声が、聞きたい


「もしもし、隆史か?」

『桐嶋さん……』


バイブレーションが着信を知らせる。

メールでは無いことに気がつき、慌てて電話に出た。

画面に表示されていたのは、営業の暴れ熊こと、恋人の横澤の文字。


しかし、その声には何時もの覇気が無い。


「隆史、どうした?」

『いや、ただ……』


横澤は、言いかけて、口を濁した。


「ただ?」

『……何でもない、お休み』

「あっ?ちょっと待て、隆史!」


ブツッ、と切れた通話。ツー、ツー、と空しく耳元で機械音が鳴った。


「どうしたって言うんだよ?」


今、横澤は主張で近くには居ない。作家の、サイン会の日程に合わせ、一緒に動いている。

もともと、横澤の管轄ではない作家だったらしいのだが、担当が体調を崩したため、代わりにと言うことらしい。

主張に行ったのは、二週間前。一ヶ月の予定だったから、あと二週間後には帰ってくる。

絶対に捕まえて理由を吐かせよう。そう、桐嶋は心に決めた。


「で?あの電話は一体どういう事だ?何があった?」


予定通り、横澤を捕獲した桐嶋は、ひよが寝た後で、不機嫌を隠そうともせず、横澤の前に座っていた。


「電話?」

「何だお前、二週間前の事も覚えてないのか?」


二週間前?と、首をかしげた横澤は、しばしの沈黙の後、いきなり、ぼふっと音が鳴るのではないか?と言うくらい真っ赤に染まった。


「あああ、あれは!」

「あれは?」


珍しく、たじたじになる横澤。桐嶋は、にやり、と笑いながら横澤を追い詰めていく。


「その……何でもないっつっただろうが!」

「ホントか?」

「あぁ!」

「じゃあ、あの言葉の続きは?」


あの言葉?とまた、首をかしげた横澤。


「“ただ”って言ったっきり、お前、何も言わなかっただろ」

「いや、それは、だな……」

「いい加減、素直に教えろよ」

「チッ…あー、クソッ…………だよ」


態をついたあと、ボソボソと話す横澤。

しかし、その声は届かない。


「何?聞こえねぇよ」

「だから、一ヶ月も持たないなんて思わなかったんだよ!」


横澤は、叫ぶようにそう言った。それだけ言ってしまうと、言い訳のようにポツリポツリと呟く。


「アンタの声、聞きたくて仕方なくなった。ひよが居なかった時は平気だったのに。アンタと二週間ずっと話さない日が続いて、寂しかったんだよ、悪いか!」

「ぷっ、あははははは!」

「笑うな!」


そんな、可愛いことを言われるなんて思ってなかった桐嶋は、盛大に笑った。嬉しくて、楽しくて。


「可愛いなぁ、お前」

「うるさい!黙れ!俺は寝る!寝るからな!お休み!」

「あっ、待てよ!隆史、おい!」


彼らの夜は、これから更けていく。

だめ押し、だが。次の日、彼らは休日であったそうな。


end



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