後悔


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始と付き合うようになって、僕が一番初めにしたことは“後悔”だった。

僕が始に好きだって言い続けてたら、それに絆された始が付き合ってくれるようになった。
でも、始と付き合えるようになってから、周りが……始の周りがよく見えるようになってしまった。

始と付き合う前までは、ただ純粋に始を見て愛して、そしてファンでいられた。
ファンとして純粋に好きだよって、愛してるって言えた。
でも、最近始に対してそれをいうことが苦しい。
勿論、僕が寮に先にいるときは帰ってきたらお出迎えもしてる。
始が一人なら、いつも通りあしらわれて終わったりもする。けど、一人じゃない時は一人の時よりもとても困った顔をしている。僕が抱きついたとして。
始も、一緒に帰ってきてたメンバー……春も。

相方、だからか春と始の仕事は重なる事が多い。もちろん、僕と海もだけど。
男女のペアだから、どうしても恋人風味を求められるのは仕方の無い事。
僕も海と、そう言う撮影もあるしね。
ただ、始は僕と一緒に居る時よりも春やグラビのメンバーと居る時の方が嬉しそうな顔をしてる。
勿論、幼馴染だっていう春の側は別なんだろうね。
どんなに僕が思っても、届かない。

僕が、始を見つめ続けていて気が付かないで居たのは、ただ単に見たくなかったから、だったのだろうね。
でも、気が付いてしまった。見えてしまった、見てしまったから……。

始は、僕の事を好きなんかじゃない

って事に。
僕と一緒に居ても楽しそうでも何でもないんだもの。
僕よりも、春と一緒に居る時の方が楽しそう。始はきっと、幼馴染としての距離を壊したくないから僕と付き合うようになったんだよね。
そして、春もきっと……。
僕は完全なるお邪魔虫じゃないか。

「隼?」
「あっ、ごめんね。何でもないよ」

ハッとして、僕は抱き着いていた始の側から離れて、あっ、と声を出す。

「僕はそろそろ、部屋に戻ろうかな?」
「えっ?どうしたの、隼」
「大学の課題が少しあって」
「そっか……手伝えることが有ったら言ってね」
「大丈夫だよ、すぐ終わる……と思うから」

ニッコリといつも通り、笑えたと思う。僕は、そのまま少し駆け足で自分の部屋へと戻る。
後から、訝し気な始の視線が突き刺さるようだったけど、僕は振り返る事は出来なかった。

部屋に戻ると、頬を伝う涙。
僕は伸ばした袖でそれを拭う。
僕には、泣く資格なんか無いのに。

「……っ、ひっ……くっ……」

僕が好きだと公言していて丁度よかっただけ、絆された、と見せかけたかっただけ。
僕を、好きなんかじゃない。
始の中で、僕は春の身代わりにしかならない。
僕は、始の事が好きだけど始は僕を好きなんかんじゃない。

ぼろぼろと涙を流していると、ぴろんっ、とメッセージが届く。
開いてみると、実家の父から。
内容は、週末帰ってこないか?と言う物だった。
週末と言えば明後日だが、まぁ仕事の予定も入ってないので、少し考えた後了承のメッセージを返す。
嫌な予感がしないわけでもなかったけど、まぁでも……少しメンバーからも離れて一人で考えたかったからちょうどいいと考えてしまった。

そして、始と遭遇する暇もなく仕事をこなし、大学にも行って僕は故郷である京都の地へと降り立った。
海や大にはちゃんと、今日帰省すると言ってあるから大丈夫だろう。
門番君を避け、駅員さんに切符を渡すと、僕は榊さんのお迎えの車で実家へと久しぶりに戻ってきた。

「隼、おかえりなさい」

にっこりと母に迎えられ、ただいま、と返す。
僕はそのまま、母に連れられて久しぶりに着せ替え人形となった。
着るのは、和装ばっかり。
僕に似合う物を探していたらしい。これっと思ったものを、試着したまま今度は父と母と一緒に連れ出された。
榊さんもニコニコと笑ってるし、何があると言うのだろう?

その日はただ、家族写真を撮ってご飯を食べて終わった。
ただ、その日聞いた父の一言が忘れられない。

『霜月家と睦月家は対の家だ、けれども隼。勘違いしてはいけないよ?霜月家の血筋は睦月家が大好きだ。けれど、睦月家の血筋は霜月家を愛すことは決してないのだよ。だから、どんなに優しくされても、どんなに惹かれても、睦月家の者に恋をしてはいけないよ』

僕は衝撃で、フォークを落としそうになった。
分かったよ父様、と言った僕は笑えていただろうか?
もっと、もっと……始と会う前に言ってくれたらよかったのに。
そうすれば、僕はただのファンで居られた。始の側にいて、笑って居られたのに……。
鬱々とした状態で、僕は実家から寮へと戻ってきた。
二階に始の気配が有るけども、今は会いに行く気力もない。
エレベーターで三階へと上がると、共有ルームに少し顔を出す。

「ただいま、皆、変わりは無かったかな?」
「おかえりなさい、隼さん。……どうしたんですか?」
「おかえり、隼……隼、何かあった?」

お帰りなさい、と顔を出してくれたのは夜だった。涙もそこにはいて、僕の方へと顔を向けると、眉を寄せた。
夜も首を傾げながら僕を見る。
僕は極めていつも通りだったと思うんだけど……。

「夜?涙?」
「隼さん、ご実家で何かあったんですか?」
「えっ?何も、無いよ?」
「嘘。隼、なんか悲しそう」

ペタペタと近寄ってきた涙が僕の頬に触れる。
涙の暖かい手。心配してくれている事は、とても伝わる。
けれど、何が有ったか?なんて話せるわけもない。

「大丈夫だよ……僕は部屋に戻るから、何かあったら連絡ちょうだい」
「隼……」
「隼さん、私たちに出来ることが有れば言ってくださいね!」
「うん。もちろん、その時は僕の手足となって働いてね?」
「えっと、あの、えっ!?」

後から、声がかけられて、僕はクスクスと笑いながら振り返って言うと、焦ったような夜が目に入った。
そのまま手を振って部屋に戻った。
ベッドの上に倒れこんで、はぁ、とため息を吐く。
外出用にしたメイクを落とさないと、と思いつつそのまま動きたくないと感じてしまう。
父の言葉が僕の胸に刺さって抜けない。
始が、僕を愛することは無いのだと思い知らされた言葉。
そう、現状僕と始の歪な関係を、最も的確に理解できる言葉。

それは、睦月と霜月の業なのかもしれない。

何れ、僕は始に別れを切り出さなきゃいけないだろう。
こんな関係を続けていくべきではない。
止まっていたはずの涙が溢れ出る。

恋なんて、しなければよかった

切実に、今は思ってる。
この心ごと、どこかに捨ててしまえればいいのに。
恋をすることは、落ちるみたいなのに、それを諦めることはとても難しいのだと、恋をしてからしった。

いつの間に、眠ってしまって居たのだろう?
僕を呼ぶ声がする。
ゆっくりと目を開け、ぼんやりとした視界の中、見えてくるのは愛しい人の姿。

「しゅーん」
「ふふふっ、幸せだなぁ。寝起きに始の姿が見られるなんて」
「やっと起きたか、隼」
「うん、おはよう始。どうしたの?僕の部屋にいるなんて珍しいね?」
「それは俺のセリフだが……まぁ、いい。夜達が心配していた。お前が変だってな」

僕は帰ってきてすぐの事を思い出して頷いた。

「そっか。それで、様子でも見に来てくれたの?ありがと、でも何でもない「嘘だな」よ……えっ?」

被せる様に言って来た始に驚いて目を見開く。始は僕を見つめて、眉を顰めていた。
僕は、始に何かしただろうか?

「隼、お前どうしたんだ?この間から、ずっと」
「えっ?始?僕は、別に」
「何でもないはずがないだろう?何でもなかったのなら、何故泣いていた?」

始の手が、僕の頬へと触れる。
僕のそこは乾いた涙の痕で汚れていただろう。
僕の体がビクッ、と跳ねた。

「俺には言えない事か?俺は、お前の頼りにはならないのか?俺はお前の何なんだ?」
「はじ、め……僕、僕は……」
「っ、悪い。泣かせるつもりじゃなかった」

始の剣幕に、僕が思わず涙を零してしまい、僕はおずおずとした始の腕の中に閉じ込められた。
僕はぽろぽろと涙を零しながら、ゆっくりと口を開いた。

「……始は、僕の事、好き?」
「どうしたんだ?いきなり……好きじゃなきゃ付き合ってないだろう?」
「うそ……だって、父様が言ってたの。睦月家が霜月家を愛することは無いって……だから、始も」
「それがどうしたって言うんだ。俺は、お前だから愛した。お前だから好きになった。お前を、霜月家の隼、じゃなくてただの霜月隼だから好きになったんだ。俺は睦月家の始なわけじゃない。睦月始で、アイドルで、そしてお前の恋人だろう?」
「……春は?」
「春?何で春が出て来るんだ?」

心底分からない、と言った顔をした始。どうして?

「始は、春が、好きなんじゃないの?」
「どうしてそうなった?確かに、春とは幼馴染だが、恋愛感情何てこれっぽっちも持ち合わせてないぞ」
「だって、僕が……始に会いに行くと、困ったような顔、するでしょ?春が一緒だと、余計に……」
「それは……あぁもう、お前を春にも見せたくなかったんだよ!」
「へっ?」

僕はぽかんっ、と頬を赤く染める始を見つめた。
始は僕を抱きしめて、肩口に顔を埋めながら話してくれる。

「いつも、俺を出迎えてくれるのは嬉しいけどな、興奮してるって分かり切った顔で近づいてこられてみろ。その場で襲いかねないぞ。そんな顔を、例え同じ女だとして春にも見せたくはないだろう!」
「えっと、その……じゃあ、春のあの視線は?」
「どの視線だかは知らないけどな、春は海が好きなんだよ。だから、いつも一緒のお前に嫉妬してるんだと……俺も、海に嫉妬するけどな、仕事だって分かってるし……我慢はしてる」
「……僕も、だよ。僕も、春と始の撮影が有るたび、どうして僕がそこに居ないんだろう?って思っちゃう」
「同じ、だな……全く、アイドルなのに本気で好きでもない相手と付き合うか?俺はそんなのに時間をかけてる暇があれば、別に誰とも付き合えなくても良いな。お前だから付き合ってる……だから、俺の愛を疑うな。否定するな。俺はお前を、お前だけを愛してる」
「始……」

僕は、泣いて泣いて泣いて、それから二人で笑いあった。

「そう言えば、海に聞いたが、実家に行ってたんだって?どうだった?」
「そうそう、母様と父様と写真を撮って来たよ。久しぶりだったな。えっと……コレだよ」

スマフォで撮影してもらった一部の写真を始に見せると、眉を顰めて綺麗だな、とは言ってくれたものの、不機嫌そうだった。

「始?だめ、だった?」
「いや……隼、コレたぶん、見合い写真だぞ」
「えっ?まさか、そんな事……」

はぁ、とため息を吐かれてしまった。
えぇ?と首を傾げた僕。
始は、自分のスマフォを取り出してどこかへとメッセージを送ってた。
良し、と言った後、僕の事をまた抱きしめてくれる。

「隼、次の休みはいつだ?」
「えっと……一週間後?かな」
「俺も、休みだな……一緒に来てほしい場所が有る」
「始?デート?デートなの?」
「まぁ、そうだな」

やったぁ、とその時喜んだ僕は、後日、休みの日に始の実家に連れて行かれるとは思ってもみなかったし、色々有って婚約まで話が進むとは思ってもみなかった。
ちなみに後日、綺麗に包装された家族写真が僕に、そして何故か僕単体の写真が始に届けられた……。何でだろう?

END
中途半端?望むところだ。


始さんが何をしたか↓

(隼に見合い?ふざけるなよ?)
ぽちぽちと携帯を操作。
『霜月家の見合い話を潰して欲しい』
と母に連絡。それから、隼とのデートを取り付け。
『前に話してた、隼ちゃんのこと?本気なのね?今度連れていらっしゃい』
で、後日隼と始は睦月家の敷居を揃ってまたぐことに。
意気投合して、仲良くなった睦月の姫様と隼。
睦月家にも何故か、隼の家族写真と単体の写真が届けられたそうだ。

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