さようなら
概要→桜さんの夢を見る桐嶋さんの御話
『禅…ねぇ、禅…私がね、もしいなくなっても、ひよを愛してね』
「何を言ってるんだ、お前はまだ…」
『ねぇ、禅…もし、私がいなくても、人を愛してね』
「まって、待ってくれ!!」
『ねぇ、禅。生きて、生きて私を忘れて、幸せになって』
「お願いだから、俺を一人にしないでくれ」
『禅…禅なら、大丈夫。きっと、私以上に禅を愛してくれる人が、ひよも禅も全部含めて愛してくれる人が、きっと見つかるわ』
「そんな奴、出来るわけない!!お願いだから…」
『だから、今度はその人に、惜しむことない禅の、たくさんの愛をあげてね』
「行くな、行かないでくれ、待って……っ!!」
『禅、私がいなくなっても、禅は一人じゃないよ。ひよも、おかあさんも、おとうさんも、そして、私がいなくなった後にあなたを愛してくれる人が、禅の側にはいるから』
「……っ!!……っ!!」
『好き、大好きよ、禅…愛してる。日和も、禅も愛してるわ。だから、幸せになって……――――――』
「あっ、あぁ、うあぁああああぁあああぁあああああああ!!!!!!!!」
…――桐嶋さん、桐嶋さんっ!!
目を開けると、俺の眼前には、横澤の顔。その顔は、心配そうで思わず頬をなでてやる。
そんな俺の様子にも、横澤の眉間のしわは深くなった。
それで、俺はさっきまでのことを思い出す。
「あっ?あぁ、そうか。夢、か」
ずいぶんと久しぶりに見た、長い長い、現実にあった夢。
「一体、どうしたんだ?ずいぶん、魘されてたみたいだが」
「いや、夢を見ただけだ…嫁さんの」
ひゅっ、と横澤が息をのむのが解る。また、下らないことを考えてるんだろうなって思ったけど、そんな顔をさせたのは俺か。
「アンタ、その…」
「勘違いするなよ、横澤。俺は、確かに嫁さんを愛してた。それは変わりようのない事実だ」
「…っ」
「でも、今愛してるのはお前だ」
「なに、言って」
耐えるように唇を噛んだ横澤。その唇に、手を這わせて笑う。
本当に、俺もお前も不器用だなって思う。
「…横澤、俺のこと好きか?」
「いきなり、何言って」
「良いから、答えろよ」
「……すき、だ」
その返答に、俺は満足して触れるだけのキスをする。
「夢で、嫁さんに言われたことを思い出した。嫁さんは自分がいなくなっても、俺を愛してくれる人がきっと見つかるって言ってた。俺は、その時そんな奴出来るわけがないって言ったけど、嫁さんの言った通りになった」
嫁さんを思い出すと、少し淋しいけれど、それでも今は横澤が側にいてくれるから、幸せだ。
「何だ、それ…」
照れたのか、横澤の顔は真っ赤だ。
恥じらうように、俺から瞳をそらす、そんな姿も可愛いと俺は思う。
嫁さん以上に、愛してる人。今、俺が愛したい人。
「愛してる。今、お前だけを……好きだよ、横澤」
「はっ、恥ずかしいやつだな、アンタ」
ふふっ、と笑い今度は、しっかりと絡ませたキスを横澤に送る。
本当は、あの時の最後の言葉……一つだけ嫁さんに言われなかった言葉が有った。
その言葉は、最後の最後まで嫁さんは俺に言わなかった。お義母さんにもお義父さんにも……、決してその言葉だけは口にしなかった。どんな言葉を口にしても……。
けれど、その言葉を口にした彼女が俺の夢に現れることは、一切無かった。
それは、俺と嫁さんにとって最後の別れの言葉となったのだ
End
『好き、大好きよ、禅…愛してる。日和も、禅も愛してるわ。だから、幸せになって……さようなら』
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