付けられる。

僕の「役に立つ」という彼は、きっと、ディオを「倒す」とは言わないだろう。
スピードワゴンに甘いと言われるが、それ以上に晃は甘い。特に僕らに関しては。
現実を見てほしい。けど、見てほしくない。遥か頭上から見ているのにそれを受け入れていないのか。
いや、彼は知っていて全てを受け入れている。
僕の、僕らの全てを。


ツェペリ「晃、ジョジョは何も君を戦力外だと思って置いてきたわけではないよ?
むしろ君の力はとても心強いが、それでも彼は、君をこの戦いに巻き込みたくはなかったんだ」

SW「そうだぜ晃さん・・・。
今からでも遅くねェ、ディオに見つからないうちに早く戻るんだ」


皆も同じ意見だ。ガラスのように純粋で儚い晃の心は、きっと粉々に崩れてしまう。

しかし、彼は最後まで諦めずに「戦う」つもりでいる。
きっと体が朽ち果てるまで、自分の望んだ未来になるように「戦う」意思があるからだ。


ジョナサン「晃・・・ポコを連れて戻るんだ」

『嫌だ!そんな子供より僕はジョナ兄さんをっ!!』

SW「晃さんっ、おめぇなんてことをッ」

ジョナサン「待って、スピードワゴン。
晃・・・。本当はそうは思っていないのだろう?
君は、さっきも会ったばかりの少年を、無意識に自分より先に避難させようとした。
いつもそうだった。君は「他人は救わない」というが、少しでも自分と関係を持ってしまったら君は赤の他人を他人とは思えなくなっている。
家族は勿論、屋敷の執事たちも、学校の子供も、僕らの友達も、生まれ育った町の人も、会って数秒の子供にさえその心を開き、受け入れる。
僕はその晃の優しさをずっと、一番近くで見てきた。だからわかる。
わかるからこそ、この先に戦いは、君は僕以上に苦しむことになるのが目に見えている!」


ずっと見てきた。初めてできた守るべき存在。
だからきっと、誰よりも君をわかる。
その存在が守ろうとしているものを。望んでいる未来を。
彼は冷たく突き放すような事を言うが、根は暖かく、来る者は拒まず、自分のもとを去る者にすら愛情を向ける子だ。
時折冷淡に見えるのは、自分自身に対してあまりにも無頓着で、周りからの愛ですら自分には不必要と、勿体ないと自分を卑下してしまっているからだ。

晃の頬を流れる涙を優しく指ですくい取る。
大きな目がとても可愛らしいのに、凛としていて、「戦う覚悟」がわかってしまうからこそ、どうしたものかとなやんでしまう。


『それでもっ・・・戦わせてくださいジョナサン・ジョースター。
きっとここで諦めてしまったら、僕はきっとこの世界にいる意味が無くなってしまう』

ジョナサン「晃・・・(なんて真剣な鋭い目なんだ・・・今までにないほど、本物の猫、いや獅子のような威圧感を感じる)」

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