「四番隊です。救急箱の点検に参りました」
月初めの救急箱点検。各隊にいくつか置かれている救急箱の中身の点検を四番隊が任されている。何人かで別れて行動するため、十一番隊を担当する先輩はどこか怯えていた。代わろうかと声をかけるのも失礼かと思いやめたが、怪我されたら私が治してあげようとそっと思った。ちなみに私の担当する隊は十二番隊と十三番隊だ。十三番隊は薬の使用率が多いと聞いていたので後回しにして、今十二番隊にお邪魔している。
開かれた扉に小さくお邪魔しますと声をかけて中に入った。平隊員に救急箱の在り処を教えて貰いひとつひとつ中を見ていく。すると聞いたことのある声に自然と顔が向いてしまった。
「おはようさん。ひよ里。今日は俺が直々に書類持って来ったで」
「なんやいつもなら隊士使うのに今日はえらい暇なんやなぁ!」
「そんなことあらへんわ!毎日せっせと働いとるわ」
「ほぉー?」
五番隊隊長と十二番隊副隊長だ。よく他の人から話は聞いていたが本当に仲がいい。隊長と副隊長、そんな立場になればああやって話したりもできるのかな。なんて。そんな変なことを思ったが、ただ単にあの二人が仲がいいだけであってそういうことではないと訂正した。
二人のやり取りを聞きながら点検を終わらせていく。次は最後のひとつだ。たしか、執務室にあると伺っている。勝手に入るのはやはり恐れ多いので、一度誰かに断って入りたい。
「千綾やん。来ないなとこで何しとるんや」
「平子隊長…!」
いつの間に近くに来ていたのか全くわからなかった。心臓に悪い。近くには猿柿副隊長もいた。
「救急箱の点検してくれてんねや。ええか!千綾の邪魔するんやないで!」
「邪魔やと!?俺がいつ邪魔したんや」
「はぁ?今絶賛しとるやないかい!」
「なんやとォ!」
二人のペースについていけない。どうどう、と二人を落ち着かせるものの効果はない。こうなったら、と私は仕事を速やかに終わらせる決断をした。
「猿柿副隊長、最後のひとつの救急箱が執務室にあると伺っておりまして、入らせて頂いてもよろしいでしょうか」
「構へん。入りや」
「恐れ入ります」
ぺこりと頭を下げると平子隊長がまた口を開く。こんな奴に頭なんか下げんでええで、と。そんなわけには、と私が言葉を返す前に彼女が平子隊長を蹴り飛ばした。見事な早業につい見てしまう。そして次に怪我はないかと、彼を見るものの、かすり傷程度なので気にしないでおこう。
執務室の救急箱の点検も無事終わった。私が執務室に滞在している間も懲りず二人は言い争いをしていた。仲がいいのか、悪いのか。そして何故私の近くでするのか。気が散るとかは、なかったけど。けど。
「猿柿副隊長。終わりました」
「千綾、五番隊も来てくれるんか?」
「五番隊ですか?五番隊は他の隊士が向かってるはずですが」
「そおか」
「何か必要なものありましたか?よろしければ、言っておきますけど…」
「いや、ええんや」
なにかあったのだろうか。疑問に思うが隊長がそう言うならいいのだろう。あまり気にしないでおこう。
「次はどこ行くんや」
「十三番隊です」
「浮竹のとこか。足すもん多そうやなァ」
「そうですね。浮竹隊長のお薬もついでに持ってきたので一度雨乾堂に向かいます」
「ほな行こか」
「…はい?」
「はァ???」
猿柿副隊長と言葉が重なった。
「お前ホンマ十二番隊に何しに来たんや!」
「せやから、書類渡しに来たんや言うたやろうが」
「じゃあ次は十三番隊に何用があるんや?言うてみぃ!サボりたいだけやないんか?」
「じゃかましぃわ!ボケェ!浮竹に用事があるんや!」
「ホンマかぁ?」
怪しむ副隊長の目に私もつい同意してしまう。
「コイツ待ってたんやないんか?ちゃうんか?」
コイツ、と呼ばれたのは紛れもなく私で、副隊長の人差し指が私を指していた。え、待っていたって、どういうこと。
「せや」
「なんや、認めるんか」
「千綾は方向音痴やからなァ。十三番隊行こう思うて五番隊に迷い込むかもしれんで案内したらな」
「え、えええ。わ、私なら大丈夫ですから!もう何度も足を運んであのような失態は犯しません!」
いつの話をしているの、と迷った話を猿柿副隊長に聞かれてしまい恥ずかしい。迷った?と不思議な顔をされここから早く逃げたくなった。
「ほな、また来るわ」
「わっ、平子隊長…!お邪魔しました、猿柿副隊長!」
まるで私の心情を計った様に彼は慣れたように私の手を引き十二番隊から出た。あっけらかんと今の状況に飲み込めていないのは猿柿副隊長だけではない。私も、だ。とりあえず、平然といられるよう頭の中を真っ白にした。五月も始まったばかりなのにこんなにも暑いのは何故だろうか。