優しいキス魔


いつもの通り、閲覧前後の苦情は受け付けておりません。
マイナーですね。十一話を見て滴ったので仕方がないですね。
誤字脱字は放置です。
誤字が多くても脳内変換でお願いします。直すの面倒なので。























「無理です」

そう言った、柊羽に驚いたのはマネージャーだけではなかった。
一緒に呼ばれていた志季も、驚き柊羽を見る。
SQのコラボイベントとして、クロスリードの時のように、CDを出すという企画についてだった。ただ、内容は前と少し違って、前の組み合わせでデュエット曲を歌うという事。
それを聞いた柊羽が、驚き目を丸くして、そして俯いて首を横に振ったのだ。

「CMの宣伝のようなものであれば、別です。でも、俺は志季と……もう二度と、歌えない」
「柊羽っ!」

すみません、と頭を下げて柊羽は部屋を出て行く。
残ったマネージャーの灰月と志季はお互いに顔を見合わせて、灰月は苦笑いをし、志季はため息を吐いて頭を抱えた。

一方、会議室を出た柊羽は、真っ直ぐに自分たちの寮へと戻る。

「柊羽、お帰り!」

ひょっこり共有スペースから顔を出したのは、英知だった。
びくっ、と柊羽の肩が跳ねる。

「あっ、あぁ、ただいま」
「うん……どうしたの、柊羽?なんか顔色悪いけど」
「いや……俺は少し部屋で休んで来る。何かあったら、呼んでくれ」

訝しげに英知は首を傾げながらも、柊羽にはーいと返事をして柊羽を見送った。
柊羽はらしくも無く、コートを椅子に投げ、ベッドの上に仰向けに横になって額に腕を当てる。
はぁ、と今日何度目かになるかわからないため息を吐いた。

Solidsとの仕事が嫌なわけじゃない。
志季との関係も、今は良好と言えるだろう。
ただ、どうしても歌だけはダメだった。
CMのように短く、お遊びのような歌……あれはラップか……だったら良いのに。
歌は、志季の作る歌は歌えない。
志季が前のユニットを抜けた時、そしてSolidsを立ち上げたとき、俺はもう二度と志季の歌を歌うことはないのだと知ってしまった。
それが、今更歌う機会が来るなんて思っても見なかった。
けど、あの時理解してしまったから、無理だった。
俺も、志季も完璧を求める。
諦めてしまった俺は、志季の歌を歌う資格はない。
志季の鋭く、尖った曲。信念の、歌。
それに見合うだけの、俺が無い。
自分の曲は歌える、今は英知も壱星も壱流もいる。
妥協はしてない、けどそもそもの音楽性が違う。違い、すぎる。
流れるような音楽、と言われる俺の曲と燃える炎のような志季の曲。
どっちが良いなんて、無いと思う。
ただ、歌う資格を持ち合わせていないだけ。志季の燃えるような情熱が、俺の中には無いだけ。
だからこそ、俺は志季に選ばれなかったのだろうと思うけれど。
Solidsは、志季の曲を歌えるだけの情熱があるグループなのだと思う。
里津花も翼も大も、志季の理想なんだろうと思う。俺じゃ無くて……。
ぐるぐると、吹っ切れたと思ったのに何度も何度も考えてしまう。
それほど、俺は志季に依存していたというのか。

柊羽は思わず自嘲してしまった。
目を閉じれば、頬を伝う感覚に本格的にくつくつという笑うが漏れてしまう。
勝手に捨てられたと感じてしまって、落ち込んでしまった過去さえも思い出す。
そうでは無いのだと知っているのに、心はそれを受け入れてはくれない。
しっかりしろ、と柊羽は自分に言い聞かせる。
今は、一人じゃ無い。自分の音楽ができるだけの、メンバーが揃ってる。
そして、そのリーダーは自分なのだと。
流れる涙を拭いもせず、ぼんやりと天井を見上げて、気持ちのリセットを。
もう、昔の自分ではないのだから、と。

どれだけの時間が過ぎただろう?
こんこんっ、とノックオンに柊羽はむくり、と起き上がって自室の扉を開いた。

「はい?」

少し、涙で掠れた声。
寝起き、と言えば通用するだろうか?と相手の顔も見ず、内心苦笑した。

「泣いて、いたのか?」
「し、き……」

ふと意識してみれば、そこにいるのは紛れもなく志季で、思わず顔を片手で覆う。

「何か、有ったのか?」
「……俺は、お前に許されたと思っていた。けれど、違ったみたいだな」

志季の腕が顔に伸びてきて、思わず柊羽は一歩後ろへと後ずさった。
その様子に、志季は傷ついたような顔をする。

「何を言ってるんだ?……あの頃のことなら、もう気にしてないと言ったはずだ」
「じゃあ、なんで泣いていた?俺が、お前を知らず知らずに深く傷つけていたんではないのか?」

いつだって、志季の目はまっすぐだ。
まっすぐで、柊羽の事を射抜くように見つめて来る。
昔は、その瞳に見つめられることがとても好きだった。まっすぐに、自分だけが映っているとわかったから。

「ちがっ」

う、と言おうとした側から、柊羽の瞳から涙が零れおちる。
言葉に詰まった柊羽に、志季は舌打ちをすると、柊羽の腕を取って押し倒した。
その反動で、志季たちの後ろで扉が閉まる。
息を詰めて、痛みに耐える柊羽の上に馬乗りになって志季はその腕を引いた。

「昔は俺の方が高かったのにな」
「志季……」

上半身を引き起こされた柊羽。
志季はそんな柊羽の頭を自らの肩口へと押し付けると、その頭をゆっくりと撫でる。

「悪かった……あの頃のお前が、どれ程傷つくか何て考えてもいなかった。酷く、傷つけてしまった。今、こうしてお互いが納得できるグループで活動できて、リーダーとして関わることも増えて……嬉しかったんだ。だから、もう一度お前と歌いたいと思った。それが、こんなに傷つけるとは思っても見なかったんだ」
「……ちが、う。違うっ……」

志季の肩口を濡らしながら、柊羽は首をゆるく横に振る。

「俺は……、俺はっ、」

伝えたい事が沢山あるのに、言葉になんかならない。
どうすれば伝わるのかもわからない。

「俺だって、嬉しかった。でも……もう、俺は、志季の歌を歌えないっ」
「柊羽……」
「志季の真っ直ぐな、燃えるような歌を歌う事が、もう俺には出来ない……」

志季は悪くないのだと、全部自分が……、自分の問題なのだとそう伝えたいのに、伝えるだけの言葉が出てこない。
これで、伝わったのか、と不安になるぐらい志季は柊羽の頭を宥めるように撫でるだけ。
静かすぎる時間が流れた。
そうして何も話さず、同じ時を共有しているとあの頃に戻ってみたいに錯覚してしまう。
志季の体を引き離すために、少し強めに力を込めながら胸元を押すと、志季はさらに強い力で柊羽の事を抱きしめた。

「志季っ」

戸惑ったように志季の名を呼ぶが、志季は柊羽の耳元で、落ち着いた声で一言、柊羽、と名を呼んだ。
芯のあるようなその声が、柊羽に届き、びくりと背筋を震わせた。

「もっと我儘に甘えてもいい。もっと我儘になれ。何だって受け止めてやる……もう二度と、俺はお前を置いて行ったりしない」

両頬を挟まれ、柊羽は志季と向かい合う。
静かにゆっくりと近づく顔。
額が触れ、
そして、
唇が、触れた。

チュッと小さな音と共に離れて行った志季の顔を呆然と見守る柊羽。
涙は、衝撃で吹き飛んでしまったかのよう。

「……志季、何で今キスしたんだ?」
「さぁ……何でだろうな?」

クスッと悪戯っぽく笑う志季に柊羽はらしくもなく唖然として、そして笑い出した。

「昔からそうだな、志季は。そう言えば、俺の始めては志季だったな」
「そうだったのか?」

とにやりと笑う志季にクスクスと笑いが漏れてしまう。
シリアスな雰囲気が、飛び去ってくれたようだ。

「志季……、仕事は」
「灰月が、別の企画を考えるそうだ」
「そうか……あとで謝っておかないとな」
「そうだな……」

お互いに灰月のことを思って、見つめ合いそして、笑う。
そしてそのまま、もう一度キスをした。

END

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