ゆく年、くる年




ジャプンの校了開け、1日後。その日は、井坂さん主催の丸川書店忘年会が開かれた。井坂さん主催なだけあって、大抵の部署は参加している。もちろん、営業もジャプンもサファイア等も。

こう言った作家の、特に響さんの参加しない催し物には、滅多に顔を出さない。ひよが心配なのもあるけれど、何より酔ってくる女の子たちが煩わしい。それに加えて、昔の先輩とか、俺の枠具合を知ってる人が多数いる中、酒を楽しむ、味わう、なんてことはできない。

しかし、今日は特別だ。今日、と言うより今年、だろうが。何せ、恋人であるあいつが酸化するって言うのに俺は帰るわけにはいかない。最近、綺麗になってきた、と密かに噂のネタにもなってるらしい。そんな中、俺だけが帰ったら横からどんな茶々が入るのか解らない。今までの、暴れ熊と言う認識が幾ら強くても、横澤は女だから。男をまともに相手にすれば、どうしても弱い。女だからって、どうこう言うつもりも無いけど、それでも俺以外が横澤に触れるなんて、今はもう許せないから。


「きりしまさーん、お隣よろしいですか?」


考え事をしている内に、幾らかの女の子が隣に寄って来た。俺の側は一人分を残して壁だ。座る場所など俺の隣は一つしか開いてないし、他に幾らでも開いていると言うのに、こぞって俺の隣を狙いに来る。


「ごめん、今からここ来るやついるんだ」


にっこりと笑って拒否する。ここに座るのはあいつに決まってるし、何よりあいつ以外にはありえない。


「そう言って、さっきから誰も来ないじゃないですか!」

「会議で遅れてるんだよ。必ず来るさ」


俺の、のんびり待とうと言う気に女はもうっ!とか言ってどこかへいってしまう。

しかし、どこからか無礼講と言うことで、まだ始まってもいないのに寄ってくる子たちにうんざりしていると、扉の方から黄色と野太い悲鳴が聞こえてきた。


「きゃーっ!エメ編の皆さんよー!」

「うぉっ、すっげぇ迫力!」


そんな時、俺の携帯が着信を知らせ鳴り出す。



From:妻

Subject:

――――――――――――

どこだ?


――――end――――



そっけないメールだが、あいつらしさがにじみ出ていて思わず笑ってしまってから、入り口に向かって手を振る。それに気が付いたのか、カツカツとヒール音が響く。


「じゃまだ、どけ」


容赦ない一言に、騒然としていた周りはシーンと静かになる。

そこで、隆史はため息を吐くと、もう一度同じ言葉を発した。


「ごっ、ごめんなさい!」


そう言いながらどけて行く彼女たち。

その光景に少し苦笑しながら、近付いて来た隆史を受け入れる。


「遅かったな」

「悪い、手間取って」

「いいさ、さっ座れよ」


あぁ、と座ろうとした隆史の腕を気の強そうな女が引きとめる。


「なっ、何で横澤が桐嶋さんの隣に座るのよ!!」

「そーよ、何で!?」


閑散としていた彼女たちは、初めの…たぶん隆史より先輩なのだろう女に吊られたかのように騒ぎ出してまた辺りは騒然とする。

しかし、俺も隆史も面倒くさげに眉を寄せるだけだ。


「……嫁が旦那の隣に座っちゃいけませんか?」

「はぁ?」


当然のようにいった隆史。俺も、同じようなことしか言わないだろうから黙っていて正解だった。


「ふざけないでよ!桐嶋さんの奥さんはずいぶん前に亡くなったって…」

「前妻はね」

「前妻って、まさか…」


仕方ない、と言ったように俺の左手を引っ張り、自分の左手の薬指にはまる指輪を見せ、隆史は言う。何か、だから嫌だったんだ、とか隆史がぶつぶつ文句を言っているのが聞こえる。相当面倒なんだろうな、と感じ取ることができる。


「これで、納得してもらえますか?」


ペアリングを見せ、彼女たちが黙ってる間に、隆史はさっさと壁側の席へと座ってしまう。

俺はその姿に、苦笑しながらも結局何も言わない。

周りに集まってきていた彼女たちは、俺達の態度に諦めたのかそろそろと帰って行く。

そっから、井坂さんの乾杯の音頭と共に、料理が運ばれてきた。

冬だって言うことで、鍋。水炊きだった。


「禅、皿取れ」

「あぁ、はい」


少し深めになっている皿を隆史に渡す。隆史は、何が良い?なんて聞かないで勝手に積んでいく。けれど、そこに俺の嫌いな物は入っていない。それ以外はバランス良く盛られていて、文句は何一つない。


「ほらっ」

「ありがと」


そう言って受け取ると、他の奴らのも盛ってやってる。そこに、嫉妬しないわけじゃないけど、他の奴にはきちんと何が良いか聞いてるし、出来た嫁だと思うよ。

そして、自分の分は一番最後って言うね。

隆史が自分の分を盛り終わり、いただきます、と手を合わせた。

隆史のは一番最後だったから、まだ熱いだろう。

俺は、自分の皿に盛られてた、隆史の好きな物を摘まむ。


「隆史、」

「ん?なんあっ!?」


こっちを向いて口を開いた隙に、それを口の中に突っ込む。


「んんっ!!」

「ははっ、おいしい?」


たぶん、俺の名前を怒鳴りたいんだろうけど、口の中の物が邪魔して喋れないんだろう。

諦めて咀嚼しだした隆史に、おいしいか聞けば顔を赤くさせながらも頷くもんだから、全く可愛い嫁だよな?


それから、ひやかしとか色々受けながら、忘年会は終了した。

俺と隆史は、そのまま2次会には出席せず帰る。

ほろ酔いの隆史の手は暖かくて、思わず笑ってしまった…。


End


ほんと、時期外れも良い所。つか、もう遅れてしょうがないってねww

実は、横澤さんに嫁って言わせたいがためだけに、女体化にしたと言うねww



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