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僕にバース変化の要因をもたらしていた因子を、直接取り込んだことによって、早急に僕の体はΩとして目覚めた。
本来なら、ゆっくりと変化していくはずだったそれが、急速になった所為で僕の体に負荷がかかり、数日の入院を余儀なくされた。
この病院は、あのお医者さんが院長先生で、的場君の叔父さんらしい。
血筋的にもαなんだねって言ったら、小突かれた。
そのお陰で、僕の両親には入院したことも伝わってないはずで、ホッと息を吐いたのは記憶に新しい。
「ほら、着替え」
と差し出された紙袋を受け取った僕は、ありがとう、と笑う。
あれだけ、2人だけの派手な告白も無いと思うが、あれがあったおかげで、僕は今とても落ち着いていた。
退院する日、僕は迎えに来てくれた的場君と一緒に病院を出た。
退院して、真っ先に家に帰るのかと思えば、タクシーに詰め込まれて連れてこられた美容室。
唖然とした僕の手を引いて、その中に入っていく的場君。
「ヤスさんいるー?」
その声に、奥からワイルドって感じの男の人が出てきた。
この人、感覚的にαだって解かるんだけど、何かおかしい。
「おー、連れてきたのか。奥空けてあるから、そっち行ってろ」
了解、と的場君は僕の手を引いて、お客さんの後ろを通り過ぎる。
どこに行くのかと思えば、奥の個室まで連れてこられた。
勝手知ったるって奴なのかな?
「ヤスさんなら安心だから、俺少し買い物行ってくる。一人で、大丈夫か?」
頷きたいけど、頷けないようなそんな微妙な顔をした俺の頭を的場君は撫でた。
「ヤスさんは番持ちだから。陽音の匂いは解からないし、陽音も本当はもう他のαを惹きつける事は無いんだけど、一応ね。ここはヤスさん以外入ってこないから安心していいよ」
「・・・番もち?」
それで、あっ、と合点がいった。先ほどの違和感。あれは、番が居たからなのか。
それでも、的場君の手を離すことが出来なくて、どうしていいのかわからなくなる。
こう、依存してしまうから恐い。恐くても、それでも傍に居ることを決めたのは僕だけど。
「仕方ないな」
そう、的場君は笑って出かけるのを諦めてくれたらしい。
それに、ホッと息を吐きながら、握っていた手をようやく解けた。
「待たせたな。それで、どういうのが希望だ?」
「あー、とりあえずセットしやすくて似合うように切ってあげて」
邪魔になるから、と外された眼鏡。感覚的なモノで、的場君が近くに居ることはわかるんだけど、落ち着かない。
解かったわ、と言ったヤスさんと呼ばれた彼に、とりあえず、と鏡の前で自己紹介される。
「とりあえず、はじめまして。俺が担当させて貰う、安本だ。気軽にやっさんとか、的場が言うようにヤスさんとか呼んでくれて構わない」
僕は慌てて、宜しくお願いします、と頭を下げた。
「俺は、市村って呼ぶからな」
何で、僕の名前・・・。って思ったけど、予約か何かを入れるときに話していてもおかしくないし、的場君が話していてもおかしくはない。
まずは、シャンプーからな。と言われてクロスを付けられて、シャンプーされた。とっても、気持ちよかった。
シャンプーの後、ザックザックと僕の髪の毛が切られていく音がする。ぼんやりとする視界の中、はっきりとは解からなかったけど、頭が軽くなっていく気がした。
目を閉じていたら、いつの間にか寝ていて、洗い流すから起きろって起されて吃驚した。
洗い流されて、ドライヤーを吹きかけられて、良しって安本さんが言ったところで、僕の眼鏡が的場君から帰ってくる。
「・・・コレが、僕?」
すっきりとした髪型で、少し色を抜いたのか、黒よりはダークブラウンに近くなった髪色。
その変わりように、僕は驚いた。本当に、コレが僕なのって、心配になるぐらいに。
「おっ、化けたな陽音」
流石、ヤスさん、そう言って、笑った的場君。
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってんだ」
そう言って、軽口を叩きながらオーダー表みたいなものを、安本さんが的場君に渡していた。
僕の荷物を持ったまま、僕を引っ張って、その部屋から出る。
「安本さん、ありがとうございました」
「おう、また来いよ」
後片付けをしだした安本さんに声をかけると、僕のほうは見ずに片手を挙げて挨拶された。
気さくな人だ、そう感じた。
会計の人に、オーダー表を渡した的場君は、そのまま支払いまで済ませてしまう。僕が払う、と言っても聞いてはくれなかった。
申し訳ない、って思いながらも僕達は街にそのまま繰り出して買い物をして・・・、もしかしたら初デートってことになるのかもしれない。
初めて、街で遊んで少し疲れた頃に僕は僕のアパートに帰ってきた。
「ほら、鍵開けろ」
促されて、久しぶりの我が家の鍵を開く。
僕の荷物は、殆どを的場君が持ってるから仕方がないんだけど、彼も部屋に入ってくる。
僕の着替えなんかも持ってきて貰うのに、鍵を渡して勝手に入ってもらったりはしてるけど、やっぱり二人きりになると、どうしても緊張してしまうもので。
「あー、何か帰ってきたなって感じするわ」
「ふふっ、何それ。ここ、的場君の家じゃないでしょ」
荷物を下ろして、寛ぐ的場君の言葉に僕は笑ってしまった。
的場君は、そうじゃないって、と、僕を見る。
「陽音が、ここにいてやっとお前の部屋なんだよ。お前が帰ってこない間は、少し空虚で・・・」
ああ言うのを、寂しいって言うのかもしれない。そう、小さな声で的場君は呟いた。
たった、一度しか僕の居る家に入ったことはなかったのに、そう感じてしまう何かがきっと的場君にはあったんだと思う。
僕が、的場君に買って来た飲み物に氷を入れて差し出すと、的場君はなぁ、と机に肘を付きながら何でもないように語り掛けてきた。
「なぁ、陽音」
「何?」
「お前さ、俺と一緒に暮らさないか?」
えっ?と、聞き間違いかと思った。
僕と、的場君が一緒に暮らすなんて、そんな・・・。
「俺、お前にお帰りって出迎えて欲しいんだけど?朝起きて、お前の顔を一番に見たい。遠くに居たら、お前のメッセージ見落とすかもしれないし」
だから、と言う的場君。僕に、断る意思なんて・・・。
「僕は・・・、的場君の邪魔にならないかな?」
「まだ、そんな事言うのかよ?お前が俺の邪魔になるはずがないだろ?それに、俺はお前の番なの。もう、一生離れてやらねぇって」
ココ、と的場君の手が僕の首筋に伸びてくる。
「噛んだ時に約束したろ」
その言葉に、僕の顔はかぁっと真っ赤に染まる。
僕と的場君は、バース変化を起して、発作的に起こった僕の発情期・・・と言っても1日だけだったけど、その時に繋がった。一度だけの、その時に僕のうなじを、的場君は噛んだ。
一生離れないって約束の印だって。
その後、ガッツリ院長先生に怒られたけど、僕らは二人で顔を見合わせて笑った。そしたら余計怒られたけど。
「で?返事は?」
「・・・的場君がそう望むなら」
よし、決まりと的場君が笑うから僕も笑った。
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