是パロ〜茂二の場合〜



それはまだ、二口堅治が小学に上がる前の幼い時の話。

『及川・・・、何で俺だけ皆と同じじゃないの・・・?』

笑ったり怒ったりするだけで、周りの物が壊れて行った。

『それはねぇ、にろくんが言葉の力を操れるからだよ』
『何でそんな力あるの?そんな力要らない!ねぇ、及川!』

なんとかしてよ、と及川に縋るように叫ぶ二口。

『その力を封じる方法はあるけど、同時に言葉も出せなくなっちゃうよ?お話しできなくなってもいいなら、この及川さんがにろくんの力を封じてあげよう』

その時、少し俯いて考えた二口は、ゆっくりと頭を上げ、是、と及川に答えた。
















「あっ、ごめん!」

どんっ、と曲がり角でぶつかり、お互いによろけた。ちりんっ、と紐に付いた鈴が鳴る。
慌てて、茂庭は相手に謝った。相手は、茂庭より高い視点からキッ、と睨みつけてそのまま、まっすぐに及川の居る部屋へと向かって行ってしまう。
その姿に唖然としながら、慌ててその後を追いかけた。

「待って!お前も及川の所に行くのか?なら、一緒に行こう?」
「・・・チッ」

口だけ動かしたかと思えば、チッ、と言う舌打ちをして勝手にしろと言わんばかりに茂庭に目を向けなくなった彼。
暫くして、奥の及川の部屋まで来ると、その襖を思いっきり開けた彼。
ずかずか入っていくと、身振り手振りを加えながら、あれやこれやと及川に喚き散らす。
何を言っているのか茂庭には解らなかったが、及川は笑っている。

「だって、急だったんだもん。てか、もにー、来てるなら言ってよ」

ほら、入っておいで、と言う及川に茂庭を睨みつける彼の視線をじっと感じながら、促された位置に座った。
それに続いて、彼も茂庭の隣に座る。

「えっと、もにー、これがにろくんね」

にろ、と及川が言った途端、ダンっ、と勢いよくそのにろくん?は手を畳に叩きつけた。

「もー、怒んないでよ二口。冗談じゃん。で、二口。これが茂庭、これからお前の紙様になるから」

いいね?と言った及川の眼は、笑っているのに有無を言わさない感じだった。
が、二口は及川に何だかんだと訳のわからないやり取りをする。

「えっ?紙様なんていらない?まぁまぁ、そう言わないで。・・・すぐ壊れそう?大丈夫、その辺は保障するよ。もにーは特にこう見えて頑丈に作ってるからね。大丈夫、お前の力を受けても壊れないよ」

そう言って、二口の頭をなでた及川。二口はチッ、と再び舌打ちをすると、荒々しく部屋を出て行ってしまった。

「ほら、何してるのもにー。追いかけなきゃ。にろくんが今日から君のご主人(あるじ)様なんだからさ」

二口の行動で、ボケーっとしていた茂庭はその言葉でハッとして、二口の後を追った

「・・・さて、ここからが本番だよもにー?」















「えっと、よろしく二口?」

二口を追いかけて行き、廊下の途中で声をかければ不機嫌そうな目で見られた。

「・・・二口君と、茂庭君?」

二口が、及川の時と同じように身振り手振りで伝えると、前から来た清水はふぅん、と言った。
清水とはこの別邸でメンテナンスをする時に良く会ったから、一応顔見知りだ。

「二口君の紙様になったんだ。じゃあ、お布団二口君の部屋に運んでおいた方がいいね。後で持ってく」

それに対し、再び不機嫌そうになった二口は、清水に二、三事頼んで先に行ってしまった。
あっ、と追いかけようとするが、その彼女に腕を掴まれて止められてしまった。

「今、君にいろいろ教えるように頼まれたから来て」

そう言って、清水は茂庭の腕を引いて、リビングの方へと連れていく。
リビングには今、誰も居なくて彼女と二人っきりだった。

「まず、あなたのご主人様だけど」
「二口のこと?」
「そう。彼は特別なの」

特別?と茂庭は首をかしげた。

「彼は、言霊師であるけれど、言葉を話さない。私がこの別邸に来た時にはもうあの紐があったから、私も二口君の声を聞いたことは無いの」

そういう意味で特別。と清水は言う。
話さない言霊師、それがこの一族の中でどれだけ特殊なのか、と茂庭は思う。
言霊で呪詛を生業としているこの一族は、言霊の力がすべてだ。力が強ければ強いほど偉いとされる。
まぁ、今一番の力の持ち主は14歳の子供で、その次が当主である澤村だが。

「彼は、いつも手話とか身振り、口の動きだけで会話するから覚えたほうが良いよ」

そう言うと、基本の動作と意味だけ清水は教えてくれた。
それから、この別邸のルールらしき、暗黙の了解まで教えられた。

「あと、ここでは紙様は主人と一緒に生活してて例外は無いの。だから、今日から二口君と一緒に寝てね」

こっち来て、手伝って、と言う清水に付いて行き、布団を持って、二口の部屋まで案内された。
二口の部屋は、予想に反して和室で、生活感があまり感じる事が出来なかった。
しかし、そこに二口は居て、ぼんやりと外を眺めていた。

「二口君、お布団置いておくね」

それじゃ、と清水は布団を押し入れの前に置いて部屋を出て行ってしまった。
部屋には茂庭と二口の二人っきり。何を話せばいいやら、と考える茂庭。

「・・・えっ、何?」

そんな茂庭に対して、二口は身振りと口の動きで何かを茂庭に伝えようとするが、茂庭は基本の動きもいまいちよく解らないのに、複雑な二口の動きを理解することは出来なかった。

「えっ、ごめん。何?わかんない、えっ?」

と、何度も繰り返される問答に、二口はついにキレたのか勉強机らしき所から新しいノートを持ってきて大きく走り書きをした。

《あんた、面倒くさい》
「えっ・・・」

それが、二口と茂庭の会話と言えるのかも怪しい、最初の会話だった。













あれから、随分と時が過ぎた。二口とはなんとかやっている。
はじめの内はひどかった。一番辛かったのは、白紙になればいいのに、と言われた時だった。
何の拍子だったかは忘れた、けれどその日の二口はいつも以上に機嫌が悪くて、八つ当たりのように手持ちサイズのスケッチブックに暴言を吐かれた。
その時よりは、まだ今の方がマシだった。

「で、もにーはにろくんに懐かれたの?」

もにーと茂庭の事を呼ぶのはこの男、人形師である及川しかいない。

「いや・・・、ぜんぜん」

どうしたら、懐かれるのか、さっぱりわからない、と茂庭はため息を吐いた。

「大変だねぇ、前のご主人様があんな遺言残すから」

ケラケラと笑う及川に、ため息をさらに深くした茂庭。
茂庭の前のご主人は、最後茂庭に、生きろ、と言う言霊を残した。
だから茂庭は生きなければならない。しかし、不要な紙様は白紙となるのが決まり。
なんとかして生きようと、茂庭は及川に掛け合った。その結果、今紙様の居ない言霊師、二口の紙様になる事だけが茂庭の生き残る最後の道となった。

「もにーはさ、にろくんのことどう思う?」
「凄く・・・、不器用だと思う」

そう、あんな暴言を茂庭に付きつけた後、二口は酷く辛そうな顔をしていた。
清水に聞けば、そっけない言葉を憎たらしげに吐きながらも、優しいと言っていた。
何て言うか・・・、ツンデレっぽいと思う。

「でも、俺に色々言いながら、俺を追いだそうとしない。二口は、優しいよ」

及川は、茂庭のその言葉ににっこりとほほ笑んだ。

「にろ君を良く見てるみたいだね、及川さんうれしいよ。と言う事で、及川さんから特別ににろ君に付いて教えてあげよう」

にっこりとほほ笑んだその顔の瞳は、何処を見ているのか空虚で、茂庭は及川の道化に付き合わされているんじゃないかって、よく思う。

「にろ君はね、小さなころから言霊の力が嫌いで、そんな力を持ってる自分が嫌いなんだよ」

だから、あの紐を片時も離さない。だけど・・・、そう言う及川の言葉に目を見開いた。












今日は二口の家族が面会に来ている。
そう、清水から説明を受けた茂庭は、二口と共にこの別邸の応接室に向かった。
この、応接室は何でも特別に出来ているらしい。
俺はその隣にある部屋で待機している。
面会に、紙様を伴う事をよしとしない親族が居た場合の待機場所、らしい。
中の会話は聞こえないが、二口が会話に合わせて首を横に振ったり頷いたりしているのがうかがえる。
うす暗い、二口の顔に隣に居られない事がこんなにも辛くなるなんて思いもしなかった。
暫くすると、本気で何かを耐えていた二口は限界を迎えたのか、首の紐を乱暴に引きちぎるとそのまま叫んだみたいだった。
まずい、と思って中に入ると傷だらけで血まみれの二口と、綺麗だった応接室の惨状が嫌でも目に入る。
それでも、両親に傷一つないのは二口の優しさだったのだろうか?

「帰れ!俺の事なんて放っておけばいいだろ!!」
「落ち着け、二口!」

その時、夢中になってて気がつかなかったけど、初めて二口の声を聞いたんだ。
ぜーはーと肩で息をする二口を落ちつけて、とりあえず元のソファーに座らせると、ゆっくりその頭をなでた。

「落ち着け、大丈夫、大丈夫だから」

二口の呼吸は正常に戻り始めていたが、茂庭の肩に埋めた顔を上げようとはしなかった。

「お前は・・・、○○のところの茂庭・・・そうか、お前が堅治の紙様になったのか」

茫然としていた二口の父親が、茂庭の姿を認識した途端、嘲笑するように二人を見た。

「茂庭も可愛そうにな。堅治なんかの紙様にされて。前のご主人は、お前を大切にしてきたじゃないか。わざわざこんな出来そこないの「黙れ!!」っっ!!?」

二口の放った言霊が、父親に直撃し、その言葉を奪う。

「おい、二口止めろ!」
「黙れ!!俺に触るな!!」

その言葉が放たれた途端、茂庭は言葉を奪われ、二口から引きはがされた。
そして、二口はゴホッと咳き込み、血反吐を吐きだす。ぜーはーとした呼吸のまま、出て行こうとした二口は、椅子から離れ、すぐに倒れてしまう。
心配して近づくも、触れる事が出来なくてそれを癒す事も出来ない。
ご主人の傷も癒せずに、何が紙様なんだろう?茂庭は、歯痒くて、紙様としての自分の無力さを知った。
母親が、外に居る清水に声をかけ、父親と母親はすぐに別邸から出され、及川が二口の元へと訪れる。

「あーあ、派手にやったねぇ」

にろくん、と及川が二口を呼ぶと、二口は射殺さんばかりの視線で及川を睨む。しかし、辛いのか言葉を出して反論する事はしない。
及川はそんな二口を見て、楽しんでいるかのように笑う。

「じゃあ、にろ君に選択肢を二つあげよう。一つは、この館の誰かの紙様に治してもらう。もう一つは、そこに居る君の紙様に治してもらう」

さぁ、どっちがいい?そう言うと、声も無く二口がつぶやく。
けれど、二口はまるで死んでもいい、とでも言うようにどちらを選ぶとも言わない。その鋭い瞳を閉じてしまう。
そうしてまで、俺は二口に必要無いのだろうか?と茂庭は、ある意味絶望にも似た感覚に陥る。

「あらら。じゃあ、もにーはどうするの?」

このまま、にろ君見殺しにする?と及川が茂庭に問う。茂庭はそれに、首を横に振ってこたえる。
声の出せないまま、必死になって二口を助けたいのだと及川に縋る。

「あはは、解ったよ。クロちゃん。そこに来てるんでしょ?」

そう言うと、何処からともなく黒尾が狐の面を持って現れた。

「チッ、あんたにはやっぱり解るのかよ」
「当然でしょ。それ作ったのも、俺だしね」

さて、クロちゃん、と及川は黒尾に二口を部屋に運ぶように言う。
それに、黒尾はゲッ、と顔をしかめながら仕方ないな、と二口の体を抱えた。
あっ、と手を伸ばすも二口の言霊はまだ生きていて近くに寄る事も出来ない。

「今度はもにーの番だよ」

目を閉じて、と言われ素直に目を閉じ、及川は何かを呟いて柏手を一つ打った。
すると、圧し掛かるようになっていた二口の言霊が消えて、体が軽くなった。
すぐに黒尾の後を追いかけて行こうとする茂庭の腕を及川が止めた。

「何だよ及川!!」
「忘れちゃだめだよ、もにー」

はい、と渡されたのは紙様の傷修復用の傷薬(のり)と言霊封じの紐。それを茂庭はグッと握りしめる。
忘れちゃだめだよ、俺との約束。そう言う及川の言葉に茂庭は何も返すことは無く、そのまま二口の部屋へとかけて行く。

「もにーは、にろ君の紙様になれるかな?」










茂庭が二口の部屋に付いた時には、既に黒尾は居なくなっていた。
布団の上で、シーツを真っ赤に染めながら荒く息を吐く二口だけが、そこに居た。

「二口・・・、今、治してやる」

そう言って、二口に口付ける茂庭。粘膜が触れ合った瞬間、茂庭に無数の傷が走る。
けれど、制御しきれていない言霊を、数回に渡り使った二口の傷は完全に治りきらない。

「二口、あぁ、死ぬな、二口」

何度も、何度も口づけをする茂庭だが、傷が完全に自分に移らない事に焦りを感じ始める。
そして、及川に渡された物の存在を思い出す。

「・・・ごめん、二口」

最早、布切れと化した二口の着物を剥ぐと、紙様の傷薬を手にする茂庭。

「これで、少しは楽になれるから」

そう言って、二口の後ろに塗りつけ、中に指を入れる。すると、意識の無い二口の体が無意識に跳ねる。
紙様の傷薬は基本的に無害だが、人が使うと刺激が強いらしい。
ごめん、ごめんな、と茂庭はそこをほぐす事もそこそこに、十分に濡れたと判断して茂庭自身をもぐりこませていく。
あぁっ!と悲鳴じみた二口の声が上がる。ぐっと、最奥まで進めば、ゆるゆると二口の眼が開く。

「はっ・・・、んぁ、あっ、もにわ、さん?」
「二口、良かった、二口・・・」

そう言って、茂庭は二口を抱きしめた。
抱きしめて、安堵の息を吐く茂庭に、二口は漸く状況を理解する。

「んぁっ!なっ、これ・・・」
「ごめん、お前を助けるためにこうするしかなかった」

ごめん、そう謝る茂庭。二口は、唖然として言葉も無くして茂庭を見つめていた。
そうしている内に、茂庭がゆるゆると動きだし、考え事すらできなくなる。

「あっ、ぁぅああ、やっ、んぅ・・・」
「ごめん、酷いことしてるって解ってる。でも、俺はお前に死んでほしくなかった」

だから、ごめん。そう謝る茂庭に、二口はもう意識を保っている事も出来なくなりそうなぎりぎりのラインで手を伸ばして、その頬をなでた。

「ひっ、あぁああぁー!!」

そう、二口は果てた後、意識を失った。
ずるっ、と二口の中から抜け出した茂庭は、二口の肌に付いた血を舐め取って、傷が無い事を確認して一息ついた。
けれど、血まみれのシーツに二口を寝かしておく事も出来なくて、自分の布団を引っ張りだし、その上に二口の体を転がした。
気崩れを直して出来た傷に薬を塗り、そのシーツを持って廊下に出ると、丁度清水が歩いて来た。

「・・・終わったの?」

何もかも知っているような清水の言葉に、茂庭は曖昧に顔をゆがめる事で返す。

「そう・・・、茂庭、及川が呼んでたよ」

それだけ言うと、清水は茂庭の持っていたシーツを受け取って踵を返して行ってしまった。

「そっか、もう・・・、潮時か・・・」

そう言って、茂庭は自嘲すると、一度二口の居る部屋を見てから、及川の部屋へと向かって歩き出す。

「・・・ごめんな、さよならだ」












ん、と二口が目を覚ますと、そこは自分の部屋で、あの惨状は嘘だったかのように何もかも綺麗になっていた。しかし・・・。

「もにわさん?」

その声に反応する人が居ない。
二口は、何故かそれに少し焦りを覚えて、枕元に置いてあった、きっと茂庭が用意したであろう着物を身につけ、首に言霊封じの紐を結び付けると、部屋から出て行った。
廊下に出た所で、谷地の後ろ姿を見つけ、二口は谷地の肩をポンポンっと叩く。

「ひゃい!!」

びっくりしたように、肩をはね上げる谷地の姿に二口も少なからず驚く。
何度か対峙しているはずなのに、いつもこれだから変わらないなとも思う。

「えっと、二口さん!どうかしたんですか?」

驚きが収まったのか、ようやく話の出来る状態になった谷地に、二口は茂庭が何処に居るか尋ねる。

「茂庭さんですか?ごめんなさい、解らないです」

しょぼん、とうなだれてしまう谷地に二口は慌てて捜すから大丈夫、と伝える。
すみません、お役に立てなくて、と言う谷地は突然あっと声を出した。

「清水さーん!!」

廊下の端を通りかかった清水を見つけ、声を出す。
その清水に、二口は谷地にした質問と同じ事を聞く。

「茂庭?あぁ、及川に呼ばれてたよ」

という、清水に二口は嫌な予感がした。
清水と谷地にお礼を言って、及川の部屋に急ぐ二口。
初めて茂庭と及川の部屋に入った時のように、スパンっと襖を開けて入る。

「あれ、にろ君もう元気になったの?良かったね」

そんなことはどうでもいい、と二口は、茂庭は何処だ、と及川に詰め寄る。

「もにー?彼なら、今は一人で心を決めてるんじゃない?もうすぐ白紙に戻るんだしさ」

白紙に?どういう事だ、とさらに詰め寄る二口に、及川はまあまあ、とそれを制す。

<茂庭さんは俺の紙様だろ?>
「だって、君、死にそうになったって使わなかったじゃない彼」
<だったら、何だって言うんだよ?>
「いらないんでしょ、紙様」
<誰もそんなこと言って無いだろ!!>
「じゃあ、白紙に戻した後もう一回作ってあげるよもにーをさ」
<そうなったら記憶はどうなる?>
「白紙に戻すんだから、無くなるにきまってるでしょ。でも、安心して。それで、ちゃんとにろ君だけを思ってくれる紙様になるからさ」
<んなこと、どうだっていいんだよ!!>

地団太を踏むように、畳をドンっ、と踏み込んだ二口。
再び言霊封じの紐を引きちぎって及川の胸ぐらを掴む。

「茂庭さんを返せ及川!」

飛び出した言霊が、及川の部屋のあちらこちらに傷を付ける。
それは、二口自身にも帰ってきて、せっかく癒された体に傷を作った。

「茂庭さんは俺のものだ。良いから早く返せ及川!」

だって、と及川が奥の襖に声をかけると、そこから現れたのは二口の探し求めていた茂庭自身で。

「二口、お前・・・怒って無いのか?」
「怒るって、何に?」

及川の体を離し、ふらふらのまま二口は茂庭を抱きしめた。
唖然としていた茂庭はただされるがままだ。

「お前を無理やり抱いた事。お前を生かした事・・・、お前にした事は全部俺が生きるためのエゴだ。だから・・・」
「それで?茂庭さんは、俺に何て怒ってほしい訳?俺を良くも生かしたな?それって見当違いじゃないっすか?俺を生かしたくせに姿を消そうとした事にだったら怒りますけど、俺を生かした事に付いて怒る所は見当たりませんけど?」

言霊封じの紐で封じられてたとは思えないほど、二口は良く話す。
ところどころ、言葉に力が入るのか、ぴしっと及川の部屋の柱や何かが悲鳴を上げ、二口の体に少しずつ傷を作るが、それでも二口が生きて、こうして自分と対話している事に驚くほど茂庭は感動していた。

「ねぇ、茂庭さん。茂庭さんはどうしたい?このまま、白紙になりたい?」
「おれは・・・、お前が許すなら、お前の紙様でありたいよ」

紙様でなければ、きっと今茂庭は涙を流していただろう。
そう、ボロボロと涙する二口のように。

「あーあ、結局もにーはにろ君の物になっちゃうのかぁ」

そう言った、及川は部屋の惨状を見て思う。

「あー、それにしてもどうするかな?」

暫く本邸暮らしに戻りそうだと、及川は珍しくため息を吐いた。

End

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