パパ倶利伽羅と子倶利伽羅
この本丸には、大倶利伽羅が二振いる。
一振り目は、普通の大倶利伽羅だった。が、二振り目が普通ではなかった。
いや、見た目は同じだ。少し、二振り目の方が小さいが。
ただ、中身が少し幼い。天然で、ぽやぽやしている。
そんな二振り目を見た審神者は、二振り目を刀解することが出来ず、この本丸には大倶利伽羅が二振りいることに成った。
二振り目の大倶利伽羅は通称、子大倶利伽羅、広光、と呼ばれている。
そんな広光は、一振り目の大倶利伽羅が大好きだ。
広光は、本丸で愛されている。皆、刀剣男子としては少し知識も足りぬ広光をとても愛しく、我が子のように愛していた。
けれども、広光の一番は大倶利伽羅だ。一振り目の、大倶利伽羅。そっけない態度のはずなのに、何故か、同じ大倶利伽羅だからか、広光はよくなついていた。
「ぱぱっ!」
非番で縁側で爺たちとお茶をしていた広光は、出陣から帰ってきた大倶利伽羅を見つけてぱあっ、と顔を輝かせて飛び出していく。
少し返り血を浴びているものの、何時ものように憮然としている大倶利伽羅に広光が飛びついた。
「ぱぱ、おかえりなさい!」
「っ!あぁ」
勢いをつけて飛びついて来た広光を、大倶利伽羅は何とか受け止め、はぁ、と息を吐いた。
大倶利伽羅は、広光の頭を撫でてやる。すると、広光は心底嬉しそうに笑う。
「コイツは驚いた。此処にはもう一振り大倶利伽羅がいるのか。よっ!覚えてるか?伊達家で一緒になった、鶴丸国永だ」
「おぁっ、何をする?」
「……大倶利伽羅、広光」
大倶利伽羅に喜んでくっついていた広光は、鶴丸の姿を見ると目を丸くして、次の瞬間には大倶利伽羅の後ろに回り、盾にしていた。
広光、と名乗った声も、どこか拗ねたような声色だ。
周りで見ていた刀剣男子たちは、皆一様におや?と内心首を傾げた。
基本的に誰にでも懐く方の広光が、此処まで初対面でも鶴丸を遠ざけるとは思わなかった。
ちなみに、光忠は広光の魂現初日にやられている。今では、保父さんと園児、みたいになっているが。園児にしては大きすぎるが。
はぁ、とため息を吐いた大倶利伽羅は、広光の頭を撫でて言う。
「主に戦果を報告しに行く、だからお前は三日月たちと茶でも飲んでいろ」
「……早く戻ってきてね?絶対だよ?」
「分かっている」
「ぱぱは広光のぱぱだから、ぱぱは広光のだから!」
「誰も取るなんて言ってないだろ。ほら、早く行け」
まだ納得できていない様子の広光は、むぅ、と分かりやすく拗ねてます、と言った風に頬を膨らませて、ギュッともう一度だけ強く大倶利伽羅を抱きしめると、そのまま踵を返して駆けて行った。
少し遠くの縁側で、広光を手招く爺たちの姿が見える。
はぁ、とため息を吐くと大倶利伽羅は鶴丸について来い、と言い、主の部屋を目指した。
主は隊長だった大倶利伽羅と少し話があるようで、鶴丸は先に主の部屋を後にした。
ふと、先ほどの広光の様子が気になった鶴丸は、そのまま広光の向かった縁側を目指してみる。
そこでは、三日月や鶯丸、光忠など世話好きや爺と称される刀が広光を取り囲んでゆったりと話していた。
その顔は、先ほど大倶利伽羅の側で見た顔よりも表情が無く、楽しそうと言えば楽しそうだが、どこか少し不服そうだ。
「よっ!三日月。久しぶりだな?」
「おお、鶴や。おぬしもとうとう、この本丸に来たのか」
「あぁ、所で……俺は嫌われてるのか?嫌われるような事をした覚えはないのだが」
俺が来たとたん、隠れるように光忠の後ろへと回った広光に、鶴丸は少し寂し気で困ったような声を出す。
「ぱぱは広光の」
「……だから、そのパパを取る真似を誰もせんと言うのに。何が不安なんだ?」
「……鶴も光忠も、きらい。ぱぱを知ってる刀なんて、きらい。ぱぱは、広光のだもん」
「慣れあうつもりはない。たとえ、それが元の主が同じ刀剣だとしても、だ。前も言ったはずだ」
腰に手を当てて、呆れた顔で広光たちを見ている大倶利伽羅。
広光は、輝き勇んで大倶利伽羅に飛びつく。
大倶利伽羅はそんな広光を見て、再びため息を吐く。
「三日月たちに迷惑をかけるなと言っただろ」
「……広光、悪くないもん」
「本当だよ?鶴さんが来るまでは、いい子にしてたからね」
「おいおい、俺の所為かい?」
なんだかな、と肩を竦める鶴丸。
大倶利伽羅はチラッと三日月や光忠を見て、世話になった、とそのまま踵を返す。
あっ、待って!と大倶利伽羅の後を付いて行く広光。
「どうやら、嫌われる以前の問題だったらしいな」
「僕も、久しぶりに広光くんから嫌いって言われたなぁ」
「そもそも、大倶利伽羅を知ってる刀が嫌いって、どうする事も出来ない問題じゃないのかそれ!」
「うーむ、諦めろ。鶴」
「逆になんか燃えてきてしまったんだが?」
「はっはっはっ、燃え尽きてしまえ、鶴や」
「ひでぇ爺さんだなっ!」
「びっくり爺に言われたくは、ないな?」
☆★☆★☆★☆★☆
風呂に入り、夕餉を終え広光を寝かしつけた大倶利伽羅は、縁側に出て月を眺めながら飲んでいた。
そこへ、そろ、そろ、と近づく白い影。
「俺を脅かそうとするなら、無駄だ」
「ちっ、なぁんだ、分かってたのか」
ちらっと鶴丸へ視線を向ける大倶利伽羅。鶴丸は仕方ないなぁ、と言うように素直に大倶利伽羅の隣へ腰を下ろした。
「……昼間はすまなかったな」
「んん!?あっ、あぁ、広光の事か?」
「あぁ」
「気にしちゃいないさ。そんな事より、俺にも酒をくれ」
鶴丸は、大倶利伽羅の側に会った盆からお猪口を一つ拝借すると、大倶利伽羅に差し出す。
大倶利伽羅は面倒くさそうにそれを見た後、舌打ちをしながら酒を注いだ。
「……アンタにも伝えておくべきだろう。広光には……、記憶が足りない」
「記憶が足りない?」
「そうだ。アンタや光忠、貞宗の事は覚えている。けど、伊達家で何が有ったのか、何をしたのか、どこに居たのか、何も覚えてはいない」
「……そりゃあ」
「そうだ。魂現に失敗したんだ。だから、ああも幼い頃の俺が出てきた」
「それと俺が嫌われてるのと、何の関係がある?」
「……俺はすべて覚えてる。けどアイツは何も覚えて無くて、唯一覚えている記憶を共有できるのは俺しか居ない。同じ刀から魂現しているから。でも、俺にはお前たちと過ごした記憶がある。だから、怖いんだ」
「怖い?」
「俺だけがすべての世界で、俺を失うことが」
つまりは、独りぼっちになるのが怖いお子様なのだと、大倶利伽羅は言う。
何故かその話は、鶴丸を更に燃え上がらせてしまった。
次の日から、鶴丸による広光びっくり作戦が始まった。
普通に後ろから近づいて驚かすのはもちろん、落とし穴を掘ってみたり、まぁ、まぁ何とまぁ色々。
成功と失敗は半々だが、一向に広光の態度は軟化しない。
「なぁ、光坊」
「なんだい、鶴さん」
「お前はどうやって広光を懐柔したんだ?」
「あぁ……、僕は貞ちゃんを待ってるって話をしてね?そこから……まぁ、色々と話した末に?かな?」
「どういう事だそれ?」
これ以上は長くなるから離したくないなぁ、と苦笑いする光忠。
そんな光忠にこれ以上聞くわけにもいかず、鶴丸は珍しくため息を吐いた。
☆★☆★☆★☆★☆★
この日、広光は朝からとても機嫌が良かった。
何故なら、今日は大倶利伽羅が非番で有り、また広光も非番であったため、一日大倶利伽羅と共に過ごすことが出来るからだ。
朝からテンションの高い広光に、周りからは良かったな、と声をかけられる。
普段、こうして非番が重なった日でも、大倶利伽羅は広光に対して何かをするわけではない。
なのに、なぜ毎回こうも楽しみにしているのか、少し疑問に思える。
「ぱぱ、今日はなにするの?」
「……少し大人しくしていろ」
本を持ち出した大倶利伽羅は、縁側の少し影になっている場所に腰を下ろして柱を背もたれにする。
広光は広光で、持ち出してきた絵本や簡単な小説などを大倶利伽羅の膝枕で勝手に読んでいた。
始めの頃は、やめろ、とその頭を落としていたが、次に同じ体制になるとすぐに同じことをしだして、いつの間にか止めなくなった。
邪魔をしてくるわけじゃないが……邪魔臭い。
どれだけ読書に夢中になっていたのか、気が付けば隣の騒音……広光の声がし無くなっていて、見れば、広光は気持ちよさそうに眠っていた。
まったく、と大倶利伽羅は起こさないように上着を脱ぎ、広光にかける。
ぱぱ、と寝言で呟き笑う広光を見て、仕方がないなぁ、と言うような顔をする大倶利伽羅。
その目は案外優しさに満ちていて。
「光坊、光坊!」
小声で呼ばれた光忠がなぁに、鶴さん、と近づいて指を指された方を見て、くすっと笑う。
「気持ちよさそうに寝て居るねぇ」
「あぁ……慣れあわない、と言うのに随分な大所帯だ」
ふと、目が覚めた大倶利伽羅。気が付けば本を片手に眠ってしまっていたらしい。
ボンヤリとした頭で膝を見れば、重みが増している。
急に広光の頭が重くなるはずもない。
冴えてきた頭で全体を見回して、少し唖然とする。
「……いつの間に」
大倶利伽羅は片手で頭を押さえる。
膝の上には、広光の頭と五虎隊の虎が一匹。
他の四匹は、広光と、広光の側に寝ている五虎隊を取り囲むようにして散らばっている。
五虎隊を呼びに来たのだろうか?
厚も、何故か広光を挟んだ五虎隊の反対側へ寝ている。
乱も、前田、平野、秋田、それに薬研まで居る。
何で短刀ばかりが、と思えば、大きいのもいた。
宗三左文字、小夜を迎えに来たのだろう。小夜を抱えて、大倶利伽羅とは反対側の柱にもたれて眠ってしまっている。
山姥切国広もいる。ぼろの布が、広光の下半身を覆っている。たぶん、短刀の誰か……と言うか厚に連れてこられたのだろう。
フードは脱げていないが、はぎ取られる勢いだ。申し訳ない。
すよすよとみんな、非番の者たちばかりだが、気持ちよさそうに眠っている。
まぁ、いいか。と大倶利伽羅は深く考える事を放棄して、再び目を閉じた。
静かな眠りが、再び広光の明るい声で起こされるまで。
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