貴方の無事を祈ります
横澤さん倒れる話を書いていたので、逆に桐嶋さんが事故に会う話を想像してみました。
「何だよ、これ…何なんだよ!?」
「落ち着け、横澤」
「これが落ち着いていられるか!!何で、何で桐嶋さんが…っ!!」
事の始まりは、一本の電話から…。
―――桐嶋さんが、事故で意識不明の重症だ
井坂さんのその声を聞いた途端、俺は目の前が真っ暗になるのを感じた。
いち早く意識を取り戻した俺は、病院の場所を聞き出し、駆けだした。
桐嶋さんの名前を出して案内されたのは、集中治療室。
ガラス越しに、たくさんの管に囲まれた桐嶋さんの姿と、泣き崩れるひよと桐嶋さんのお母さんとお父さんの姿を見て、俺も涙があふれた。
「死なないでくれ……」
縋り付くように、そのガラスに触れた俺は力なく床へ座りこんでしまう。
俺は、一体これからどうすればいい?
何で、あんたはこんな目にあってんだ?
なぁ、目を閉じてないで俺を見ろよ!
……ひよのママさん、お願いだから桐嶋さんを連れて行かないでくれよ…
声無く泣く俺の肩を井坂さんが、ぽんぽんっと叩く。
「大丈夫だ、桐嶋はまだ生きてる。あいつは、簡単に娘も恋人も残して死ぬような魂じゃねぇよ」
だから、大丈夫だ。そう、何度も繰り返す井坂さんの声は、俺を落ち着かせる。
でも、不安で不安でたまらない。
もし、桐嶋さんがいなくなってしまったら、俺は…
「おにいちゃん…ふっふぇ」
「ひよ……」
言葉なく、俺とひよは抱きしめ会う。桐嶋さんがこうなっている今、ひよのぬくもりだけが、ただただ、無意識に桐嶋さんの元へと行こうとする俺を引きとめてくれているような気がした。
それから、一か月近くがたつ……。
ひよは、桐嶋さんの実家で生活しており、そら太は俺の部屋で前と同じように生活している。
俺の、この一カ月の日課は、仕事帰りに桐嶋さんの容体を見て帰ることだけ。辛くて、側にいるだけで、涙が溢れそうになるけど、きっとこうして確認作業をしないと、俺は後悔する。今以上の不安で押しつぶされて、息も出来なくなる。
だから、辛くても、桐嶋さんに会いに来る。
「……あんたは、いつになったら目覚めるんだよ?校了だって近づいてるんだぞ…編集長のあんたがこんなんでどうするんだ」
毎日毎日、言葉も声も帰ってこない問いを、桐嶋さんに投げかける。
そうして、面会ギリギリまで桐嶋さんを見て、俺は帰る。
帰ったら、そら太に飯をやって、ベッドの上へ横になる。
桐嶋さんがああなってから、俺の部屋の中は荒れに荒れていた。
こんな中、そら太がいるのは申し訳ないと思う。だから、政宗に預かって貰おうかとも考えた。
荒れた俺の部屋は、あの時の政宗の部屋並に酷いものだから。
もう、そら太にとっても限界だろう。
明日は、休みだから明日にでも、メールすればいい。
そう思って、考え事をしていても、自然と瞼が落ちてきて、体が休息を求めた。
夢の中、俺は桐嶋さんを追いかける。
でも、この手は、桐嶋さんが救ってくれたこの手は、桐嶋さんには届かなくて、あの時のことが、今までのことが全部ウソに思えてくるようで、俺は、何度も何度も、声がかれるまで、桐嶋さんの名前を叫んだ。
それでも、振り返ることのない桐嶋さんの姿に涙があふれてきたとき、バチッと俺は目を覚ます。体中が、汗でべたべたする。
気持ちが悪いのは、たぶん夢見が悪かったせいだろう。
時刻は、午前1時30分。眠りに落ちた時とそうそう変わらない時間だ。
それから、眠ることなんて出来なくて、ゴロゴロとベッドの上を転がる。
眠い、寝たくない、眠い、寝たくない……
その応酬をしているうちに、夜が明け、カーテンの隙間から、朝日が顔をのぞかせていた。
時計は、午前5時を指していて、もう寝ることもないだろうと体を起こした。
ご飯なんて食べる気にもならず、気分を変えるためシャワーを浴びに、風呂場へ向かう。
少し、ふらついて壁に手をつく。
丁度その時、チャイムが鳴る。こんな明朝に誰かと、ふらふら歩きながら、玄関を開ける。
「誰、だ?」
「俺だ、開けろ」
「……高野?何で、お前ここに?」
いや、連絡するつもりだったけれども、こんな朝早くに来るとは思わなかった。
「ちょっと、待て。こら、そら太。そっちに行くな……っ」
体をかがめて、そら太を抱えようとした瞬間、吐き気に襲われて、口を覆う。
ぶわっと汗が噴き出すが、その衝動をやり過ごして、チェーンを外して扉をあける。
そら太は、高野が抱えてくれていたようで助かった。
「何の用だ、こんな時間に」
「会社からそのまま来たんだ、シャワー貸せ」
「ちょっ、待て!おい!」
勝手に入って行く高野の手をつかむも、その拘束はいとも簡単に解けてしまう。
そして、その瞬間にまた体がぐらつく。
「ひでぇな、これ……」
やっとの思いで、高野に追いつくと、俺にそんな言葉を投げかける。
「じゃあ、帰れ。そら太を連れて、お前の家に」
「冷たいなぁ、横澤……お前、いつから何も食べてない?今日はどのくらい寝た?仕事以外で、人にかかわらなくなったのは何でだ?」
睨みつけるような高野の視線に、ひるむ。
桐嶋さんが心配過ぎて、食事は喉を通らない。かろうじて、サプリメントとしてのゼリーを一日一回口にできるだけだ。
でも、そんな食事ともいえない食事を昨日はしなかったかもしれない。
「お前に言われたくない。さっさと、帰れ」
「横澤」
「お前だって、こんな状態になったこと有るなら解るだろ?今は放っておいてくれ。仕事にも支障なんてきたしてないだろう?」
桐嶋さんとの、あの時の約束。
信頼を、信用を地に落とすような真似はしたくなかったから、仕事だけはきちんとした。
ミスもなく、毎日毎日……。
「そう言う問題じゃない。大体、そうなったことが有るから言ってるんだ!」
「うるさい!!迷惑なんだよ!!帰れ!!」
「横澤!!」
高野の俺を呼ぶ声にハッとする。
「悪い、八つ当たりした」
「いや、いい。それより、勝手に掃除するぞ?お前は、まだ寝ておけ」
そうして、大学の時俺がそうしたように、高野は俺の世話を焼いていた。
まるで、大学時代が戻ってきたようだ。ただ、立場が逆だが……。
「いや、いい。……こう言うときって、寝ようとしても寝れないものだな」
その、俺の呟きに高野は何も言わなかった。
だけど、俺を寝させることを強制はしなくて、ただただ、荒れた俺の部屋を掃除していった。
そうして、比較的穏やかな日を過ごしているときだった。
あの時と同じ、一本の電話がかかってきた。
俺は、取る気になれなくて、そのまま放っておいたら、勝手に高野が出ていた。
電話を受けて、あわてて電話を切り俺の所まで来ると、俺の体を椅子からひっぱりあげた。
「桐嶋さんが目覚めた!!早く着替えろ!」
一瞬、時がとまったように感じた。嘘だ、と、無駄な期待はしたくないと、高野の言葉を信じられなかった。
「何ぼうっとしてんだ!?早く準備しろよ!」
急かすような高野の声に、ハッとして俺は着替え始める。
どうか、これが夢じゃないようにと願って……。
end
ごめんなさい、力尽きました。
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