帰る場所
【うち】
「お兄ちゃん、おかえりなさい!遅かったね」
ひよの明るい声に、疲れも吹っ飛ぶ。
にこにこ笑ってる姿を見るとホッとする。
「あぁ、ちょっと仕事が長引いてな…それより、この靴…」
どこかで、と思ったが生憎と仕事を離れた今、頭を働かせる気力はなかった。
今日は特に忙しくて、余計にだ。
「あっ、そうだった!今日はね、お客さんが来てるの!お父さんが連れて来たんだよ?」
「桐嶋さんの、客?」
俺は、その言葉に会社の同僚か誰か、か?と思う。
しかし、客が来るなんて聞いてないから普通にいつも通りやってきてしまった。
大抵俺も桐嶋さんに感化されてる。
帰った方がいいのかとも思ったが、ひよがはやくはやくと急かす中、帰るとは言いづらい。
俺は仕方なしに、靴を脱いで上がった。
リビングに入った俺は、客人を見て唖然として言葉が出なかった。
「お父さんの会社の人って言ってたから、お兄ちゃん知り合い?」
それを破ったのは、ひよの明るい声。
ここに、ひよがいてくれてよかったと思う。自分ひとりで、この二人の含み笑いを相手には出来ない。
「あっ、あぁ…政宗、お前何でうちにいんだよ?」
「…は?うち?お前の家じゃねぇだろ」
「あっ!!!」
政宗の疑問に、はっとして口を噤むがもう遅い。
出てしまった言葉は、消す事が出来ない。
「ぶっ、あはははははははははっ!そうか、うちか!ははははははははっ」
「桐嶋さん!!」
「…ふっ、はははっ」
「政宗も笑うな!」
その姿を笑う桐嶋さんに喰ってかかれば、政宗も笑い出して俺は顔を真っ赤にさせて客間へ引っ込んだ。
少ししてから、その笑い声も消えて、よかったと胸をなでおろす。
着替えて、俺の顔の火照りが落ち着いた頃に顔を出せば、二人はなにやら仕事の話をしているようで、俺は大人しくひよの手伝いに回った。
「じゃあ、それで決まりだな…よしっ、今日はおしまい!隆史…」
「自分でとれよ、たっく…政宗、お前は?」
「…わりぃ、何が?」
夕飯は食べて行くことが決定しているらしいから、ごく自然な流れで、いつものように桐嶋さんが飲むビールを用意しようとして尋ねると、政宗は苦笑した。
それから、気が付いた時にはもう桐嶋さんがフォローをいれていた。
「明日休みだろ、高野。じゃあ、飲んでけよ、ビール」
「あぁ、それですか…ごちそうになっても?」
「勿論。と言うわけで、2本くれるか?」
俺が固まって動かないのを不審に思ってか、桐嶋さんが俺の名前を呼んでくる。
もう、抑えきれないほど熱くなった顔を隠すように俯いて、俺は桐嶋さんにビールの缶を2缶押し付けた…。
End
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