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一色の部屋は、ゲストルームがあるわけでもなく、来客用の布団も無い。
必然的に、飛鳥は一色と一緒に寝る羽目になった。それなら、リビングのソファーで良いと飛鳥は言ったが、それを一色が許さなかった。
狭い訳ではないベッドだが、飛鳥と一色が並べばそれなりに幅を取る。落ちないようにと考えれば、一色と触れ合ってしまうのは、当然といえた。なるべく、アルファである一色に無防備な姿をこれ以上晒したくない飛鳥は、距離を取ろうとするが、壁側に追いやられて、逃げ場を無くされてから、その腕の中に捉えられた。どくりっ、と胸が高鳴る。それは、飛鳥がオメガであるがゆえに仕方ないのだと、己に言い聞かせた。
次の日の朝、飛鳥がおきた時にはもうベッドの中に一色の姿は無かった。
すぐに、うなじに手を持っていき、噛み痕が無い事を調べた。一色が飛鳥を番にしようとするとは考えていないが、それでもオメガとしての本能がそうする事を自然に行ってしまう。相手がベータならまだしも、アルファなら余計に。
そんな飛鳥をよそに、寝室の扉を開けた一色は、いつまで寝てるんだ?と声をかけてきた。
一色は、もうすでに出かける用意が出来ているようだった。それなら、起こせよ、と飛鳥は心のうちで言った。たぶん、声に出してもなんだかんだ言われて終わりだろう。
はぁ、とため息を吐いた飛鳥は一色に出て行けよ、と言って着替え始めた。今はあまり仕事に行く気がしないけれど、行くしかない。
飛鳥には、モデルの仕事しかないから。
一色の作った朝食を食べて、事務所に向かう。何でこんなにハイスペックなんだ、アルファが憎い。
事務所に着く前に、一色はスマフォだけ返してくれた。
何かあれば連絡よこせと、態々電話帳の一番上に一色の連絡先を入れて。
何かって何だよ、と聞いてみたけど無駄だった。
ごまかされて終わり。そのパターンが多すぎる。
それ以上に、何かあっても別に一色には関係の無いことだ。拾ったもんだから、情でも沸いたってのか?それこそ、余計なお世話だ。
「今日は、いつもより早いですね」
そう言ったマネージャーに、飛鳥は舌打ちをして別に……とだけ答えた。
本当に、その目が好きじゃない。
撮影所まで、マネージャーの車で決して飛鳥は助手席に乗ることは無い。それどころか、目もあわせようとしない。まぁ、当たり前と言えば当たり前なのだが。
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