おらの知ってる刀剣男子じゃない
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こんにちは、おらは蝦夷の審神者。
話には聞いていたが、本当にこんな世界があるとは思ってなかった。
でも、この本丸の刀たちは、おらが話に聞いていたのとちょっと?違う。
「おはようございます、主」
背後から、にょきっと顔を出したのは、派手なわりに優雅なエロ……ロイヤル様……でもなく一期一振さんでした。
びくぅ、と体を跳ねさせたおらに、一期さんは意地悪く笑う。
「おや?どうかなさいましたかな?」
「いっ、いいいいっ、いえっ、おっ、おはようございます」
「はい、主様」
にっこりと笑うその笑顔がとても恐ろしい。
何故って?この方、こんなにも優美で雅そうに見えるのに、戦場に出ると人が変わったように恐ろしくなる。
おらの知ってる、一期一振は「お覚悟っ!」とか結構、優しそうだった。
家の一期さん、怖い。
「各個撃破と洒落込みますかぁ!」
とか、めっちゃにこにこ笑って時間遡行軍切ってる。めっちゃいい笑顔!
目が逝っちゃってる……。
怖い、とにかく本丸に戻ってきたら優しい一期さんなのに、戦場に出ると様変わりするから本丸でも怖い。
「主さーん、起きてるー?あっ、一期君が起こしてくれたのかな?」
「おはようございます、光忠殿」
ひょっこりと顔を出した、カッコよさを追及している、燭台切光忠さん。
ほっと、一安心……出来るはずもなく、笑うを通り越しておらは遠くを見やる。
一期さんはそんなおらを見て、クスクス笑いながら、弟たちを起こしに行った。毎日、おらを起こしに来なくてもいいから、まっすぐ粟田口の一派を起こしに行ってあげてください。
「みっただ、今日も個性的な神(髪)型ですね」
「そうかい?主君が毎日褒めてくれるから、僕も本丸の中は自由に歩けるようになったんだよ、ありがと」
にっこにこ笑う顔はカッコいいのに、その神(髪)型の所為で台無しだ。
最初に来た時は普通の髪型だった。けれど、次の日、部屋から出てこないみっただを見に行くと、もうこの個性的な神(髪)型になってた。
どうやら寝ぐせらしい。直しても、直しても、直らないから、引きこもってたらしいけど、個性的な神(髪)型と言えば、少しずつだけど本丸の仕事にもついてくれた。
この本丸の刀剣男子たちは問題児が多すぎて、どうにも人手が足りない。
「それで、伽羅ちゃんなんだけど……知らない?」
「おらの所には来てないから、貞……はないな、鶴と一緒にいるんじゃないか?」
「そっか。ありがと、主もご飯の準備は出来てるから早くおいでよ」
はーい、とみっただに良いお返事をする。みっただはそれを聞くと、クスッと笑って部屋を出て行く。
うん、その笑い方はカッコいい、というよりも色気あるよ。
「さてぇぐぇっ!」
どんっ、とみっただが居なくなってから上半身の伸びをしていたおらの後ろから、どんっ、という衝撃が加わった。
変な声まで出ちゃったじゃないか。
なんだぁ?と思って振り返ってみると、少し明るい黒から赤に変わる髪の毛が見える……。
「……おはよう、伽羅坊ちゃん」
「坊ちゃんじゃない……ぉはょ」
むっすーとした顔のまま、おらにおはよ、と返してくる伽羅坊ちゃんが可愛い。
ちなみに、伽羅坊ちゃん……おらと伊達の刀以外には人見知り継続中で……部隊編成をするのも一苦労だ。
「伽羅坊ちゃん、みっただが探してましたよ」
「……知ってる」
知ってるなら早く行ってあげなよ、と思いつつ、こっそりとしか行動できない伽羅坊ちゃん。
そんな伽羅坊ちゃんが色々と動き回っているみっただに会いに行けるはずもない。
「……おっ、大倶梨、大倶利伽羅、だ」
魂現したとき、こんなにも泣きそうになってる刀剣男子初めて見た。必死になって、魂現時のセリフを言おうとしているけど……言えてない。どうした、大倶利伽羅。
おらの霊力は知ってるから、大丈夫なのか、その時近侍にしていた三日月を見て、酷く怯えていたっけか。
丁度よく表れた鶴丸が、助けてくれたんだっけか。この二振りももちろん、おらのしってる二振りとは別物なのだが。
仕方なしに、伽羅坊ちゃんを連れて、貞の所へと向かう。
なるべく刀剣たちが現れないようなルートを通って。
しかしながら、そう言う時に限って現れるタイミング悪い迷子がこちらです。
「主っ!今、この長谷部が起こしに参ろうとしていたところでしたのにっ!」
そう、ご存じへし切り長谷部。主命とあらば、で飛んでくる、ってイメージだったのに、呼んで一時間以上来ないからどうしたのかなって思ってたら、他の刀剣男子に助けられているところを結構目撃している。
迷子の長谷部。まぁ、家の刀剣男子にはもっとすごい迷子もいるけれど……。
「そっか、ありがとう。伽羅坊ちゃん、痛いから。おらの背中、痣出来ちまう」
長谷部の登場により、人見知りを発動させた伽羅坊ちゃん。
可哀想なくらい震えておらの後ろで、おらの背中に隠れようとしている。その握力の強さに、おらの背中、えぐられそうになってる。
掴むなら、着てるものだけにしておくれ。
「主たち、こんな所でそろって何をしてるんだ?」
「っ、鶴丸っっ」
突然かけられた声に、ハッとして長谷部の後ろを見れば、あの白い刀剣、伊達組でもある鶴丸国永さんの姿。
背中から、離れた手に安堵する。けど、後で薬研に薬を塗ってもらおうと思う……うん。大丈夫、だよな?
伽羅坊ちゃんは素早くおらと長谷部の横を通り過ぎて、鶴の後ろに納まり、ホッと息を吐いている。
鶴はそれを平然と受け入れている。そもそも、伊達組はそう見えないだけでとてつもなく仲が良い。
みっただにしろ、貞にしろ、伽羅坊ちゃんにしがみ付かれて嫌な顔はしない。
寧ろデレデレしている。やめてほしい。
その中で、鶴は異色とも言えよう。
「貞の所に、伽羅坊ちゃんを届けようと思ってな」
「そうだったのか。それなら後は俺が引き受けよう」
「よろしく頼む。あと、みっただがそろそろご飯だと言っていた。食堂に行くのも選択肢の一つだと思う」
そうか、という鶴を見送り、ホッと息を吐いた。伽羅坊ちゃんをつれて、来た道を戻っていく。
はぁ、と安堵の息を吐いた。鶴と居る時は、何故か緊張してしまう。
まぁ、普通の鶴丸と一緒にいると緊張するなんてありはしないだろうけど……。
家の鶴丸国永は、一言で言えば、笑わない。
にこりともしない。あれ程の美形が笑わないなど、印象は冷たく見えてしまって当然だ。恐ろしい。怖い、なんて思って何が悪い!?
そもそも、「人生には驚きが必要だ。予想しうる出来事だけじゃ、心が先に死んでいく」と自分で言っているにもかかわらず、表情筋が死んでいる。驚くほどの無表情だ。
声の抑揚もないから、怒っているのか、喜んでいるのか、楽しんでいるのかさえ分からない。
でも、前に庭で真剣に何かをしているな、と思っていたら落とし穴を掘っていて、それに引っかかる刀剣たちを見て、満足そうにしていたっけか。
やる事、中身は普通の鶴丸国永と変わらないから、本当に何が起きるか分からなくて怖い。驚きなんて、可愛いものだと思い知らされる。
ポーカーフェイス、なんて……鶴には必要なかった。
「主、さぁ食事に向かいましょう!長谷部めが案内して差し上げます!」
「そうか、長谷部が付いてきてくれるのか、それは安心だな」
案内、の部分を聞かないことにしておらは歩き出した。
流石に、長谷部もおらの後を追えないほどの方向音痴ではない。
この本丸で未だに迷っている時点で、相当なものだけれども。
「うへへへへっ、今日は良い日だなぁ、山姥切の」
「……はぁ」
食堂に着くと、前から二人やって来た。
お分かりいただけるだろうか?一人は、山姥切国広。通称、まんばちゃんだ。
それから、もう一人。おらの知っているこの人はこんなおかしな笑い方をする人じゃなかった。
三日月、宗近……本当、彼が来た当初、嘘だよね!?と耳を疑ったようね。
うへへへへっ、うひゃひゃひゃ、イヒヒ、などなど、どうしてこの人こんなに気持ち悪い笑い方しているの。
家のじじ……三日月宗近は、本当に、本当に話し方とか振舞とかおらの知っている三日月宗近なのに、笑い方だけ何でかとても残念なのだ。
ホント、良い事を言っていても、笑い方ですべてが台無しだ。カッコいい……?ってなる。
「じじ、まんばちゃん、おはよう」
「三日月宗近、山姥切国広、おはよう」
「おや?主と長谷部か。うむ、おはよう」
「……おはよう」
「所で、どうして今日は良い日なの、じじ」
と、首を傾げて見せればそうだった、そうだった、とポケポケ言われた。
これは絶対、伝え忘れたパターンだ。この糞爺。
「はぁ……陸奥守が返ってきた。一年と六か月ぶりだな」
「……あぁ、久しぶりにその名前聞いたなぁ」
我が本丸の初期刀様の一人。陸奥守吉行は、まぁ言ってしまえば時空跳躍に嫌われたワールドワイドな迷子様だ。
何故か、部隊で出陣したとしても、一人で出陣したとしても、設定した時間を外れ、別の時代の別の場所に行ってしまう。
時間、時空、時代、全て不明のため、捜索のしようがない。「こがな所にきたがやき、世界を掴むぜよ!」本当に、世界中を駆け巡ってるよね、君。
まぁ、一人でも確実にレベルを上げて帰ってくるからいいけど、その内折れるんじゃないかって不安になる。
我が本丸の本当の初期刀様なのに、初任務で消えてしまった陸奥守。
それゆえに、もう一振り、初期刀様をお迎えすることに成ってしまったのだ。
それが、山姥切国広。本当に来た当初から恐ろしい初期刀様でございます。
ここまでフレンドリーになるに、どれほどの時間がかかったか……。
我が本丸のまんばちゃんは、ガラが悪い。目つきも悪いし、何よりあまり言葉遣いもきれいではない。
普通の本丸の山姥切国広なら「何だその目は、映しだというのがきになると?」と卑屈精神まっしぐらな青年なのに。
我が本丸のまんばちゃんは「山姥切国広だ……。何見てんだコラ、映しだ何だってうるせーんだよっ!」何て言われてしまった。殴られなくてよかった。打撃力、防御力共におらの方が劣ってるし。
ただ、初めましてのあいさつがしたかっただけなのに。映しだからどうの、何ておら、一言も言ってない。
こんのすけによれば、照れ隠し、だったようだ。恐ろしいな。おらは一般的な人種だから、ヤンキーは出来ればお断りしたかった。
ちなみに、このまんばちゃん。戦闘時、刀を忘れます。本体なのにね。素手で殴って敵を倒す、ちょっとしたイレギュラー。刀使って刀剣男子っ!!
心配って言うか、喧嘩早くて、困ったちゃん。沸点、低いよ。低すぎるよ、ヤンキーまんばちゃん。
食堂に入れば、にゃーにゃーいう語尾が特徴的な声が聞こえて来た。
あぁ、本当に帰って来たんだ、とホッと息を吐く。
何故かある、主専用席、と書かれた場所に座ると、周りを今日の刀剣たちで囲まれる。
刀剣に好かれる体質でよかった。
「主、本物の虎徹であるこの僕に、こんな雑用やらせるなんて、どう思う?」
「……戦闘で使い物にならないので、頑張って働いてください。働かざる者、食うべからず、です」
おらの膳を運んできたのは、せいんと……せいやじゃなくて、蜂須賀虎徹さん。
「本物の切れ味を見せてやろう」とか言うけど、そもそもその本体を使っているところを見たことがない。
部隊に配属させて、部隊長から苦情が来た。本体を汚したくないから、抜かない、と。
我が本丸の蜂須賀さんは、綺麗好き、です。相手の血で汚れるのが嫌だとか……刀剣男子やめてしまえ。
何で出てきた?と言いたくなる。引きこもっていろ。
こう、蜂須賀さんに冷たくなるのは、他の刀剣男子たちが怖すぎるしわ寄せです。
伽羅坊ちゃんにぶつけちゃいけません。泣かせたら、おらの命が危ない。伊達組怖い。
色々と朝から濃ゆいメンバーを相手にして、執務室ではぁ、とため息を吐いた。
ちなみに、外から咆哮が聞こえてくるのは、気の所為じゃありません。
家の庭には、白い虎が五匹ちゃんといます。五虎退の虎さんです。
でも、短刀なのに小さくありません。大きいです。何を間違ったのか、大きいです、虎が。
皆、普通に遊んであげているけど、おらにはそんなおっかない事出来ません。
五虎退が来るだけでビビりそうです。向こうもおらもビビっていては話にならないので、ちゃんと平静を装いますよ。
ぱらっと時間遡行軍の動きについての資料や、政府からの要請などの書類をめくり、今日の出陣を決める。
誰に任せようかな?と思っていれば、歌仙を伴った薬研がノックをして部屋に入ってきた。
「よっ、大将。俺っちを呼んだって?」
「うん。おらの背中なんだけど……」
「怪我かっ!」
キラキラと目を輝かせた薬研。この本丸の薬研は、仲間の傷や怪我を大層喜んでいる。
何故かッて?薬研が根っからの研究者体質だからだ。
時には、時間遡行軍すら捕まえて実験をしている。本当に恐ろしいよね。だから、おらは普段薬研に近づかないし、薬研の部屋には絶対に入らない。
「……普通の薬をください」
「それじゃ、詰まらんだろう。ちょっとばかし、症状のある場所をみせてくれ」
薬研に言われ、歌仙を執務室に待たせたまま、奥の部屋へと二人で引っ込む。
上着をすべて脱げば、ほぅ、と薬研がつぶやく。
触っても良いか、と言われたので良いと言えば遠慮なしに触られた。痛い。
「……とりあえず分かった。俺っちは、部屋に戻って薬を取ってくるから、歌仙の事頼む」
「……普通の薬を頼むから、お願いします」
本当に、本当に普通で良い。おらで実験しようとしないでくれ。
新薬はいい、いらない。今までの薬で十分だから。
そんな心配をしながら、おらは薬研の去った後、上着を着て、執務室の方へ戻った。
そこでは、歌仙が素直に座って……いてくれればよかった。
部屋が大惨事だ。
「歌仙……」
「すまない、主……片付けてあげようと、思ったんだが……すまない」
「気持ちは嬉しいよ、ありがとう」
けど、大人しく座っていて欲しかった。
椅子の上を片付けると、歌仙をそこに座らせて部屋の中をザッと片付ける。
ある程度戻った所で、歌仙へとお茶を出した。歌仙はゆったりとした手つきで、それを手に取ってほっと息を吐く。
家の歌仙兼定は、超絶不器用と言うか……お爺ちゃん並みにお爺ちゃんだ。
炊事洗濯はもちろん、片付けも出来ない。自分の、内板衣装も戦闘衣装も着替えることが出来ない。いつも、短刀の誰かと一緒にいて着替えを手伝ってもらったり、部屋の片づけをしてもらったりしている。
そんな歌仙だ。家では、内番をやらせたりしない。戦闘だけは出来るから、そっち方面で頑張ってもらっている。……ただでさえ、刀剣たちは爺が多いのに、歌仙まで爺だとは思わなかった。
そうしている間に、薬研が帰ってきて、共に加州ちゃんを連れて来た。
これで、部屋が荒らされることは無いだろう。おらは加州ちゃんに任せて、薬研と共にまた奥の部屋へと引っ込む。
そうそう、加州ちゃんは加州ちゃんで可愛い刀だ。
始めに来た時は、本当に普通の打刀の加州清光だった。綺麗で、可愛くて、本当に好きだなぁって思ってたんだけど、何故か次の日、悲鳴と共におらの部屋へ駈け込んで来たのは重傷風の加州ちゃんだった。犯人は薬研だっただろうけど、おらは重傷加州ちゃんの方に見とれてしまって……重傷加州ちゃんの方が可愛いとおらはおもう……それを加州ちゃんに言ったら、薬研に元に戻れる薬も貰っているはずなのに、ずっと重傷加州ちゃんのままだ。可愛い愛しい。こういう加州ちゃんだから、よくおらの本丸はブラック本丸?と勘違いされる。けど、おらの加州ちゃんのHPが満タンなのを確認するととても変な顔をされる。可愛い加州ちゃんに向かって、なんていう目をするのかって怒った事が一回か二回、有った気がするなぁ。ちょっと、色々濃ゆいのが多すぎて、何て言うんだろう……あまり、自分で起こしたことのインパクトが無い。
おらが加州ちゃん溺愛している事を加州ちゃんも知ってるから、加州ちゃんはいつもご機嫌だ。可愛い。
「ありがとう、加州ちゃん。歌仙の相手をしてくれて」
「とーぜん。主のお願いを俺が断るわけないじゃん」
戻ってお礼を言うと、嬉しそうに言葉を弾ませる加州ちゃん。
ちなみに、背中に塗られた薬の所為で、何か背中がひりひり痛い。
本当に、普通の薬なんだろうか?不安になってきた……。
皆を送り出して、ほっと一息ついたところで、ノックが響く。
はい、と返事をすればひょっこり水色の戦闘狂……一期さんが顔をだした。
ひぃっ、と震えそうになったけど何とか押しとどめる。
「すみません主、お邪魔いたします。おじはこちらに来ては居ないでしょうか?」
「おじ……あぁ、鳴狐なら来てないよ」
どうしたの?と聞けば、今日は洗濯当番だったが、居ないとのこと。
内番は、秋田と一緒にしたから、秋田が困っていたのだろう。
本当にいい、兄だとは思う。戦闘狂じゃ無ければ。
秋田と言えば、間違えませんよね?と言うあれだけど……おらの秋田はむしろどうしてそうなった?と兄弟のコスプレをしている。
本当に似すぎていて、たまに本物と秋田と分からなくなる時がある。
はっきりとわかるのは、薬研の時と乱の時だ。
薬研のあの病的なまでに白い肌には、秋田はなれないし、乱のようにイケメンじゃない。
……乱がイケメンだって?おらだって、本丸の紅一点である乱ちゃんを期待していたさ!
でも、見た事のないイケメンが来たなぁ、と思ってたらそれが乱ちゃんだったんだよぉ……この時のおらの気持ちが分かるか!?
イケメンが、「僕と、乱れたいの?」なんて言い出すんだぞ?耳に地獄だった。
勢い余って、一期さんに飛びついて、まんばちゃんに八つ当たりするほど驚いた。
まんばちゃんには後で倍返しにされたし、一期さんはその後少し怖かった。
「……あ・る・じぃ?」
「はっ、はいっ!?」
「それでは、私は失礼しますね。おじを見かけたら、私が探していたと伝えてもらってもいいですか?」
「了解です!」
ピシッ、と敬礼を決めると満足そうに微笑んで、それではと一礼して部屋を出て行った。
はぁ、とため息が漏れる。一期さんはやっぱり苦手です。
「お疲れ、主」
「うん、疲れたよ……、……、何で居るの?」
「くすっ、秘密」
はぁ、と椅子に腰を掛けて伸びをしながらため息を吐くと、声がしてはっと目を開ければ噂の鳴狐がそこにいた。
「……秋田が、困ってますよ。その前に、一期さんに半殺しにされますよ」
「うん。だから逃げている。今頃、狐が秋田の事を手伝ってるから」
「……いい加減、単体で行動して狐さんに迷惑かけるの止めません?」
「嫌です」
ハートマークが付きそうな位、にっこりと笑って言われた。
此処で分かると思う。おらの鳴狐、しゃべるんです。お供の狐よりしゃべるんです。
そもそも、狐に仕事押し付けてオロオロしているところを陰でこっそり見て、楽しんでいるドエスです。どうして、こんな鳴狐の供なんかやってるんだろう、あの狐。
可哀想だから、後できつね分けてあげよう。みっただに、頼んでおこう。
これが、粟田口派の藤四郎たちや一期さんのおじにあたるなんて……絶対詐欺だとおらは思う。
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