約束したから
ずっと、側にいるって約束したから……。
事故の被害は、出血と打撲、骨折等色々有ったものの、奇跡的に助かった。
傷も、露出する部分には残らず、激しい運動は禁止されているものの、モデルとして復帰することが出来た。
センパイが、大学に行ってからも、卒業し、就職してからも私とセンパイの関係は変わらなかった。ただ、会える回数が減っただけ。
それでも、毎日のようにメールでバスケについて話したり、休日にはお見舞いに来てくれたり、退院すれば軽くバスケをした。
それだけで、幸せだった。
そして、暫くし、センパイに彼女が出来た。可愛い、清楚系の女の子。純和風って、感じ。
ちなみに、胸は大きかった。センパイの、巨乳厨が。
「で?その子供は誰の子だ?」
結婚を控えたセンパイが、唐突に訪ねてきた。
順調に交際を進めて、今、彼女のお腹の中には3ヶ月になる子供がいるらしい。
その話から、つい、ポロっと口を滑らせてしまった。
お腹の中に、確かに子供がいることを。
「えっと、ははっ、わかんないッス」
だって、言えるわけがない。
「黄瀬!」
信じるわけがない。
「だって、気付いたらいたッスよ」
幸せを壊したい訳じゃ、ない。
「んなわけあるか!」
だから、解ってよ。
「……秘密ッス」
アンタから、奪いたい訳じゃないの。
「俺にも言えない相手なのか?」
アンタだから言えない。
そう、口には出さず、苦く笑った。
「そうかよ……悪かったな、邪魔した」
そう言って、センパイは出ていった。
苛立ったような、悲しげな顔をしたセンパイにかける言葉なんて見当たらなくて、そのまま見送った。
お腹の中の子は、確かにいる。センパイが覚えてない、センパイの子供。
ベタな話だけど、ベロンベロンに酔っぱらったセンパイが、宛もなく家に来て、一夜を過ごしたときに出来た子供。
嬉しくて、センパイと触れ合ったことが、翌朝、例えセンパイが覚えていて、気まずくなったとしても、その時はただ、嬉しかった。けど、同時に悲しかった。触れ合っても、届かない距離が、心が、ただそこに確かにあって、涙が出た。
センパイは、翌朝何も覚えてなくて、ホッとしたのは事実。
それから、約3ヶ月。
突然の吐き気と胸焼けに襲われて、検査した結果、子供が居ることが解った。
笠松サイド?
幼馴染み二人と、結婚の報告も兼ねて飲み会を開いた。二人はもう、結婚していて、名字も変わってるけど、今も変わらず森山、小堀と呼んでいる。
「そうだ、お前ら。黄瀬に子供が出来たの知ってたか?」
そう、黄瀬。あの後、黄瀬と全く連絡をとっていない。今、どうしてるのかも解らない。
「えっ?何それ初耳」
「……」
森山は驚いた声を上げ、小堀は絶句していた。
「しかも、誰の子か教えやがらねぇ……クソッ」
「……私は、知ってるよ」
えっ?と顔を上げれば、小堀が困ったように笑っていた。
「黄瀬の子供の父親も、黄瀬に子供がいることも」
「小堀?」
「私の通ってる産婦人科で、黄瀬が受診してたの」
小堀の先程の沈黙は、絶句していた訳じゃない。困って、きっと言葉が見当たらなかっただけだろう。
「そこで、黄瀬は全部話してくれた。誰が父親なのかも。私は、黄瀬が絶対幸せになれる筈がないって、中絶を進めたよ。けど、大切な人の子供だから産むって言ったよ」
「何でそれを言わなかった?」
「黄瀬に、絶対に言わないって約束したから。だから、これ以上は言わない」
何でだよ、そんな苛立ちに包まれて、クソッと再び悪態を付いた。
森山は、少し悲しげな顔をしてる。それでも、不満も言わない。無理して、笑って言った。
「よーし、じゃあ黄瀬の懐妊祝いってことで、ここは一つ黄瀬の部屋に押し掛けるか!」
「妊婦に迷惑だよ、由乃」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ!私も一児の母親だよ?心配すんなって、浩子」
はぁ、とため息を吐く小堀。余計に心配だとしか言いようがない。
「出来るなら、放って置いてあげるのも、優しさだからね?」
忘れないで、そう言った小堀。
けれど、その言葉の意味を理解したのは、もっと先の話だった。
「母さん、んなとこで寝てんなよ」
(……声が、起きなきゃ)
「また、気付いたら寝てたのか?」
「お帰り、――」
愛し子
end
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