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突然だけど僕の両親は、β同士の普通のカップルで、僕たち兄弟が例外なんだって言える。
僕達の下に、もう一人、弟が居るけど、弟はαで僕達はΩだった。
β同士の結婚で、βが生まれない家系とは珍しいとは思う。
『・・・て訳で、ねっちゃん大学終わったら時間ある?』
この弟は、あの家で唯一僕を兄と慕い、幼いながらも守ってくれていたような気がする。
僕が家を出る時も、良かったね、と言ってくれて、俺もなるべく関わらないように、関わらせないようにするから、と言ってくれた。
「・・・火曜日の午後なら空いてるけど」
『なら、その日の4時ごろに、何処がいいかな?』
チラッと、傍に居た的場君を見ると、あそこのカフェでいいんじゃないか?と駅前のおしゃれなカフェを勧められた。
前に一度、的場君とデートに行って、雰囲気が気に入った場所だ。
「駅前に、ふぁんとむって平仮名で書いてあるカフェがあるんだ。そこにしようか」
『解かった。迷わないようにするよ』
苦笑気味に笑った弟は、じゃあまた火曜日に、と電話を切った。
「・・・火曜日の午後4時ね。解かった開けとく」
街で遊んだことの無かった僕だけど、的場君とは良く行くようになった。
けど、絶対に一人じゃ行かせて貰えなくて、過保護だなぁって思っても、それが嬉しいと感じてしまう。
「けど、春馬話がしたいなんて、どうしたんだろう?」
「・・・そうだな」
弟、春馬の身に何か起こっているのか、僕にはさっぱり検討も付かなかったけど、でも春馬が会って話がしたいというなら僕はそれに応じようと思う。それが、せめてもの僕に出来る春馬へのお礼。
それが解かってるから、的場君は春馬に会うのを止めないし、一度だけ電話代わってといわれて、二人が話したことも有って、的場君なりに春馬を気に入っているようだった。
その日、約束の時間から少し送れて春馬が姿を現した。
「あっ、ねっちゃん。久しぶり。そっちの人が・・・」
「的場 悠基だ。宜しくな、春馬」
的場君の差し出した手を、春馬はこちらこそ、と取った。
挨拶もそこそこに、飲み物を注文し、運ばれてくるまでの間、ずっと僕達は無言のままだった。
注文したものが運ばれてきて、一息つくと、春馬が話し始めた。
「えっと、まずは何から話そうかな?」
迷ったような、困ったような顔をしてから、話し始めた。
「えぇっと、この間的場さんと婚姻届出したっていってたよね?」
「あっ、うん。それが?」
確か、滞りなく受理された筈だ。
実際、今はもう僕は的場 陽音になっているけど、学校に通っているし、今のところは旧姓のままかよっている。
お前も的場なんだからって、悠基って呼べってよく言われるけど、気恥ずかしくて殆ど呼べたためしがない。
「うん、その事についてお祝いと、ちゃんと戸籍移ってたよって言う報告かな」
まず、一つは。と春馬は言う。高校入学の時の書類で、家族全員の戸籍を見たときに、僕だけが載っていなかったそうだ。
あっ、と机の上にカバンから箱を取り出すと僕達に渡す。
「式はまだ挙げないって言ってたけど、コレ結婚祝いで」
半透明の部分から覗くのは、二つのマグカップ。
一生懸命選んでくれたんだろう、自然と笑みがこぼれる。
「で、もう一つは相談ていうか・・・」
春馬は、ため息をはぁ、と吐くとどうしたらいい?と内容も言わないで困ったように見つめてきた。
「いや、僕はお前に何があったか解からないんだけど」
「だよねー・・・、あー、これって的場さんに相談に乗ってもらったほうが良いのかなぁ」
ぐったりと机に突っ伏す春馬。何をそこまで参ってるんだろう?
僕が、的場君を見上げると、的場君は頷いて春馬を見た。
「何その空気。会話無くても言いたい事解かりますって、熟年夫婦か!」
「・・・お前も案外、陽音に似て面倒くさい性格してるな」
それで、何に悩んでる?
そう、的場君が聞くと、春馬は少しうだうだと言った後、話し始めた。
「僕は、β同士の間に生まれたαだから基本的にΩの匂いに鈍いんだって言われた」
発情期を迎えた早熟なΩが至近距離に居ても、気がつかなかったといった。
そりゃ、重症だな、と的場君は笑った。
「そうなんですよ、重症でしょ?発情期のΩですよ?普通、酷けりゃβだって気が付くって言うのに・・・」
はぁ、と長いため息を吐いた春馬。的場君には笑って飛ばせる問題でも、春馬にはきっと深刻な悩みなんだろうな。
「気にするな。としか、言う言葉が無い」
「でも、俺の運命が手から滑り落ちてく様な事があったら・・・」
俺、ショックで生きていけない。と言う春馬に、本気で的場君は噴出した。
「おま、そんな心配してたのか?」
「だって、俺匂い解からないし!Ω感覚で運命を見つけるけど、αはフェロモンの匂いで運命を見つけるんですよね?俺、絶望的じゃないですか・・・」
「それだけが本能って訳じゃないだろ。運命ってのは、会えば解かる。あったら最後、どんな手段をとっても手に入れたくなるような存在だ。どんなに否定しても、本能で惹かれる。匂いとか感覚って言うのはあくまでそのオプションに過ぎないんだよ」
まぁ、確かに運命の番からは、通常じゃ考えられないような、惹かれる匂いがするが、と的場君は言う。
僕の匂いについても、前に聞いてみたけど。何て表現したらいいのかわからないって言われた。ただ、落ち着くし、離したくなくなる匂いだって。
「春馬、お前今、気になってる奴でも居るのか?」
ニヤニヤしながら、的場君が春馬に聞く。うぅ、と図星を突かれてか、春馬の顔に朱が灯る。
「うぅー、居ますよ。もう、本当に・・・」
隠しても無駄だと解かっているのか、素直に吐く春馬。
春馬が気になる人か、どんな人なんだろう?
内心で興味を持つと、僕は春馬の次の言葉を待った。
「あの・・・、さっき言った発情期の人が近くに居た時に助けてくれた人なんだ。もう、普段はポケポケしてるくせに、そう言うときだけカッコよくて、卑怯すぎる・・・」
恥ずかしさに、再び春馬が机に突っ伏すが、僕と的場君は微笑ましい気持ちで見守った。
「でも、俺あの人がΩかどうか何て解かんないし・・・」
「Ωだろうが、βだろうが、最悪αだろうが、関係ねぇだろ?俺が陽音と出会ったときなんて、まだβだったんだからな」
運命なんてそんなもんだ、と的場君は言う。そう言えば、そうだ。匂いも、的場君以外には解からなかったらしいけど、僕がβだとしても、的場君は追いかけてきた。それが、離れがたい運命って奴なんだろう。
望めば、どうにでもなってしまうのかもしれない。
「・・・そうだったね。うん、解かった。頑張ってみるよ」
そうして、丁度区切りも付いたし、と春馬は立ち上がる。
的場が会計を引き受けてくれている間に、外で二人的場を待つ。
「・・・春馬、春陽は今・・・」
「ひーちゃん?相変わらずだよ。あっちフラフラ、こっちフラフラ。けど、今何か大変な人に迫られてるみたいで困ってるみたい」
「・・・そっか」
幾ら拒絶しても、兄弟で、双子の兄となれば気になるもので。助けようとは思わないけど、それでも無事で居るかどうかだけは確認しておきたかった。あの日、突然泊めろ何て言って来たからには、何か有ったんだろうって想像だけは付いたから。
「お前には、苦労をかけてるな。末っ子なのに、長男みたいだ」
「あっはは、まぁ仕方が無いよ」
前に、春馬は言った。家の両親はΩ、αの親としては適合者かもしれないけど、βの親としては不適合者だと。人には、それぞれ成長の個人差が有ってそれを認められないのは、親として不適合だと。春陽をΩだからと冷遇しないのも、春馬をαだからって特別扱いしないのも、それは適合者としていいのかもしれないが。と。
そんな中、αであるが故に早熟だった春馬は時折、僕達の架け橋となったり、あの人たちから守ってくれたりしていた。
本当に、本当に弟であるのに大きな背中で、兄として恥ずかしいくらいに。
「家は、お前が居なければ早い段階で崩壊していたかもしれないな」
「大げさだね、ねっちゃんは」
そう、まるで愛し子を見るように春馬は目を細めた。
「・・・ねっちゃんは、今幸せ?」
「いきなり、何だよ?」
「一応、聞いておこうかなって思って」
春馬には心配もかけたし、色々苦労もかけた。そんな関係で、昔から春馬に隠し事をしたことが無くて気恥ずかしくても言ってしまう。
「・・・幸せだよ、俺にはまと・・・悠基もいるし」
そっか、と春馬は安心したように笑った。
「何の話だ?」
「別に?」
話しても良かったけど、僕と春馬の秘密にしておきたかった。
何でもないときに、名前を呼んだなんて知られても恥ずかしいし。
ふと、春馬と目が合い、二人で笑った。
これから、もっと幸せになれるからね。
駅で別れる際、僕を抱きしめてきた春馬が僕の耳元で、そう囁いた。
END
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