笑ってください
私は、黄瀬が笠松に片思いしている場面が一番好きらしい。
そして、でもハピエン主義なんだよ。幸せにしたい!!でも、シリアスな展開で涙が出そうになるくらいがちょうどいい、何て思っている。
もー何このひと何!?って言うぐらい、黄瀬は荒れていた。
黄瀬が2年に進級した頃。笠松は、東京の大学に進学をしていて、滅多に合うことはなくなるだろう、これで忘れられる。そう思っていた。
けれど、笠松は暇な時帰ってきて体育館にも顔を見せるため、会わない、と言うことが無かった。
そして、黄瀬は諦めた。どうせ忘れられないなら、大切にしまってしまえば良いと。
認めないことも、オメガである自分を否定することも、もう疲れてしまったのだ。
「最近、由孝が何考えてるのかわからねぇ・・・」
と、黄瀬を前にマジバで愚痴をもらした笠松。
何でココ?と若干苦笑いになりながら黄瀬は思う。
「何で俺にそんなこと聞くッスか」
「お前なら、何か解かるかと思って」
「いや、だからどうしてそうなったよ、おい」
思わず、敬語を忘れてしまう程、話がつかめなかった。
番のことは、黄瀬に解かるはずないのに、とため息を吐いた。
ため息を吐いた瞬間に、敬語、と足をどつかれた。地味に痛かった。
「同じオメガなら解かると思ってな・・・」
「解かるわけねぇッスわ・・・」
はぁ、とため息をついて、呆れた顔で恋愛初心者のような笠松を見る黄瀬。
でも、きっと笠松も森山も不安なんだろう、とそう思った。
お互いが運命じゃない、とどこかで解かっているからこそ、運命が現れたら、と不安になる。
その事を、さりげなく笠松に質問して情報を引き出し、告げた。外面のよさなら、誰にも負けない自身がある演技力は、一杯一杯で普段なら気が疲れるはずの笠松にも通じた。
「運命の奴なんて現れなきゃ良いのに」
そう、何の気なしに笠松がポツリ、と呟いた言葉で、黄瀬の顔は少しだけ歪んで戻った。
そう、笠松が運命を否定するたびに、自分自身を否定されているような、そんな気がするのだ。
しばらく、笠松と話していた黄瀬は、ハッとして時計を見る。
(危ない、まだ・・・ぎりぎりセーフッスね)
そう、黄瀬はポケットの中に手を突っ込み、そこに錠剤があることを確認する。
臨時の、発情抑制剤だ。前に飲んでから、時間がずいぶんとたっていて、もうすぐ効果が切れる頃だ。
「ちょっと、すんません」
そう言うと、立ち上がろうとした黄瀬の腕を、笠松が引き止める。
「どこ行くんだ?」
「水、貰ってくるだけッスよ」
どこにも行かない、といえば笠松は素直に手を離した。
どうして、この人はこうも心を揺さぶる行動ばかりするんだろう?
笠松を視界から消した後、黄瀬はしたうちをしたくなったが、ココは如何せん、人ごみでしかもマジバの中だ。
モデルのイメージを壊す行動はいけない。
何事も無かったように、戻って、掌に一錠抑制剤を取り出す。
「黄瀬・・・それって?」
「あれ?森山先輩も使ってるっしょ?発情抑制剤ッス」
苦笑いのように笑ってから、口に含むと水でそれを流し込んだ。
コレで、また数時間は大丈夫だ。
クッと寄せられた笠松の眉間の皺が気になる。
「お前、そんなの飲んでたか?」
「飲んでたッスよ。いつも」
首を傾げた黄瀬に、笠松はその表情のまま思ったことを口にする。
黄瀬は、それに少し悲しげに笑うと答える。
黄瀬は、笠松が海常にいた一年前からずっと、時間になればクスリを服用していた。
部活中でも、それを服用していたというのに、気が付かれていなかった。それは、笠松が黄瀬を見ていなかった証拠に他ならない。
それはそうだろう、笠松の目には自分の運命よりも森山という自分で決めた伴侶しか映っていなかったのだから。
「それ、副作用とかねーのか?」
心配そうに見てくる笠松に、大丈夫と言う黄瀬。
多少、副作用があるのは仕方の無いことだ。何せ、コレは万能のクスリではないのだから。
継続して服用すれば、服用を止めた途端、溜め込んだフェロモンとヒートの熱が一気に押し寄せる。
けれど、黄瀬の場合、大元である点滴の抑制剤が普段は効いているため滅多に服用を止めてもヒートの状態に陥ることは無い。笠松と会った後でさえ、離れて彼のフェロモンを感じなければ何の問題も無いのだ。
そう、彼と言う存在を感じなければ・・・。
「(どうして、俺は僅かでも縋ってしまうんだろう・・・?)」
表面上は、笑って笠松の話を聞きながら、心の中で求めてしまいそうになる気持ちにため息を吐いて蓋をする。
そうして、誰にも気が付かれないように慎重に、慎重に自分を少しずつ殺した。
事が起きたのは、それから二年が経とうと言ったそのときだった。
海常で、最後の部活に来ていた黄瀬がコートに立った瞬間、血反吐を吐いて倒れた。
直ぐに、黄瀬はかかりつけの病院に入院することになった。
病名は不明。黄瀬の体に何が起こっているのかも解からない。
そして、肝心の黄瀬はその日以来意識が戻っていない。
医者が言うには、まるで眠るように少しずつ、少しずつ僅かながらに死に向かっているらしい。
黄瀬の体に起こっている現象は、まるで番に捨てられたオメガそのものだと、医者は言った。
しかし、黄瀬に番などいない。その首筋にbitの跡など一つもない。
それ以前に、性交のあとが一切見受けられない。
それが、どういうことか。だから、医者は言う。原因不明だと。
まるで、黄瀬が自ら望んで死に向かっているようにしか思えない、と。
「何でだよ・・・?」
病室で、静かに眠る黄瀬の姿を見て、笠松は呆然と呟いた。
後ろから、押しかけてきた面々も静かに眠っている黄瀬を見て、言葉をなくす。
「医者が言うには、涼太を助けるには番の力が必要、とのことでした」
個室である黄瀬の部屋の中に集まったメンバー。
赤司の言う番、とはただの番ではない、運命の番。黄瀬を生かすことの出来るほど、その存在が強い者の事。
「けれど、それを解かるのは涼太しか居ない」
そう、眠ったままの黄瀬しか居ない。
「ちょっと待てよ!運命だったら、アルファにだって解かるはずだろ?」
「貴方は誰が運命だか、解かってないでしょう?」
笠松さん。と、赤司はにっこり笠松を見る。
笠松は、目を見開いた。
「俺の、運命だと?」
そう、言った笠松を冷ややかな目で赤司は見つめている。
その空気の中、言葉を発したのは森山だった。
「もう、いい加減認めれば良いじゃん。幸の本能が求めてるもの」
「由孝?お前、何言って・・・」
「俺と幸が運命じゃないことなんて、解かり切ってた事だろ?なら、誰が運命か、とか考えるまでも無い。笠松、お前の運命は黄瀬だよ」
俺が何度嫉妬したと思ってるんだ、と呆れたように言う森山。
「そんな、わけ・・・」
「無いって言えんの?じゃあ、どうしてただの後輩でしかない黄瀬を俺との問題で頼った?頻繁に卒業した学校の部活に顔を出したのは?何かあれば、黄瀬を追いかけてたよお前は、いつも」
そう、悲しげに笑う。
が、尚も否定の言葉を捜す笠松に、森山の声は段々と大きくなる。
「お前の本能が、黄瀬が離れていくのを良しとしなかったんだろう!?いい加減認めろよ!!」
ハッとした森山は、ふぅ、とため息を吐いてからクールダウンするように目を伏せた。
「・・・俺は、黄瀬と話したときにきいたよ。お前が、笠松の運命なのかって。まぁ、質問する前に途中で言葉さえぎられたけどな。そん時、黄瀬は『俺は、先輩たちが好きッスから』そう言って、泣きそうだったのに笑ったんだよ」
舌打ちしたそうなくらい、顔をゆがめている森山。
その姿を、ただただ笠松は見つめた。
「俺たちは、黄瀬に守られていたんだ・・・。黄瀬が本気を出せば、笠松は黄瀬が運命だって気付くことが出来たはずだろ?それを、隠していたって事は、お前を困らせたくなかったんだよ。それに、番に捨てられたオメガがどういった末路をたどるのか、それを俺に当て填めたくなかったんだろ」
黄瀬は優しいから
良く考えろ、と森山は病室を出て行った。
結局、あの後考えた末に、笠松は森山との番を解消した。
森山は、笑ってさよならだな、と笠松と別れた。けれど、今は別のアルファと番になっているらしいから、安心している。
「黄瀬、今日が何の日か覚えてるか?」
眠る黄瀬のベッドサイドに座りながら、その前髪を梳いて横へ流す。
「7月29日、俺の誕生日だ。なぁ、黄瀬。今年の誕生日は、何をくれるんだ?」
出会ってから、毎年貰っていたプレゼント。今思えば、小さな小さな黄瀬の思いのカケラ。
今年は、何をくれるつもりだったんだろうか?
「黄瀬、今年の分は俺がリクエストしても、良いか?」
一方的に、黄瀬に語りかける。答えが返ってくる事なんて、無いけれど。
「・・・お前の、笑った顔が見たい」
なんてな、と言った笠松は、諦めたように笑ってサイドボードに仕舞ってあった花瓶を取り出すと、もって来た花と一緒に黄瀬が一人寝ている病室を出た。
―――・・・・・
からからから、と病室の扉を開けて伏せていた目を黄瀬のベッドへ向けたとき、笠松はその手の中の花瓶を落としそうになった。
「っ、き、せ!」
手短なところの棚に花瓶を乱暴に置くと、そのまま笠松は黄瀬を抱きしめた。
窓の外を見つめていた黄瀬は、ほんのりと笑っていたという。
End
あれ?誕生祝ってナンだっけ?←
- 63 -
[*前] | [次#]
ページ:
戻る
main