泣きそうに笑うアナタを見て、絶対に手に入らないものを知った


「好き、だったんスね。センパイ」

「・・・そう、だな」


悲しげに笑った彼を見ていたくなくて、泣き出しそうなのを必死でこらえた。


「好きだった。正確に言えば、今でも好きだ。でも、アイツを幸せに出来るのは俺じゃねーから。あいつが幸せなら、それでいい」


そう、きっぱりと言い放った先輩の姿を見てられなくて、うつ向く。

そして、思い知る。その思いが絶対に私に向くことはないんだと。

だって、彼女と私はこんなにも違いすぎる。


「・・・っ、センパイなら、きっといい人が見つかりますよ!何てったって、男も惚れる男前っすから!!」

「男に惚れられても嬉しくもなんともねーンだよ、こんバカ!!」

「いったぁああ!!何もブツ事無いじゃないッスか!!」


そう、文句を言った私を先輩は笑っていた。

笑った顔を見て、ホッとしたのは事実。


「ほら、帰るか」

「・・・はいッス」


差し出された手を取る。

けど、そこに先輩、後輩の関係以外の情なんてない。

それが、ほんの少しだけ寂しい。



それから、程無くWCは終わりをつげ、センパイの、高校生活最後のバスケは終わった。

これから、受験勉強に忙しくなるセンパイと会う暇なんてなくて、体育館に行ってもあの覇気のある怒声は聞こえてこなくて、寂しくて、つらかった。

だから、体育館に行くのをやめた。部活に所属していたわけじゃないから、行くも行かないも私の自由だったから。


「・・・今、アンタは何してんスかねぇ」


やっぱり、勉強かな?と、誰もいないストバスのコートにあるベンチに膝を抱えて座る。


「お前は、こんな所で何やってんだ?寒くねーの?」

「・・・寒いっすよ。つか、アンタも何やってんスか?じゅけんべんきょー、あるんじゃないの?」

「息抜きだよ、バーカ。つか、敬語使え。アンタって何だよ、アンタって」


いつの間にか、ベンチに座る私に寄り添うように立つセンパイの姿があった。

そのセンパイと、不意に視線が合い、何かおかしくて二人して吹き出した。


「ね、センパイ。1on1しよっ?」


ストバスのコートに転がっていたボールに近づき持ち上げると、その手をそのままセンパイへ向けた。


「いいぜ、ちょうど体が鈍って来たころだしな」

「うわっ、負け惜しみっすか?」

「馬鹿言え、鈍っててお前の相手にちょうどいいだろ」

「うわぁ、よゆーッスね」

「たりめーだろ。お前に負けた事なんて無いんだからな」


うわー、むかつく!と言いながら、センパイと久しぶりにした1on1は楽しくて、楽しくてつい、時間を忘れるくらいだった。


「なぁ、黄瀬」

「はい?」


暗くなり始めたころ、ゴールから落ちたボールを拾い、不意にセンパイは真面目な顔をして空を見上げていた。


「お前は、俺を置いていかないよな?」

「・・・何言ってんスか?私を置いていくのが笠松センパイのくせして」

「そうじゃなくてだ!」

「・・・そうじゃなくても、ずっとセンパイの側にいますよ・・・センパイが1on1を付き合ってくれるなら」

「・・・っっ、伝わってねーだろ・・・まぁ、いいや。お前と1on1するの嫌いじゃねーし。暇なときは、仕方ねーから付き合ってやるよ」

「はいッス!!」


帰るぞ、と元あった場所にボールを転がしたセンパイは、荷物を持ってストバスコートへ続く階段を下りていく。


「あっ、待ってくださいっス!!」

「おせーと、置いてくぞー」

「ちょ、ちょっとー!!」


ねぇ、センパイ。アタシは、センパイのすぐ近くにいるよ。ずっと。センパイの想いが私に届かなくても、ずっと側にいるから。

アタシは、あの人にはなれないけど、少しでもその寂しさや辛さを、紛らわせることができるように、側にいます。ずぅっと。


「・・・(大好きっすよ)」

「あ?今、何か言ったか、黄瀬?」

「いーえ!何にも!」


側にいられるだけで、幸せだから。その笑顔が見れるだけで、満足だから。

だから、これ以上アタシの前から消えないで。

手に入らないなら、せめて、せめて手の届かない場所まで行かないで。

ねぇ、大好きだよ、センパイ。


「黄瀬・・・?」


横断歩道を渡ろうとしていたセンパイを勢いよく突き飛ばす。

けど、アタシの体は明らかにスピード違反して突っ込んできたトラックに跳ねられて、目の前が赤く染まった。


「きせぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」


そこから先は、秘密の物語。けれど、やっぱり今へと続く、大切な壱ページ。


「―――、どこだ?」


さぁ、彼が捜してる。起きなきゃ、目を覚まして。



【good morning、今宵の夢はいかがでしたか?】


end



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