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「お客様、飲みすぎですよ?」
そう、声をかけてきたバーテンダーに舌打ちをすると、更に酒を煽る。
何もかもを飲んで、忘れたい気分だった。
「……?……」
誰かの声と共に体を揺すぶられたが、意識は深く沈んでいった。

目が覚めてみれば、知らない部屋。
仰向けのまま、辺りを見回してゆっくりと起き上がる。
うぅ、と二日酔いで痛む頭を抱えていると、タイミングよく扉が開いた。
「あぁ、起きたか」
そう言って近づいてきた一色瞳に、目を見開いて驚く。
一色瞳、飛鳥と人気を二分する売れっ子モデルだ。
近づいてきた一色は、ベッドに腰をかけるとペットボトルを差し出してきた。
「ほら」
と言って手渡されるそれを素直に受け取って、煽る。
幾分かは、マシになったようにも思える。
ふぅ、とため息を吐いて一色に向き直る。
一色は、飛鳥の視線に気がつくと、あぁ、と話し始めた。
「お前が昨日……つか今日の明け方なんだけどな。泥酔して、バーのカウンターにいたのをつれて帰ってきたんだよ。マスターも困ってたしな」
「何で、お前が……放っておけば良かっただろ?俺なんて」
あそこのマスターは知り合いなんだよ、と一色は言った。それで、断れなかったと。
あの店で飲んだことが失敗だったと、飛鳥は頭を再び抱えた。
なにぶん、飛鳥は一色のことをライバル視しているため、借りを作ったりしたくなかった。それに、一色はアルファだ。尚更、飛鳥は一色にかかわり合いたくなどなかった。
「ホテルにでも、転がして置けばよかっただろ」
「仮にもモデルだろ、もっと自分を大切にしろ」
そう言って、飛鳥の頭を撫でる一色。高々、2歳ほど年上なだけなのに、子ども扱いしないでほしい。
飛鳥は、一色のそれを振り払う。振り払われる事もわかっていたのか、クスクスと余裕の表情で笑っている。
はぁ、とため息を吐いてベッドから出ようとしてはっとする。
「俺の、服は?」
飛鳥は、全裸で眠っていたのだ。何も身に着けず、ベッドに転がされていたのだ。体に何の変化もないから、大して気にもしていなかった。だが、これでは帰る事もできない。
「あぁ、今洗濯中だ。これでも着てろ」
そう言って、一色はクローゼットを開けると適当な服を出してベッドの上に投げた。
一色は、それを出すとさっさと出て行ってしまう。
飛鳥は、服を見てはぁ、とため息を吐いて仕方なしにそれを身に着けていく。
飛鳥よりも一色の方が、スタイルも良いし、身長も高い。故に、着てみればサイズが合わないことは明白で、舌打ちが漏れる。
それは少し、なので捲くるなどはないが、それでも悔しい。
寝室を出て、リビングに向かう。リビングでは、一色が寛ぎながらテレビを見ていた。
飛鳥が出たことに、音で気がついたのだろう。後ろでに腕を上げて一色は飛鳥を呼んだ。
しぶしぶ、飛鳥の姿を確認できるところまで歩く。一色は、飛鳥の姿を見るとふっと笑った。
「似合わねぇ、それでもモデルか?」
一色のその言葉に、飛鳥は震えて怒りをあらわにする。
どんな服でも、着こなしてみせるのがモデルの仕事だというのか。
それでも、サイズ違いの服を着こなせというのか。
そこまで考えて、ハッとした。今、何時なのだろう?スマフォもたぶん飛鳥は自分の荷物でさえ一色に取り上げられている状態だ。あの、薬も今は一色の手の中にあるのかもしれないと思ったら、途端に気が気じゃなくなった。
「お、い」
「何だよ?」
テレビを何の気なしに見ていただろう一色が飛鳥の問いかけに、ようやく飛鳥を視界に入れた。
「今、何時だ?」
一色の部屋は、無駄なものが無いというか、簡素で時計すら見当たらなかった。
もしかしたら、寝室にはあったかもしれないが、今更戻るわけにもいかない。
テレビには時計なんか映っていない。という事は、もうその時間帯を過ぎているということなんだろう。
もしかしたら、肝心の時間すら過ぎているのかもしれなかった。
「10時少し過ぎたところだな。安心しろ、お前の事務所には連絡入れといた」
そう言われたが、飛鳥にはお礼を言うことさえできなかった。
むしろ、余計なことをしてくれたと、一色をにらむ。
親切心かもしれないが、事務所に連絡したということは、あのマネージジャーにも繋がったということだ。飛鳥は今のマネージャーとは折り合いが悪い。
そのため、なるべくならプライベートを晒したくは無かったし、仕事以外でかかわるつもりは毛頭無かった。
本当に、最悪だ。と、飛鳥は頭を抱えた。が、違う、と首を振る。
その問題も大切だが、それよりも何よりも飛鳥は自らの身に降りかかるモノのために働かねばならなかった。

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