恋カフェモカ
〈プロローグ〉
下町に新しく出来たカフェ、夢追人【ドリーマー】。
そこで、働くのはちょっと訳ありの美男子たち。
【恋カフェモカ】
「いらっしゃいませ」
カランカラン、と音をたてて扉が来客を知らせる。
「お初に御目にかかります。あの、私こう言う者でして・・・」
「・・・お掛けになって、お待ちください」
差し出された名刺を見て、福井は奥まった場所にあるSecretspaceのカウンターへと足を運んだ。
「店長、何かテレビの取材?来てんだけど」
「はい?」
間の抜けた声と共に姿を表したのは、20代後半でもシャララが抜けず、寧ろ磨きがかかった店長である、黄瀬。
名刺を受けとると、小首を傾げた。
「確かこの間、雑誌の取材来たばっかりッスよね?」
「そうだな、確か○Zだったか?」
カウンターの奥の奥から顔を出して来たのは、副店長でこの店の飲み物以外の調理を担当する諏佐である。
「あぁ、そうっしたね!」
「最近、客も多いしその所為かもな」
あー、と渋い顔をして福井に名刺を返す。
「あんまり、気も進まないッスけど、花宮さんに一応相談してみて、GOサイン出たら、雑誌の時と同じ条件でOKしてください」
「りょーかい」
福井は、その隔離された場所から花宮を探しながら出ていった。
「取材っていってもな」
「あはは、そればっかりは、仕方がないッス」
諏佐の言いたいことが解っているのか、黄瀬は苦笑を返す。
「てんちょ、オーダーはいりまーす!」
「はいッス」
そんな中、明るめの声が響き、黄瀬はそれに答える。
そんな姿に、 諏佐が今度は苦笑しながら厨房へと戻っていった。
黄瀬涼太の場合
笠松センパイが、モテる事は知っていた。男前だし、何より厳しいけれど、優しい人だから。
そんなセンパイだから好きになったし、付き合ってた。
けど、俺はそれを本当に理解してなんかなかった。
「センパイ、明日久しぶりに休みとれたんスよ!センパイも、予定ないって言ってたッスよね!どっか遊びにいかないッスか?」
「無理」
「何で!?」
「何でって、明日は森山達と出かける予定になったから」
何て事は当たり前。
本当に、デートに出掛けられたとしても、邪魔されるなんていつもだった。
寧ろ、まともに二人っきりでデート出来たことなんか一度もない。
いつも皆どっかに、センパイセンサーでも付けてるのか?ってくらいの勢いで見付かった。
そして、質の悪いことに、先輩は誘われたらそれを断らない。
満更でもない顔をして、俺がくっついたらシバかれるのに、くっついた人の頭を撫でたりして、俺が置いてきぼりにされたことは、一度や二度ではすまないくらい。
それでも、センパイからの愛を疑った事はなかった。絶妙なタイミングでいつも甘やかしてくれたり、一緒に居てくれたから。
けど、やっぱり俺はもっともっと一緒にいたくて、俺を見て欲しくて、我が儘をいったりもした。まぁ、それをキッパリとはね除けるのがセンパイだったけど。
そして、事が起こしたのは、センパイが大学4年の誕生日。
その年はセンパイの就職活動や、教員実習が重なり、俺も仕事があったりして、すれ違いの日々が続いていた。
そんなある日、仕事帰りにふと足を止めたカフェテリアのウィンドウの向こう側。
笑って、お茶を数人の仲間と飲むセンパイの姿を見つけて、思わず目を見開いて走り出した。
丁度この日は、次の日のオフが前々から決まってた日で、この日の仕事もそんなに多くないから、仕事が終わったら会わないか、とセンパイを誘っていた日だった。
OKを貰えてたのに、いきなり朝になって、ドタキャンされた。
彼らと、センパイがどんな関係かは知らない。けど、それは恋人である、俺を蔑ろにしてまでの関係なんだろうか?
だいたい、と日常の事まで考え出すと、涙があとからあとから溢れて止まらなかった。
俺は、センパイにとって何なんだろう?恋人って、こんなものなの?答えのない疑問が溢れて、胸を締め付ける。
だから、それが知りたくてセンパイの誕生日に、独りでとある賭けをした。
その賭けに負けて、今俺はセンパイから離れてカフェ【夢追人】のオーナーをしてる。
俺は弱かったから、ただ逃げただけ。何もかもから、寂しかった現実から、、、
諏佐佳典の場合
俺は、今吉が好きだった。いや、今でも好きだ。忘れたくても、今吉と過ごした数年は濃いもので、忘れられないくらい体に染み付いて離れない。それは、決して良い思い出ばかりじゃないし、辛いこともたくさんあった。
けれど、その一つ一つが今吉翔一と言う男の欠片であり、俺の中の今吉翔一と言う男だ。
今吉が、誰と付き合ったからと言ってそんなにショックを受けることはなかった。何せ、付き合っていたのは皆女性だったから。
自分ではむりだと、言い聞かせるのに十分な理由だ。
だった、けどそれが崩れたのはある日、同じ男である後輩と今吉が付き合いだしたことを、本人の口から聞いた時だ。
「ずっと好きやった、ようやっとワシのもんや」
そう言って、笑った今吉に俺は笑って、おめでとうを言えたかどうだか、もう覚えてない。
ただ、醜い感情に支配されて、その時ばかりは、今吉の顔をよく覚えてない。
それから俺は少しずつ、今吉から距離をとった。
会うたびに、醜いドロドロした感情が込み上げて、ブチ撒けてしまいそうになったから。
どうせ選ばれないのならば、消えてしまいたい。そう思ってたとき、俺は海常の黄瀬とであった。
逃げ道を、くれたんだ。
葉山小太郎の場合
俺はね、宮地が好き!今でも、大好き!
でもね、それを伝えることが出来なかった。伝えることを許されなかった。
秀徳のメンバーは、宮地が大好きだったから。
だから、逃げた。海常の黄瀬が、手を差し伸べてくれたから、俺はその手をとった。好きと伝えることができないなら、側にいることも、許されないのなら宮地のいない場所に行ってしまいたかった。
出来るなら、忘れてしまいたかった。
宮地を想う前に、出会う前に戻りたい。そう、何度願ったかも解らない。
赤司が、前に言ってた。
俺は、一生に一度の恋をして、それが叶っても叶わなくても、その人を思い続けるんだろうって。
その時は、あぁ、素敵だな、叶えば良いなって思ったけど、現実に自分が体験してるってなると、やっぱり辛い。
宮地を想う気持ちを忘れようとするたび、夢を見る。宮地が俺に笑ってくれた夢。その夢を見るたび、好きが溢れて止まらなくなる。
そのたびに、店長に宥められる。
俺のが年上なのにね!
その時、よく店長は俺に言うよ。
「葉山さんは、きっと想うことに疲れちゃったんスね」
って。
そうなのかな?でも、これだけは変わらないよ。
出会った時から、ずっと好き!
俺は宮地が大好き!
変わらないよ、きっと宮地が他の誰と幸せになってもね。
花宮真の場合
アイツを好きだと自覚した時には、既に手遅れだった。
何をしても、どうしても、アイツが俺を見ることなんてあり得なかったから。
だから、壊そうとした。アイツが好きなバスケも仲間も全部、全部・・・。
壊すことで、アイツが俺を負の感情でも良い、見ればそれでよかった。
けど、アイツは笑っていて、俺のしたことなんて無かったかのようにしやがって、気が付いたら、心にトラウマ植え付けた奴と付き合いはじめてた。
Mなのか?とも思ったけど、幸せそうに笑ってて、何も言えなくなった。
そんなとき、海常の黄瀬とであった。
良い感じに負の感情を纏った黄瀬に、一緒に店をやらないか?と言われて、二つ返事でOKしてた。
いろいろ、黄瀬が見繕う客も負の感情を抱えてる奴等が多かったりと、居心地は悪くなかった。
けれど、そこにはアイツ並に嫌われてでも、そいつの中に存在したいと思える存在は、誰一人としていなかった。
当然だな、他人はアイツ、木吉じゃねーんだから。
俺も大概、バカってことか。
福井健介の場合
紫原敦、その存在に目を引いたのは割とはじめの方から。
まぁ、最初は随分デカイガキが入ってきたもんだと思ったけど、それすらも可愛く思えてきたら、アウトだった。
決して甘やかすつもりはなかったし、どうして堕ちてしまったかなんて、説明のしようもない。
けど、IN終わって少しした頃入ってきた氷室が、紫原を甘やかし、それになつく紫原を見てもやもやした。
少したって、あぁ、俺紫原が好きなのかって、理解できた。
思えば、その時の行動は早かった。
部活終わりに紫原を呼び出し、好きだと告白した。
紫原は、少し目を見開いて此方を数秒みたあと、あの大きな体を折って「ごめん」って、言った。
「ごめん、俺福ちんのこと、そんな風に考えられない」
俺は、「そっかい」と、どんな顔をしたら良いのか解らないまま答えてた。
そのあと、俺と紫原の関係は変わらなかった。くっついて来るときはくるし。
本当に、俺が告白した事すら無かったかのように、いつも通りの日常が過ぎていっあ。
それに、思う所が無かった訳じゃないが、紫原だ、仕方がないと諦めた。
そう言えば、東京に出てくる前、一度だけ、紫原にキスされたな。意味わかんねえ言葉と一緒に。あの、誠凛の奴と付き合ってるハズなのにだ。
「福ちん・・・福ちん、ちいさ過ぎ」
これにキレなかった俺、偉いと思う。
まぁ、実際のとこ、キスされてぼうっとしてただけだがな。
んで、東京に出てきて遊んでたら、黄瀬と笠松に会った。あの頃は幸せそうだったのにな。
それから、俺の卒業時に黄瀬に声をかけられて今に至る。
まぁ、少し荒れてた時期でもあるし、丁度よかったな。新しい恋も探せるだろ。
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