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「はいこれ、兄さんにだって」
と、返ってきた洋介から手渡された小さな紙。
それを広げると、中には携帯の電話番号と、メールアドレスが書いてあった。
驚いて目を見開きながら、僕は洋介を見つめた。
洋介は、くすっと笑いながら僕のそんな目線にもこたえてくれた。
「ちゃんと会えたから渡してきた。それ、連絡いつでも大丈夫だって。しばらく、来れそうにないって言ってたから、連絡してみたら?」
そうなのか、としょんぼりしながら僕は洋介にお礼を言う。
洋介が、僕のありがとうと言う言葉に笑顔になってくれる。
その顔が、僕は好きだった。
部屋に戻ると、さっそく携帯の電話帳にそれを登録した。
全部ひらがなで入っているけれども、あの日彼から聞いた名前、”あしな ゆうだい”って。
僕は、あまり話すことが好きではないから、メールにしてみようと、メール画面を立ち上げるも、なんて書いたらいいのか分からなくて、ベッドの上をゴロゴロとしていた。10分ほど悩んで一文字も書けていない事に、焦ってとりあえず洋介の部屋に駆け込んだ。
「・・・つまり、どんなメール送ろうか迷ってる、と」
その言葉に、僕は何度も頷いた。
助けて、と言うと仕方ないなぁって感じで洋介は笑った。
もう、どっちがお兄ちゃんか分からないくらい・・・。
でも、洋介は男兄弟だから、頼りになる。僕は、頼りないから。
「んー、ほらお久しぶりです。とかでもいいんじゃない?元気にしてましたか?とかさ。最初は、そんなもんでしょ?」
ほら書く、と言われて慌てて携帯のボタンを押した。
僕は、機械にも疎いから、洋介や妃都華がスマフォに対して、兄弟で僕だけがガラケーと呼ばれるタイプの携帯を使っていた。
スマフォに変えてみる?と言われて、洋介のスマフォを触らせてもらったことはあるんだけど、全然使えなくて、覚えられなくてやめた。
もともと、僕は家族とバイト先と、バイト仲間の連絡先しか入れてない。だから、問題はなかった。メールを頻繁にするわけじゃないし、電話もそれほどしない。インターネットは、使い方が分からなくて使ってないし、必要があれば洋介や妃都華に助けてもらう。
だから、全然不便だと思ったことはない。
「できた?出来たら、送信。そう言えば、名前書いたよね?」
ハッとして、慌てて送信の中断ボタンを押そうとするも、すでにそれは送信されてしまっていて、僕は泣きそうになった。
「あぁ、名前書いてなかったんだね。ほら、今からもう一通、今のメール、音無幸助ですって書いて送って」
洋介に言われて、今度は慎重にメール画面を開いて名前を書いて送った。
しばらくしても、メールが返ってこないから、あれ?とわたわたと落ち着かない。
家族にメールを送っても、すぐ帰ってくるからこんなに待ったことはなかった。
「・・・今、忙しいって言ってたからね。もう、兄さんは寝る時間だろ?寝て、明日の朝もう一度確認してみたら?」
洋介の言葉に、僕はうなずくと、おやすみと言って僕は洋介の部屋を出た。
その途端に、携帯が震えだして、僕は、ぴ、とも、ひ、とも取れない変な奇声を上げてしまった。慌てて二つ折りの携帯を開くと、そこにはメールの受信のお知らせが。
開くと、葦名君からの返信で僕はドキドキしながらそれを開いた。
〈誰かと思った。悪いな、ちょっとさっきまで手が離せなくて。見たの今。
俺の連絡先、弟君から無事に届いたみたいで良かったわ。〉
短いけれど、待ち望んだ返信だった。
僕は、部屋に駆けて行って、その文章に鍵をかけてから返信を作る。
《ごめんなさい、名前、入れ忘れてしまって。洋介から、ちゃんと貰いました!ありがとうございます。
洋介も言ってたのですが、今忙しいのですか?》
しょんぼりしたような顔の絵文字をつけると、僕はそのまま送信した。
絵文字は、最近使えるようになったもので、最近まで出し方が分からなかった。こうやってやるんだよ?と、妃都華に何度か教えてもらってようやく覚えたのだ。
ドキドキとしながら、携帯を握って返信を待っていると、それは早くに訪れた。
〈メールなら、饒舌なんだな笑
今、厄介な事になってて、お前に会いに行ける状況じゃないんだ。
全部片付いたら、会いに行っからそれまでメールで我慢してくれ〉
メールにはそう書いてあったけど、僕にとってはとても幸福な時間に思えた。
それから、暫く葦名君とメールでやり取りをして、好きなものとか聞いたり、あと学校やバイト先で起こった事なんかをメールを反して知り合った。
ほぼ、毎日のようにメールをしているけれど、大抵僕が寝落ちをしてしまって、朝起きてから来ていた返信を見てしょんぼりする。
葦名君は気にするなって言ってくれるけれど、僕は申し訳なくなってしまう。だから、朝来ていたメールにいつも、おはようのあいさつとごめんなさいの言葉をのせた。
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