7ぺーじ。
シノが先ず手に取ったのは、意外にも席から少々遠くに置かれていたサンドウィッチだった。
グルッペンやゾムは其の選択に首を傾げたが、彼女には確かな意思があった。
昔、スラム街から初めて街に出た時に、自身と同じ位の子供が其れを食べているのを見た事があったから。彼女には感情と言うものが分からない。けれども其れは他人から言わせてみれば確かに憧れと呼べる感情だろう。
ぐっ、と腕を伸ばして掴んだサンドウィッチをあらゆる方向から見回した。
シノはアサシンになってからも満足な食事など得られた事はない為、其れの正しい食べ方など知る由も無かった。子供が食べていたのを見たのはもう随分と前で、食べ方なんてすっかり覚えていなかった。
すると其れを察したのか。
ゾムは徐にサンドウィッチを手にとってシノに見せ付けた。
そしてゾムは持っているサンドウィッチを、大きく口を開けてぱくり。
シノは其の様子を見て理解できた。
言葉では理解出来ずとも、動きや感覚さえ分かれば彼女だって人間だ。
シノはゾムのように、サンドウィッチを口の前に運んで、大きく口を開けて、ぱくり。
ぽろぽろ、ぼろぼろ。
ゾムもグルッペンも此れにはギョッとして、慌て始めた。
中に居たメイド達は何事だと食事の間に顔を出したが皆が皆幸せそうに笑って戻っていくばかりで此の状況について教えてくれるものは現れなかった。
シノは自分が分からなくなっていた。
其れを口にした瞬間。
自身の目から、何かが溢れ出てきて、一瞬血だろうかと考えたが一向に手に赤色は滴ってこない。滴ってくるのは透明な液体だけで痛くも痒くもない。
なんだろう、此れは。
此れを口にしたら良く分からないものが自身から溢れてきた。
不安、恐怖。それらを少しだけ抱いた。然し彼女の心の中にはもっと別の感情が大部分を占めていた。
此れが、幸せ。
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