アナタなしでは生きていけない、アナタなしでも生きていけない


取り合えず、桐嶋さんが最低かもしれない。
そして、こんな設定在り得ないだろうと言うもの。
子供の性格が悪すぎる。




「何、だって?」
「だーから、従兄弟の子供の面倒頼まれたんだって」

ただいま、桐嶋さん宅。俺は、呼びだされて何かと思えば、桐嶋さんの足元には見たこともない子が一人、桐嶋さんにしがみついていた。
その子が気に入らないのか何なのか、そら太はいつもなら桐嶋さんとひよの後に着いて俺を出迎えてくれるはずなのに、今は全く出迎えてくれる気配すらない。
そのことが少し引っかかる。

「だから、何で俺が呼び出されンだよ?」

と、いつもの勢いで吠えると、その子は桐嶋さんの後ろに隠れてしまう。
しまったと思うが、もう遅い。桐嶋さんに、“横澤”とたしなめられる。

「悪い……」
「いや、いい」

苦笑するけど、呆れてはおらず何となく含みのある笑いをした桐嶋さんにむっとする。
どうして、この人は……とは思うけど、でもやっぱりこうでなきゃ、桐嶋さんじゃ無いとも思ってしまう。

玄関で立ち話は…と、リビングへあがらせてもらうが、その間その子は桐嶋さんの後ろにべったりとくっついたまま。一度だけ、ちらりと俺を見たその子に俺は嫌な予感を感じずにおれなかった。

その嫌な予感の正体は直ぐに解ることになる。
まず、そら太はその子が嫌いだ。何でか、それはひよがその子をかまうから。
そして、桐嶋さんの近くに寄れないから。でも、大元の原因はそら太自身がその子のことを受け付けないのだろう。桐嶋さんに連れられてその子が近くによると、ものすごい勢いで威嚇をしていたから。そして、次に俺。俺は、大抵の子供は嫌いじゃない。だけど、その子は別だ。
俺に懐かない、だけじゃなく、睨むように俺を見る。そして、そういう時はその子が桐嶋さんに甘えていて居る時に俺が近づいた場合。俺にふとした、嫌な笑顔を見せるのは自分だけが桐嶋さんに構われていて俺の存在に桐嶋さんが気が付かないとき。寝るときは桐嶋さんといつも一緒。それにつられて、桐嶋さんが寝てしまうため、その子なしで話をしたのは、この数日間数えるほどしかない。
はっきり言って、その子の性格は悪いなとは思う。
子供にそんなことを言ってもしょうがない事は解る。でも、それでも俺だってあの人が好きだ。だから、構われないと不安だし、何より嫉妬だってする。それを桐嶋さんは解っているのか、解っていないのか、微妙な距離で俺に接してくるからどうしようもない。

ある日。それは、一か月預かることになったその子が来てから、2週間がたとうとしたとき。
その日は、週末でひよが由希ちゃんの家にお泊りに行っている日だった。
桐嶋さんは、その時仕事の電話が入り、席をはずしていた。つまりは、その子と二人だったわけだ。
その子と二人でいたら俺の中で、何かがブチっと切れたような、許容オーバーで爆発したようなそんな感覚がした。

「ボク、これきらぁーい」
「文句言わずに、ちゃんと食え」
「むぅー……アンタいつも、いつもうるっさいんだよ!!!」

声は小さいのに低い声。俺の言葉に癇癪でも起こしたその子は、ガシャガシャンっと今日の夕御飯の殆どを皿ごと床にたたき落とした。中には、桐嶋さんのご飯も好物も、最近ハマってると言う食べ物でさえ含まれている。その光景に、俺は目の前が真っ赤に染まる気がした。
言葉なんて出てこなくて、ただその光景を呆然と見つめていた。
怒りが過ぎると、ただ呆然とするしかない。そうなると、今日初めて知った。

「お、まえっ!!自分が何したか解ってんのか!?」

最近はいらいらしても子供だからと、大人にしか発しなかった怒号をその子に浴びせる。
すると、図ったかのように泣きだし、食器の割れる音とその子の泣き声で早急に電話を切り上げただろう桐嶋さんの姿が見えた。
すかさず、桐嶋さんに飛びつくその子。桐嶋さんはこの状況がどういうことか測りかねていた。
俺がその状況を黙って見てると、泣いているその子が勝手に話し始める。

「ボクが、これ、今日のおゆうはん、きらいっていったら、おにいちゃんが『じゃあ、くうな』って、おさらを、したに、おとしたのっ。おじさんのぶんまでっ」「ちがっ」
「横澤、お前何してるわけ?」

違う、と言い募ろうとした俺の言葉は桐嶋さんに遮られ、俺は悲しみがせりあがってくる。
その子が来てから、桐嶋さんは全く俺の話を聞いてくれない。
どうして、俺がこんな思いをしなければならない?

「……」
「はぁ……外行って食うか」
「うんっ!」

桐嶋さんが笑顔を向ける。それすらも、もう嫌だった。
何もかも、自分がドス黒く染まっていくような気がした…。

「ほら、お前も…」

桐嶋さんに延ばされた手をたたき落とす。思えば、桐嶋さんの手を拒んだのはこれが初めてかもしれない。

「…俺は行かない」
「横澤…」
「おじさん、早く、早く!」
「あっ、あぁ……帰ってきたら、話そう横澤」

俺はそれに返事をせず、目線を桐嶋さんからそらしたまま、二人をそのまま見送った。
ガチャっと扉の閉まる音がしてから、ふうっとため息を吐く。
床を見て、散らばった料理の残骸や皿の破片を黙々と片づける。
あぁ、この皿はひよと桐嶋さんと3人で買いに行ったものなのに…。
この茶碗も、ひよのお気に入りだったはずだ…。

「いっ……」

皿の破片を拾おうとすれば、手を切ってしまう。血が溢れると同時に涙もあふれそうになったけど、気合いで押しとどめる。
ガラスは無かったけど、それでも遠くに破片が飛んでないかきちんと確認して掃除を終了した。

掃除はしたけど、俺の分のご飯を食べる気にもなれなかったし、第一桐嶋さん達を待つ気も無い。自分の家に帰ろうと支度をしてると、そら太が足元に寄ってくる。

「…お前も帰るか、そら太」

ふっ、と笑い猫のゲージにそら太を入れ、メモを一つ残し桐嶋さんの家を後にする。
迷った末に、桐嶋さんの家のカギは、部屋に付いている郵便受けに投かんした。

タクシーを捕まえて、家まで帰る。流石に、そら太を連れたまま地下鉄には乗りたくなかったから。

家について、そら太を出してやると、俺の家での定位置にまっすぐに向かっていく。
俺は、ご飯と水を用意してやり、着替えるとベッドに転がった。
部屋に着いた安心感からか、涙が次から次へとあふれてくる。

「…ふっ、くっ」

溢れ出した物はなかなか止まらない。止めようとしても、出来ない。もう、止めようとも思わず、週末の金曜日。泣き疲れて、子供のように俺は眠りに就いた。

次の日、携帯が光ってるのを見ると、桐嶋さんからメールや電話が何回かあったことを知らせていた。
読む気になれず、そのまま放置すると近くに寄ってきたそら太を抱き上げる。

「お前も、ひよに会えなくて淋しいだろうけど、ごめんな」

そう言うと、そら太は何でもないと言うように一鳴きした。

それから、土日と少し買い物に行ったりしたが、部屋で過ごし、桐嶋さんから届くメールや電話は相変わらず無視し続けた。大人げないってことは解ってる。でも、俺にだって許せないことが有る。
俺が悪くない、と言っても過言ではない。でも、絶対かと言われればそうじゃない。多少、俺にも非はあっただろう。でも、今回は俺から謝らなきゃいけない理由が無い。それに、話す事もない。俺の話を、今の桐嶋さんが素直に聞いてくれるとは思わないから。桐嶋さんからだと思っていた中に、ひよからもメールが来ていてその可愛らしい文面に少し笑顔になる。
だからと言って、会いには行けない。行ったら、確実に桐嶋さんがいるんだろう。
話そうといった桐嶋さんの言葉を今の俺は聞く気が無いし。

月曜日からまた、仕事が始まる。
俺はなるべく桐嶋さんに会わないように仕事の予定を組み立てた。
帰りは、定時に外に居るようにして、それで残っている仕事が有ったら、その後残業して帰る。
校了は、あの子が来た週だったから、忙しくなることも無いだろう。早く帰るはずの桐嶋さんが遅くに会社に帰ってくる俺を待っているはずがない。今は、桐嶋さんのご両親も旅行に出かけていて居ないはずだし余計に。幸い、今週は桐嶋さんに会うような部数会議も何もなく、助かった。

ふう、と息を吐いてパソコンを閉じる。
今週、こうして残業に残っているのは俺位なもので、周りを見ればもう誰も居なかった。
俺も、帰り支度をしてエレベーターへ向かう。その間、携帯が鳴ったので誰かと思えばひよから『おやすみなさい』と言うメールだった。
俺が行かなくなってから、何を思ったのかひよは寝る前に必ず俺にメールしてくる。
それに、おやすみ、と返す俺も俺だが。

チンっと止まったエレベーター。その中の人物に少し驚く。

「あ、横澤さん…お疲れ様です」
「お疲れ。何してんだ、こんな時間に」
「そりゃ、新人がへましたことの後始末」
「ヴッ」

特別忙しいわけでも、了校でもないのにこうして二人がいることに疑問を抱いた俺だったが、そういう理由かと少し呆れた。小野寺は、いつまでたっても政宗の口調…口の悪さには慣れないみたいで、変な顔しているが、放っておこう。

「で?お前こそ何してんだ?」
「別に、仕事してただけだろ」
「だって、最近定時には帰ってたはずなのに、何で残業なんてしてんの?今日、金曜だし、金曜は絶対早く帰れるようにしてただろう?」
「うるせぇな、俺にだって色々仕事とかやることあんだよ。いつもいつもそうなわけじゃねぇっての」

少し、それを聞かれると分が悪い。明確な理由はあるけど、教えたくない。

「ふ〜ん?じゃあ、お前この後暇か?」「は?暇っちゃ暇だが…何だ?」
「よし…この時間からどっか行って飲むのもな。俺の家来い。律、お前も」
「はぁあああああ!?何でですか!?」
「上司命令」
「職権乱用です!!!」
「いや、俺は行くと言ってな」
「あぁ?良いから来い!」

一回に着いて、有無も言わさず手を引っ張られる。
両手を掴まれていると思ったら、小野寺にさえ掴まれていた。

「おいっ!!ちょっ、離せ!!」
「やだ」「嫌です」

こんなところで、同じ反応を返してこなくていい。
そう思ったが、それより早く小野寺が反応する。

「俺、横澤さん苦手ですけど、横澤さん帰ったらきっと高野さん機嫌悪くなるし、そんな高野さんと俺を一人にしないでください!!」

なんて横暴な理由なんだと思うが、今俺が帰ったところで、政宗の機嫌がどうにかなることはないだろう。
小野寺がこう言った場面で帰ると言ったなら別だが。

「…良い度胸だな、律」
「あっ…」
「喧嘩すんなら、俺の手を離せ。俺は帰る」
「ダメだって言ってんだろ!」「ダメですってば」

俺にダメって言ってから、また言い争う二人。だんだんイライラして来たぞ?
何だって俺は、こいつらの痴話喧嘩に巻き込まれなきゃならんのだ。

「あぁ、もういい加減にしろ!!解った、行けばいいんだろう!?逃げたりしねェからその手を離せ!痴話喧嘩なら俺抜きでよそやれ!!」

一気に言い募ると、小野寺が真っ赤な顔して、痴話げんかじゃないとか、夫婦じゃないとか言い出して、政宗は隣でクツクツ笑ってた。何なんだ、全く……。
考えたら、最近良い事ないな。

コンビニで大量に購入した酒と共に政宗の部屋に久しぶりに上がる。
久しぶりに来ても変わらない室内に勝手知ったると俺は、置いてある自分の服に着替え始める。

「ぎゃっ!!ちょっ、ちょっと横澤さん!?何で着替え始めてるんですかこんなところで!!」
「政宗の家で、こんな固っ苦しく酒なんて飲めるか」
「だからって、俺がいること考えてください!!」
「あ?お前に遠慮すること何かねぇだろ」

俺に欲情するわけじゃあるまいし。そう言いながらも、どんどん着替え進めて行った俺はすでに着替え終わっていて、小野寺は何故か真っ赤になって突っ立っている。政宗はその光景を笑いながら見ているだけだ。はたから見たら、どんなシュールな光景なんだろうな。

「律、諦めろ。こいつは、俺の家に来たらいつもこうだ。今更変わらねぇよ」

小野寺を座らせると、その頭を撫でた政宗。その光景を見て、桐嶋さんを思い出す。
俺を救ってくれた人なのに、好きになれた人なのに、自分から離れたくせに近くにいれないことがこんなにも辛い。

俺はハンガーを勝手に拝借し、スーツをかけると、政宗のベッドに寄りかかる様に座り、ビールを開けて煽る。何だか、ここまで来たら飲みたい気分だった。
俺が飲み始めたことにより、政宗も飲み始める。小野寺は、政宗に禁止されたようで何故かジュース類を飲んでいる。

「で?お前、何が有ったわけ?」

政宗は、俺にそれを聞くのを諦めては居ないようで、でも酒の入った俺は、応えるつもりが無くてもぺらぺらと話しだしてしまう。ペースが速かったのか、少し酔ってるようだ。でも、酒をやめる気にはなれなかった。

「…あの人の、従兄弟の子供が来て、俺とそりあわなくて」
「……」

ぽつり、ぽつり、とこぼす内容に何も言わず二人はただ耳を傾けている。

「だいたい、そら太からして、あの子が嫌いで…これでも、頑張ってたのに、嫌いだからって、料理、ダメにされて、ひよのお気に入りの、皿まで割られて…、全部俺のせいにされて…、あの人は、聞いてくれなくて…、あの中にはあの人の、好物だって、あったのに…、俺は、あの人が、おいしいって、言ってくれるから、もっと言ってもらうために、帰って頑張って、作ったのに…、それを、台無しにされて…、それでも、俺が悪いのか?俺が、俺が我慢すれば、よかった問題なのか?…俺が、謝れば済むのか?…何で俺が、謝らなきゃいけないんだ?…俺は、何もしてないのに…、それに、最近、あの人は、その子に、構いっぱなしで、俺とまともに、話もしてくれ、ない」


話しているうちに、桐嶋さんのことを思い出せば、ドンドン、ドンドンと涙があふれてくる。
嗚咽をかみ殺すけど、漏れるのはしょうがない。
泣いてる姿なんて見せたくなんて無いのに、止まってもくれない。
口からこぼれる声は、もう言葉にならない。

「横澤…」

政宗の延ばされた手が、頬を伝う涙をぬぐう。今欲しいのは、この手じゃないと言うのに、縋り付いてしまいたくなる。

「…泣け、思いっきり」

ほらっ、と抱きしめられたぬくもりに、涙がぶわっと溢れてくる。
俺は外聞も何もかもを投げ捨てて、ただ、子供のように政宗の腕の中で泣きじゃくった。
ほんの少し前までなら、手を延ばされたことがどれほどうれしい事だっただろうか?でも、今はそんな感情は無い。ただ、ただ俺を抱きしめて宥めてくれる手が有ると言うだけ。恋しさは無い、けれど、淋しい時に側に居てくれる、そんな存在で今は良かったと本当に思える。

そうして、泣きついているうちに、俺はまた、あの日のように泣き疲れて眠ってしまった……。



高野side

横澤が酒を飲みながら、泣いた。店で飲むときは、つぶれたところを見たことが無いが、部屋でなら2〜3回ある。だから、今日は部屋に誘った。ここ一週間の横澤は変だったから。人に弱みを見せない横澤だから断られることも解ってたけど、強引にでも連れ込むことにして。律を巻き込んだのは、また余計な嫉妬をされたくないから。ずいぶん捻くれて、素直じゃ無くなった分、どこで嫉妬するか解らない。

それでも、律はただ、横澤の様子を黙って心配そうに見ているだけで、何も言わなかった。
俺が横澤を抱きしめた時も、心配そうに見るだけ。
たぶん、もう横澤が俺に恋愛感情が無い事を知って、だから俺に任せてるんだと思う。

寝てしまった横澤を俺のベッドへと寝せると、俺はまた再びビールを煽る。

「何か、横澤さんが可哀そうです」
「こいつは、お前に同情されたくないと思うぞ」

俺の些細な言葉に傷つく律。本当に、何でこんなに繊細なんだか。まぁ、そこが可愛いと言えば可愛いが。
それにしても、と黙った律に代わりに話しだす。

「あぁ〜、何かあの人に横澤やるのもったいなくなってきた……いっそのこと、三人で1つの部屋借りて住むか?」
「はぁ?アンタ、何言ってんですか!?」
「あっ?あぁ、別に横澤に恋愛感情はねぇよ、俺は。たぶん、横澤だって俺にもう無い。そう言うのでどうこう言ってるわけじゃなくて、けど、俺は横澤が好きだから」

俺の告白に驚く律。それ以前に部屋についても驚いてたけど。
まぁ、好きじゃなかったら、もともと、側に居ることを許すわけがない。

「好きって言うより、家族愛に近いのかもしれない。俺にとっての、家族で親友」

愛しい、とは思う。恋愛感情じゃ全くない、愛しさ。それは、横澤の何でも許してくれそうな雰囲気や、俺をしかりつける厳しさ…母親を愛しいと感じる感情に似てるのかもしれない。
だから、無意識に横澤の幸せを願う。

「律も、最近は横澤の中身が見えてきたんじゃないか?」
「……そう、ですね。初めは怖くて、いや、今でも緊張するんですけど、でも、思いやりが有って、周りに気を使えて、面倒見がいい人で……高野さんが横澤さんと何で初めは一緒に居るのか不思議でしたが、最近は良く解った気がします」

律のその答えに、俺は思わず笑顔になる。
誤解されやすい性格をしている横澤を理解してくれる人が少しでも多くなればいい。そう、思ったことは多々あった。
でも、だからこそ、理解したはずのあの人が横澤を傷つけたことが許せない。

「だから、一緒に居て、側に居て、守ってやりたい、幸せになってほしい、傷ついたら、安心できる場所をやりたい」

全部、全部、俺が横澤からもらったもの。それを、今度は俺が横澤にやりたい。
律は好きだ。そう言う意味で、愛してる。俺はきっと、そう言う意味で愛したり、好きになったりするやつは、律しかいない。
でも、家族。そう言う意味でなら、横澤もそら太も好きだ。
律と横澤がいれば、俺はもうどんなことになっても、荒れることはないだろう。
だから、一緒に住みたいと思った。何より、3人で住んだら楽しそうだ。

そう思って、律を見れば少し傷ついたような顔をしていた。

「何?律、言わなきゃ分かんない」
「いや、横澤さんって高野さんに愛されてるんだなっと思いまして……」

その言葉に、ぶっと俺は噴き出す。
さんざん人が恋愛感情ないって、家族愛だって言ってんのに、分かんないやつだなっと思って。

「あぁ、愛してるよ。ただ、俺は恋愛感情、そう言った意味で愛したり好きになったり出来るやつは律、お前しかいない」

そう言って、律を引き寄せると、キスを一つ落とす。
今日は、横澤がいるから軽いやつだけ。

「こう言うことしたくなるのも、お前だけ。横澤には、欲情しない」

はっきりとした言葉で言えば、律は赤くなって、慌ててもう失礼しますと出て行こうとした。
それを俺は許さず、泊って行けと律を腕の中に閉じ込めた。

「だっ、寝るところ無いでしょう!」
「し〜、横澤が起きる。大体、あんな汚い部屋で寝るよりは俺の家で寝た方がいいだろう。俺はソファーで寝るから、横澤の隣行け」
「はっ?ちょっと、高野さん?」

律の言葉も聞かず、横澤を少し揺り起こす。
すると、うっすら目を開けて、寝ぼけているだろう横澤が「なに?」と、声を出した。

「律、隣に入れてやれ」
「ん…ほら、こい」

布団を捲り、律を呼ぶ横澤。そこに律を押しこむと、俺は予備の布団を探す。
ちらっと見ると、律は緊張しながらも、横澤の腕の中におさまっていて、横澤はそんな律をあやすように頭を撫でたり、背中をぽんぽん叩いたり、まるで子供扱いだ。
それによって、緊張もほぐれて来たのか、または緊張疲れで逆に眠くなったのか、律はうとうとと寝てしまう。それに、母親のようにふっと笑って横澤は「おやすみ」と言うと、自分もそのまま目を閉じて寝てしまう。
こうして見れば、百合だな、と下らない事を考えながら、電気を消して俺も眠りに着いた。




横澤side

だんだん意識の覚醒してくる中で、ふと腕にかかる重みに気が付いた。
それは、もう数年…それ以上前かもしれないが、その頃にあったもの。
一緒に寝た、女の重さ。
何でそんなものが…、そう思うと急速に頭は覚醒した。

「なっ!?」

俺の腕の中に居るのは、小野寺で、政宗はソファーで寝ていて、この状態が何なのか頭を抱えた。
政宗が俺の声に反応して、身動ぎするとふっと眼を開けた。

「おはよう」
「あっあぁ、おはよ……」
「律、いい加減起きろ!」

これが一体どういう状況なのか、尋ねる前に政宗は小野寺を起こしにかかる。

「んっ…、おはよう、ございます」
「はよ…いいから、どけてくれ」

動揺甚だしく、俺は小野寺にそう言ってどけてもらうとふぅ、と安堵のため息を吐いた。その時の小野寺の顔が面白いぐらい真っ青だったが、まぁきっと俺が怒ってるとか勘違いしてるんだろうが。
だいたい、俺が抱きしめて寝てたのに、俺が怒るとか考えてんだろう?おかしくないか?
それとも、小野寺が酔った俺に何かしたのか?大体、昨日の記憶が半分からない。
おまけに頭まで痛い…。二日酔いか。

「もういい、お前ら風呂入ってこいよ。酒臭い。ここ、片づけておくから」

ろくでもない思考にふたをして、俺は片づけて飯でも作ろうと台所に向かう。
薬箱から、二日酔いの薬をだして飲む。政宗の家だ。遠慮なんて無い。
今、普通に二人とも風呂に促したが……まぁ、付き合ってるんだから大丈夫か。
そう、結論付けて俺はビニール袋を広げる。買って来たビール缶、ほぼ飲み終わってることに気が付く。
こんだけ飲めば流石に酔うか、と俺は苦笑しながら、その官を全て袋に入れ終え、口を縛る。

片づけ終わり、飯でも作ろうと冷蔵庫を開けて、中を見る。
中には、少ししか食べ物が入っておらず、少しため息をつきながら、それで軽食を作ろうと材料を出して準備する。
米も研いで、炊飯器にセットしてあるから、後は炊けるのを待つだけだ。

こうして、政宗の家のキッチンに立つのは、少し懐かしい。
今となっては、良い思い出だ。

そう思いながらちゃくちゃくと準備していったものは、彼らが上がってくることにはちゃんと仕上がり、米もお急ぎで炊いたから、丁度いいタイミングで炊けた。

「上がったか、飯は出来てるぞ」

そう言って、出来たおかずを机の上に並べ、ご飯をよそう。
ご飯もおかずも3つ分…。
なんだか、桐嶋さんの家で用意しているような、錯覚に陥る。
決して、そんなことは無いのに。

「横澤?」
「あっ、悪い。食うか」

いただきます、と手を合わせて朝ごはんを食べ始める。
この面子で飯食うなんて、なかなかに在り得ない。

「うそっ、おいしい…」

一口食べた小野寺は、失礼な感想を口にしていたので、一発頭をたたく。

「馬鹿にすんな。食えねェもんはつくらねぇよ」
「だな。律、お前横澤の飯にどんなイメージ持ってんだよ」
「うっ、いや、えっとですね……」

ドモリ始めた小野寺を俺と政宗はからかうように見る。実はそんなに怒ってない。俺が料理できないとか、不器用そうに見えるのなんて今更だからだ。
逸見ほど素直に口にベラベラと出していれば別だが。

そう、小野寺を弄りながら朝ごはんを食べ終わった俺達。
小野寺がふと、俺の携帯に目を留めた。

「あれ?横澤さん、携帯光ってますよ?出なくていいんですか?」

俺も良く見てみれば、最近よく見てる、桐嶋さんの文字。
それが見たくなくて、俺は携帯から顔をそむける。

「良い、出なくても」

昨日、二人に話して、政宗の腕の中で大泣きして気分がだいぶ晴れたとはいえ、まだ桐嶋さんと話す気分ではなかった。

「……借りるぞ、これ」

政宗が俺の携帯をつかみ、開く。何をしようとしてるのか解って止めようとするけど、間に合わず政宗の手は、そのまま通話ボタンへ。

『もしもし!?横澤、今お前どこに』
「桐嶋さん、おはようございます」

電話に出ている政宗から、必死に携帯を奪おうとするが、努力空しく、政宗はリビングを出て、扉でその通路をふさいでしまった。

「なっ!?おい、政宗っ、聞いてんのかっ!」

ドンドンっ、と扉をたたくけど、政宗は電話を止めない。
小野寺に止められて、俺は元居た場所に座り直す。
待つこと、10分。ようやく電話を切った政宗が顔を出す。

「律、お前部屋汚ねぇよな?丁度いいから、横澤に掃除してもらえ」

唐突に何を言い出すかと思えば、俺と小野寺はそれぞれの荷物を持たされて、そのまま部屋から追い出された。
俺の携帯だけは、政宗がきっちり握っていて、俺は自分の家に帰るわけにもいかなくなる。そら太にご飯をやりにいったん家に帰りたいのに。

「あの、こうなった高野さん止められないと思うんで、どうぞ汚いですが俺の家に」

そんなこと良く解ってる。ただ、それを口に出すことなく、俺は小野寺の部屋に『お邪魔します』と足を踏み入れた。
が、

「何だ、これ」
「きっ、汚いって言ったじゃないですか!!」

本当に、人が暮らす部屋か?ゴミ屋敷の間違いじゃないのか?
そう思うほどの散乱状態。
比較的安全な通路に荷物を置くと、小野寺に向き直る。

「おい、小野寺…」
「はっ、はいっ!!」
「ゴミ袋と洗濯かご持ってこい」
「は?」
「良いからとっとと言うこと聞け!!」
「はいぃいッッッ!!!!!」

パタパタと慌てて動く小野寺を見て、ため息を吐く。どうして、こんな状態で生活ができるんだろう。
政宗と言い、小野寺と言い。
不衛生にも程が有る。

散らかったゴミを、一応ゴミだと判別できるものは勝手に捨て、紙類など必要そうに見える物は小野寺に聞いて、必要じゃ無いものは捨てた。
大体、何日分か解らない衣類を小野寺がさっきまで着ていた服すら下着ごと脱がせ、全部一纏めに洗濯機に入れ、回す。
掃除機を捜し出すと、たぶん昼になるだろうから、小野寺に買い物メモを渡す。
そのまま追い出すと、俺は無心になって部屋の隅から隅へと掃除機をかけ始めること、数分。
慌ただしく、この部屋の扉が開く。

「小野寺、何か忘れものか?」
「横澤!!」
「っ!?」

振り向かず、そのまま掃除機をかけてたら、後ろから聞こえた声に思わず固まる。

「なん、で?」

何で、桐嶋さんが此処に居る?
手から力が抜け、掃除機の柄を落としたことでハッと気が付く。

「何でじゃない!お前こそ、どうしてここに居る!?」
「俺は、そのっ…」

近づいて来た桐嶋さんの顔を見れずに、誤魔化すため掃除機を拾って電源を切る。
…って、何で俺が攻められてるんだろう?俺がどこにいようが、桐嶋さんには関係ないはずだ。

「アンタには関係ないだろ?ここは小野寺の部屋なんだ、家主に黙って入ってくんなよ、帰れ」
「横澤、話を聞け!」
「うるさいっ!帰れって言ってんだよ!アンタの顔なんて二度と見たくない!!」

違う、そうじゃない、また、そんなことを言ってしまう俺が、俺の性格が憎い。ああしたことが有っても、俺はやっぱり桐嶋さんが好きだ。だから、俺が落ち着いてからまた一緒に居たいと思うのに、なんで、そんなことばかり言ってしまうんだろう?
嫌で嫌で、つい唇をかみしめた。

「っ、そうか。悪かったな」

あの日と、同じ。初めて、八つ当たりした日と、同じ…。
また、桐嶋さんに拒絶される…。
先に桐嶋さんを拒んだのは俺なのに、桐嶋さんに拒まれると生きていけない気がする。

「横澤!!」

目の前が真っ暗に成りかけた時、政宗の呼ぶ声でパッと現実の光景に戻る。

「言いたいこと、全部この人に言っちまえ!!馬鹿じゃねぇの?そんな、溜め込んでるといつかおかしくなんぞ?」
「政宗っ」
「俺に泣きつくぐらいなら、初めから桐嶋さんに当たってから来いよ」

何を言っている?
と一瞬、頭を傾げそうになった。
昨日、俺を連れ込んで色々聞いて来たのは政宗の方だったから。
そんな、政宗の一言で俺の変な緊張が一気に解ける。
そして、帰ろうとしていた桐嶋さんの腕を掴んでこっちを向かせると、今までの鬱憤も何もかも全部を叫ぶように桐嶋さんに投げつけた……。

それから、結局俺はその子が帰るまで俺の家で過ごした。また、大人げないかもしれないが、その子に俺が会いたくなかったから。
あの日から欠かさず続くひよのメールには、その旨をオブラートに包んで伝え、桐嶋さんと分かれ道まで一緒に帰る様になった。
初めから、やり直すようなそんな関係。それでも、良いのかもしれない。
桐嶋さんの隣に居られること、それすら出来なくなってしまったら俺は生きていけない。

END

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