酔っ払い笠松さんと世話焼き黄瀬君とスピード結婚
「きしぇ〜」
全くどうしてこうなった?
呼ばれた本人である黄瀬は、ため息をばれないようにこっそりと吐いた。
事の始まりは、笠松が二十歳を迎えた、大学のサークルでの飲み会であった。
笠松は酒に弱かったのか、何杯も飲まない内にべろんべろんに酔っぱらっていた。
男嫌いと大学でも風評のある笠松に、幾ら見目がよくても我が身可愛さに近寄ろうとする輩はいなかった。今の今までは。
「笠松さん、今日はもう帰る?」
「うん、帰りゅ」
カワイーっ、と女子の声が上がる。
「あっ、じゃあ俺が送ってこうか?」
優男風な男が、善意からか、下心からか手をあげて言う。
ここまで酔っていたら、流石の笠松でも手や足は出ないと考えたのだろう。
「いりゃにゃい。ひとりれ、かえれりゅもん」
「そう言わずにさぁ」
「そうだよ笠松さん。そんなに酔ってたら、危ないって!誰かに送って貰いなよ」
「やりゃ」
ぷくーっ、と頬を膨らませながら、プイッと横に首を降る。
「可愛いけど、ダメだよ〜。笠松さんが心配なんだから、ねっ?」
「うぅ〜、わかっりゃ」
仲の良い女子にそう言われて、笠松は折れ、優男風な男は内心ガッツポーズをした。
が、それは脆く崩れ去る事になる。
「きしぇよびゅ」
「えっ?誰?」
ポカーン、としたメンバーの中、マイペースに携帯を弄り電話をかける笠松。
『はい、もしもし?』
「きしぇ〜、おみゅかえきれ〜」
自分が誰とも言わずに、笠松は本題を話はじめる。
声を聞いて間違えてないと確信していたのだろうけれど、相手にしたら電話越しに一瞬、えっ、誰?状態だろう。
『……センパイ?』
「ん〜?らんら?」
『もしかして、酔ってます?』
「よっれらいもん!きしぇのばかぁ!」
完全に酔っぱらいである。
酔っぱらいほど、酔ってないと言うものだ。
『はいはい、解りました、酔って無いんですね。今どこッスか?迎えにいくッスよ』
どこ?と聞かれて、どこだっけ?と辺りを見回し、割り箸の袋にたどり着く。
「ん〜?あ、らいがきゅろちかきゅろぉ、◯×〜」
『……大学の近くッスね。解りました、丁度近くに居るんで十分かそこらで着くッス』
「ん、きしぇ〜、まっれる」
はいはい、ブツ、と切れた電話。
それを鞄にしまうと、笠松は、鼻唄でも歌い出しそうな雰囲気になっていた。
「きせくん?来てくれるって?」
「ん、じゅっぷんかそこられつくんらっれ」
にへー、と笑う笠松に、何とも言えない雰囲気に回りはなる。
「きせくんって、笠松さんの彼氏?」
気になった質問を問いかければ、笠松は何言ってんだ?と言う顔をした。
「ちがぁうろ、きしぇはぁわらしのこーはいなろ」
「へぇ?よく迎えに来てくれるって言ったね」
「へへへ、きしぇ、やしゃしいんらぁ」
そう言っている内に、居酒屋のドアが開く。
すると、きゃーっと黄色い悲鳴が上がった。
「んあ?きしぇだぁ」
「え?」
何でわかった?そう問おうとするが、現れた人物により、唖然とした口はパクパクとしか動かせれなかった。
「きしぇ〜」
そう、笠松が呼んだ瞬間、黄瀬はひっそりため息を吐いた。
「センパイ、帰るッスよ」
「ん、帰りゅ。きしぇ」
「はい?」
笠松に近付いていく黄瀬、その首に笠松の手が回り、目線は言わずもがな、上目遣い。
何このシチュエーション、と黄瀬は心の中でヒクヒクと頬をひきつらせた。
「らっこ」
「……抱っこをセンパイの家まではキツいんで、せめておんぶッス」
「むーっ、らあ、そえでいいもん」
ぷくーっ、と再び子供のように膨らんだ笠松の頬に目もくれず、笠松を剥がすと黄瀬は笠松の私物を確認していく。
コートを手に取り、笠松の前から着せようと広げた。
「はいはい、じゃコート着て。はい、これ荷物。持つッスよ」
「ん、わかっら」
じゃあ、乗って、と背を出した黄瀬の背中に遠慮無しに抱き付く笠松。
んしょ、と立ち上がった黄瀬は振り返ると、お邪魔しました。と、ぺこり、頭を下げて出ていった。
「きせくんって……モデルの黄瀬 涼太じゃん」
居なくなり、数秒後、誰かが呟いた。
何とも言えない雰囲気になり、自然と飲み会はお開きになった。
笠松が飲みに行き、黄瀬が迎えに来る。そんな構図がこの一年で出来、笠松に手を出そうとする不埒な輩は、目に見えて減った。が、尚も笠松を狙う輩はいるわけで。
しかし、その彼等も脆く崩れ去る出来事が起きた。
「あれ?笠松さん、指輪なんてしてたっけ?」
「うん?あぁ、これ?言ってなかったか?結婚するんだ、もうすぐ」
ニコニコと潰れてはいないものの、確実に酔っている笠松は、スラすらと聞かれたことに対して答えていく。
「け、こん?」
「卒業式の日、呼び出されて、黄瀬に告白されたんだ」
そう語る、笠松は幸せそうだ。
周りは雷に撃たれたような衝撃が走っていたが。
「えっと笠松さん、いつから付き合ってたの?」
前に聞いた話では、付き合ってる何て、聞いてなかった。
ただの、優しい後輩としか笠松は話していなかったはずだ。
「んぁ?黄瀬とか?付き合ったことなんてねーよ」
「はぁ!?えっ、ちょっと待って!何で何もかもすっ飛ばして結婚!?」
「うるせーな。騒ぐな、シバくぞ」
声を張り上げた相手に笠松の拳がヒットする。まぁ、普段よりは力が出てない様子だがそれでも痛いものは痛い。
「黄瀬が、結婚しようって言ってくれたんだ」
「黄瀬君から?それで何で付き合ってもないのにOKしたわけ」
「何でって……何で?」
「いや、私に聞かれても……」
もはや、心の中は折れっぱなしだ。
「う〜ん……、黄瀬に“俺がセンパイを放っておけない、つかセンパイ、俺が居なきゃダメじゃないッスか”って言われて、ムカついたけどその通りだなって思って、シバいた後にいいよって返事した」
「……笠松さんは黄瀬君の事、好き?」
「わかんね。でも、好きか嫌いかで聞かれたら、好きだし。アタシの側に居なきゃダメ。アタシがダメ」
そう言った笠松は笑っていた。
けれども、何処かムッとした表情も隠れていて苦笑いしか出てこない。
暫くして、黄瀬がいつものように笠松を迎えに来た。
が、一瞬でサークル仲間の男子に捕まってしまう。
「よーう、色男!」
「あの?」
「あの、男嫌いの笠松と結婚するんだって?」
「あはは、まぁ、はい」
酔っぱらいに囲まれ、苦笑いだが幸せそうな黄瀬。
「どうやって落とした?」
「つかさ、付き合うとか飛ばして何で結婚申し込んだんだよ」
両側から肩を組まれて益々苦笑いになっていく黄瀬。しかし、表面上は笑っていた。流石モデルだよな。最近、俳優も始めたんだった。
「いや、あの、落としたとか無いですから」
「は?」
「バスケで俺が不真面目だった時があるんス。そんときに、俺をシバいて更正させてくれたのが、センパイだったっス」
そう、黄瀬は懐かしそうに笑う。
「そん時からもうセンパイは男が苦手って言ってたけど、もう嫌いの域ッスよね」
同意を求めるように黄瀬は、クツクツと笑う。
「それで、初めの頃、校舎で会っても、声すらかけられない威圧的な雰囲気だったッス。けど、部活では普通に話せたし、シバかれたし、その内に校内でも普通にできた。その頃は、まだ俺にセンパイが居なきゃダメだったけど、今はセンパイに俺が居なきゃダメになっちゃったんスよねぇ」
そう、笠松を見る黄瀬の目は酷く優しくて……。(うっかり、男でも惚れそうになったなんて言えない、言えない)
「付き合うとかって、センパイはきっと恥ずかしがって上手くいかないと思ったから。上手くイメージ出来ないと思うんスよ。けど、結婚なら、イメージしやすいっしょ?だから、結婚しようと思ったッス」
そこから、パッと事務所にOK貰って、笠松にお付き合いをすっ飛ばしてプロポーズしたわけだ。
「良く考えたら、これって“お付き合いを前提に結婚してください”ってやつッスね」
「はぁ?」
「逆だろ、つか付き合ってねぇ」
ケラケラと黄瀬を囲む輩は笑う。
「合ってるッス。だって、結婚して、これから先、ずうっとお付き合いしていくッスから」
そう言って立ち上がると、笠松に手を差し伸べる。
「さぁ、帰るッスよ幸緒さん」
「うん、りょーた」
微笑み合った二人は、幸せなオーラで溢れていた。
ゲロ甘になった…。
いや、最近よく?見る、“お付き合いを前提に結婚してください”って言うのを書きたかっただけなのよ、どうしてこうなった。
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