三度目の恋


『スクープ!!

モデル兼タレントの黄瀬涼太、電撃結婚!?お相手は、まさかの一般人!』


こんな見出しが、とある週の週刊紙の一面を飾った。


「あー、昨日ブログ更新したばっかりなのに早いッスね」


テレビの朝イチのニュースを見ながら、黄瀬が呟く。

その内容は、言わずもがな黄瀬の電撃結婚についてだ。


「当たり前だろ。お前の人気を、お前が見くびるな」


黄瀬の言葉に不機嫌そうな顔で答える。まったく、とホカホカの朝食が乗った皿をテーブルに置く。


「ほら、ボウッとしてないで、さっさと食って仕事行けよ」

「ハーイッス」


ふざけた感じに笑う黄瀬だが、その実、生き生きとしていた頃と比べ、輝きが曇っている。シャララオーラが、今はしゃら、程度にしか出ていない。

が、これでも回復した方である。



どうしてこうなった、それは昨日に遡る。


「黄瀬?」


会社帰りに懐かしさでたまたま寄ったバスケットコート。そこには、高校時代に見慣れたド派手な黄色い頭が項垂れていた。

声をかけると、ゆらり、と動く頭。


「……お久しぶりッス、笠松先輩」


黄瀬はきっと、いつも通り笑ったつもりだろうが、覇気がない。

シャララオーラも全く無い。


「久しぶり、どうしたんだお前」

「……どうもしないッスよ?それより、先輩はどうしてここに?」


隠そうとしてるのは見え見えで、自然と眉間にシワが寄る。


「久しぶりに早上がり出来て明るかったから、寄ったんだよ。つか、どうもしないなら、」


それなりの顔しろよ、と言う前にポツリ、どんよりと垂れ込めていた雲から、雨粒が頬に触れて、その言葉が途切れる。


「雨」

「……」


ボウッと空を見上げたまま、黄瀬は何も言わない。

けれどその姿は、芸術品みたいで見とれた。

次第に強くなる雨足に、ハッとして黄瀬を呼ぶ。


「黄瀬!」


強く叫ぶように呼んでも、黄瀬はうんともすんとも言わない。

舌打ちしながら、黄瀬に近付き、肩に触れて揺さぶる。


「お前、家は?」


首を横に振る黄瀬。その他何を問うても同じ反応が帰ってくるばかり。

埒が明かないと、黄瀬の腕を引っ張り立たせる。


「行くぞ!売れっ子芸能人が体冷やして風邪引いたらどうすんだよ」


思いの外、素直に付いてくる黄瀬に拍子抜けしながら、自分の住むマンションまで走る。当然、自分より背も高い足も長い黄瀬は、走りながらもどこか余裕があるように見えた。腹立たしい、こっちは体力計算したギリギリだってのに。


着いた玄関に一先ず黄瀬を待たせ、粗方の滴を拭い、部屋に上げた。タオルを頭に乗せ、リビングのソファーへと座らせる。


「風呂沸かしてくるから、ちょっと待ってろ」


黄瀬からの反応はない。

再び舌打ちしたくなるのを堪えながら、急いで湯を溜める。準備し終わり、戻ると黄瀬は座らせたままの姿で微動だにしていなかった。

そんな黄瀬の目の前に立ち、頭のタオルで濡れた髪を拭いてやる。

びくり、と動いた後、パシッとその腕を捕まれた。


「っ、きせ?」

「……」


何も言わず見上げてくるその瞳は、ゾクリとするほど冷たく、色の無いものだった。


「どう、した?」


絞り出すように、声が出た。捕まれていない方の手で黄瀬の頭を撫でる。


「…っ、」


一筋、外で落ちる雨粒のような涙が流れた。


「なんで、」


おれじゃなかったの?そう、苦しそうに呟かれた言葉に胸が締め付けられる。


「テツナっちも、かがみっちも、どうして、おれをえらんで、くれなかったの?」

黒子テツナ、黄瀬の初恋の相手だ。火神大華、黄瀬の二番目に好きになったやつだ。どちらも、相談されてアドバイスしたり、シバいたりしたから知ってる。

やっと、黒子テツナが黄瀬の中で火神のお陰でけりが着いたと言うのに。


「がんばったのに、すきだって、いうから、ばすけも、もでるも、がんばって、てっぺんまで、のぼりつめたのに、でも、どうして、いつも、いつも、ちがうひとを、おれじゃないひとを、すきになるの?おれをみてよ!」


鳩尾の辺りに頭を当てて、涙を流す黄瀬の頭をただ、無言で撫でていた。


「もう、やだよ…、なにをめざして、がんばればいいの?なにをたよりに、いきればいいの?なんのために、がんばればいいの?」

「黄瀬…」


ギュウッとその頭を抱え込んで離す。

目と目を合わせて、柔らかに微笑んだ。


「アタシじゃ、代わりにならないかもしれないけど、アタシの為じゃダメか?」

「せんぱいの、ために?」


そうだ、と頷く。黄瀬が、また笑えるようになれればいい。それだけを思いながら、思ったことを口にしていく。


「お前が望むなら、何だってしてやる。だから、笑え」

「…うそ、だ」

「本当だ証明してやるよ」

「じゃあ、せんぱいは……けっこん、してっていったら、してくれるの?」

「良いぜ?」


にやり、と不敵に笑う。

そんな事ぐらい幾らでもしてやる、と、笑った。

ちょっと待ってろ、と携帯を手に取り電話をかける。

数回のコールの後、繋がった先に、もしもし?と話し出す。


「もしもし、森山か?」

『そうだけど、どうかしたか、幸?』

「お前、暇か?」

『は?』

「暇なら、一時間後くらいにアタシの家まで、今吉か小堀と一緒に来い。あぁ、役所に行って婚姻届貰って来てくれ。印鑑忘れずに持ってきてくれ、頼むわ」

『えっ?ちょっ、ゆ』


ブチ、と電源ボタンを押し、通話を一方的に終了させる。


「で?他にして欲しいことは?」


ぽかん、と俺を見上げる黄瀬は唖然としている。


「今は、無さそうだな」


くすくすっと笑うと、風呂を促す。

が、黄瀬の手はいつの間にか掴んでいた笠松を離さない。


「せんぱい、は?」

「お前が上がったら、入るよ」

「……いっしょ…」


しゅん、と捨てられた仔犬のような目をした黄瀬を前にして否、とは言いがたい。それに、さっき何でもしてやると言ったばかりだ。断れるはずがない。


「……解ったよ、ほら入るんだろ?」


少しの沈黙の後、了承を伝えると、少しだけ黄瀬の顔が輝いた。そうして、脱衣所でふくをぬぎ、湯船へと浸かる。

背中から黄瀬が手を回し、抱き締めてくるため、何時もより背中が柔らかくて暖かい。

もちろん、アタシはバスタオルを巻いてるし、黄瀬は腰タオルだ。そこは譲れない。


「ふぅー」


温かさに、無意識に積めていた息を吐き出す。

ぴとーっとくっついて離れない黄瀬の頭を撫でる。


「黄瀬、くすぐったい」

「……」


肩に当たる黄瀬の吐息が少し、くすぐったくて伝えるも、動くことはない。

そうして30分、温まると風呂を出た。

黄瀬の服は、ストーブの前で乾かしてる。アタシは着替えて、黄瀬はバスローブとか家には無いから、使ってない毛布持ってきて巻いた。

温かい飲み物を準備しようとキッチンへ立つと、後ろから黄瀬に風呂の時のように抱き込まれた。

温かい飲み物を準備しようとキッチンへ立つと、後ろから黄瀬に風呂の時のように抱き込まれた。
この状態で思うのはただ一つ、下着まで濡れてなくて本当に助かった、と言うことだ。

「黄瀬、寒くないか?」

問いの答えは帰ってこない。が、黄瀬は離れずぴったりと後を付いてくる。
邪魔くさいが、黄色いヒヨコが親の後を付いて歩くようなものだと思えば、可愛いものだ。
その内に、ピンポンとチャイムが鳴り、来客を知らせる。

「よぅ、森山」
「よう、じゃねーよ!何なんだよ一体!?って、きゃぅがぁ!!」

黄瀬の姿を見て、叫びそうになった森山の口を慌てて塞ぐ。そのまま発せられたら近所迷惑だ。
隣にいた小堀は、黄瀬の姿に驚いたのか、森山を止める期待は出来そうになかった。

「とりあえず、中入れ」

促して、リビングへ招く。
小堀と森山が座り、反対側に腰を下ろす。
黄瀬は相変わらず、張り付いたままだから、俺は黄瀬の足の間に自然と座る形になる。

「はい、言われてた婚姻届けと印鑑と小堀!」
「えっと、私は届け物なの?」
「翔一か小堀連れてこいって言われて、翔一に電話したら忙しそうだったから」

ぶつくさと呟く森山。
が、その表情は不服そのもの。

「大体、その格好なに?破廉恥極まりないんだけど?」
「破廉恥って、お前なぁ」

確かにそうかもしれないが、何て言うかこう、死語のような時代遅れのような……。
まぁ、そんな事はどうでもいい。

「それより、黄瀬。お前、判子あるか?」

フルッ、と小さく首を横に振る黄瀬に、だよなぁ、と苦笑いする。

「じゃあ、とりあえずここに、名前書け」

ボールペンを持たせ、ここ、と指で示した夫の欄。
黄瀬は更々と淀みなく記入していった。

「よし、書いたな」

黄瀬が終わると妻の欄に、自分の名前を記入し、印鑑を押した。

「お前ら、証人としてここに名前と判子と住所くれ」

ポカーンとした表情の二人の前に婚姻届を差し出す。

「流石に、今日は書類無いから提出できないけどな」
「……ん?」
「あぁ、俺の本籍が東京じゃないからな」

戸籍謄本を申請しなきゃいけない。

「それより、お前は事務所に電話して、結婚するって伝えておけよ?」
「…解ったッス」
「俺も親に電話だな」

「いやいや、ちょっと待て!」

正気に戻ってきた森山は、ダンッ、と机を叩いて抗議してきた。

「何だよ?」
「何、お前黄瀬と結婚するの?何で?この間まで一生独身でいいとか言ってた奴がどういう心境?つか、突拍子も無さすぎて、由乃困惑!」
「何でって、黄瀬なら良いと思って」
「男嫌いの癖に!」
「男なんて、しょうもない生き物と黄瀬は違うだろ」
「しょうもない言うな!翔一は良い奴なんだよ!」
「諏佐だって…」
「……お前らにしたら、な」

あんな腹黒どもの何処が、とも思わなくもなかったが、言えば何かしら返ってくるのが面倒で口をつぐんだ。

「……俺、しょうもないッスよ?」
「ん?俺にしたら可愛い」

ボソッ、と呟かれた言葉に、黄瀬の頭を撫でる。
世間一般的に、黄瀬は格好いいって言われてはいるが、俺にとっては可愛く映る。
しょうもない、って自分で言うけど、どこが?落ち込んでる、それすら可愛い。

「はいこれ、書いたよ。森山も」

黄瀬に構ってる内に、小堀と森山がサインしてくれていた。

「仕方がないからな!今回だけだからな!」
「そう何度も頼まねーよ」
「そうだね。あっ、私が結婚するときにはよろしくね」

はいはい、と生半可な返事を返す。
いい時間になって、小堀と森山は腰をあげた。

「また来るわ。今度は穏便に呼んでくれ」
「そうだね。驚かされるのは、ちょっと心臓に悪いから」
「悪かったな、じゃ、またな」

そう言って、二人は帰っていった。

「黄瀬、お前はどうする?」
「何、を?」
「帰るか、泊まるのか」
「帰りたい、けど、センパイと…」

一緒に居たい、そう消え入りそうな声で呟かれた。
それに、クスリ、と笑うと黄瀬の頭を撫でた。

「解った。ちょっと待ってろ」

支度してくるから、そう言って、泊まりの支度をする。
その内に黄瀬に乾いた服を渡し、着替えさせる。

「よし、出来た。黄瀬、お前の家って近いのか?」
「……歩いて、10分位?」
「俺に聞くんじゃねーよ。解った、10分位だな。タクシー拾うか」

とりあえず、やましいことはないが、黄瀬は芸能人だ。
タクシーで向かうのが妥当だろう。



そうして、タクシーにて着いた都内のセキュリティ万全な分譲マンション。

「お前、こんなとこに独り暮らしかよ」

中は、広々とした一室。中二階まで付いていて、正に絵に書いたようなマンションだ。

「……そりゃ、今話題の黄瀬涼太ッスから」
「何だそれ、ムカつく。シバくぞ」
「イッタ、もうシバいてるッス……変わんないッスね」
「早々変わるか」

外に出て、スイッチが入ったのか、先程より、黄瀬は少し話すようになっていた。
ドカッとソファーに腰を掛けると、黄瀬が飲み物を入れて隣に座る。

「スンマセン、家、水しかなくて」
「いや、いいよ。気にすんな。お前が水好きなの知ってっから」

そう言うと、黄瀬は少しだけ嬉しそうに笑った。

「そう言えば、結婚するとして、俺はお前の家に住めばいいのか?」
「へ?あっ、考えてなかったッス。一緒に住んでくれるんスか?」
「当たり前だろ?結婚早々、夫婦別宅かよ」
「あはは、そうッスね」

一緒に暮らさないで、形だけの結婚のつもり、だったのか?
それとも、現実味が足りないのか?どっちかだろうな。

「それで、事務所は?」
「俺も、もういい年なんで、即OK貰えたッス」
「そっか。良かったな。お前、ブログとかやってんの?」

ブログとかやってるんだったら、公表した方が良いだろう。
隠しておけば、後々ややこしいって言うより、面白おかしく週刊誌やニュースに取り上げられるだろう。
話題性の十分ある黄瀬に、これ以上は要らない。

「ブログは、やってるッス」
「じゃあ、そこで適当に婚約発表でもしておけ」

キセリョ風にな、ニヤッと笑いそう言えば、はい、と静かに頷いた黄瀬。隣に座りながら、さっさっとスマフォを弄る。

「出来た」
「ん、見せてみろ」

文面を見て、細かい箇所に修正を入れる。心理戦は得意だからな。後々、何か言われても対応できるようにしておくのが無難だろう。

「そう言えばセンパイ、お仕事は?」
「あぁ、気にすんな。もともと、今週いっぱいでやめて、有給消化して退職する予定だったんだ」
「えっ?」

俺の予想外の返事に、黄瀬は驚いたようだ。

「あの部屋も出るつもりだったし、調度いいっちゃ、調度よかったんだよな」
「あのっ、」
「世話になるわ」
「はい、それは全然構わないッス。けど……」

しょぼん、と垂れた犬耳が見える。しゅんっ、としっぽまで下がってそうだ。

「辞める理由か?」

聞きたそうにしている答えをこちらから提示すれば、黄瀬はコクッと頷いた。

「表向きは、自分探しがしたいって事で。本当は、上司にセクハラ紛いなアプローチ掛けられてて、うざかったからだな」
「えっ!?それ、大丈夫ッスか?」
「あぁ、平気だ。もう、終ることだしな」
「そうッスか……でも、何かあったら絶対に言ってくださいッス」

いつになく、真剣な眼差しをした黄瀬に、逆らえず、気付けば頷いていた。

「心配性だな」
「そう言うのは、用心しておくに越したことはないッス、から」

苦々しそうに話す黄瀬。この手に関する何か、あったのだろうか?芸能界に入ったみたいだし、モデルの時よりもしがらみが凄いのかもしれないな。

「解ったよ。そうだ、黄瀬」
「はい?」
「明日、時間あるか?俺は、5時まで仕事だから、それ以降で」
「俺、いつ終わるって言えないッス。だから……」
「じゃあ、終わってたら、ここまで迎えに来てくれ」

そう言って、名詞を取りだし、会社の住所を指差した。

「終らなかったら、メールくれ。先にこの部屋に帰ってるから」

コクッと頷いた黄瀬の頭を撫でる。何度撫でても、傷みの少ないサラサラの髪は触り心地がいい。

「宝石店、閉まる前に出掛けられれば、指輪買いに行こーぜ?」
「…あっ、指輪…」
「指輪の存在も忘れてたのか?」
「えっと、へへっ」

誤魔化すように笑った黄瀬に、ため息を吐きながら笑った。
どんな黄瀬でも、俺の目には変わらず、可愛くてかっこよく映る。
ホント、この感情が何時からあったかなんて、解らない。
けど、最終的に側に自分が居られることを嬉しく感じてる。

「んじゃ、明日も早いし、寝るか」
「そうッスね」
「で?俺は、どこで寝ればいい?」
「……一緒に、寝てくれないんスか?」
「…そうだな、今更か。よし、一緒に寝よう黄瀬」
「はいッス」

そう言って、黄瀬は笑った。


END



んで、

・笠松の会社、送別会で一波乱

・11月11日に籍を入れる

・一緒に寝ていた黄瀬が、漸く笠松を襲う

・子供ができる

・お互いに好きだって解る

・ハピエンド

な、流れが書きたかったが、そんな気力はなかった。

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