怪我が完全に治ったもののまだ病み上がりだからと救護詰所での診察はさせてくれなかった。その代わりに得た私の仕事は五番隊の雑務だった。直接五番隊の人達と関わることは無い、簡単に言えば掃除だ。日常的に使われていない隊舎牢の掃除だったり庭の掃き掃除だったりゴミ処理だったり…。良いようにいえば誰にでもできるような仕事だ。これが私の仕事だから、と言い聞かせ口より手を動かすことに決めた。

まずは、隊舎牢の掃除だ。五番隊隊士に案内され掃除用具の場所も教えて貰い掃き掃除から始める。

「牢屋の中に入るなんて思ってもなかった…」

ま、罪は犯してないけども。

せっせと掃除をする私に他の隊士が私を憐れむような目で見ている。四番隊って本当に雑用押し付けられるんだね。絶対四番隊には行きたくない。可愛そう…。あれ、これ怒っていい???

握っていた箒を折ってしまいそうだった。そんな時パンパンと手拍子が響いた。

「ほれほれ、みんなこないなとこで何しとんねん。四番隊の子が可愛いからって見せもんちゃうねんから、はよ仕事に戻りや」
「ひっ平子隊長…!」
「失礼します!!」

突然現れた自隊の隊長に野次馬たちが逃げ去った。そんな様子を片目で見つつ、ちゃんと向き合って挨拶をした。

「平子隊長。ご挨拶が遅くなりまして失礼しました。今日一日雑務をさせて頂きます。よろしくお願いします」
「………なんや、怒っとるんか」
「いえ」

確かに今の私は目つきが悪いかもしれない。声も少し低いかもしれない。かといって、隊長に歯向かう私ではない。はずなのに。

「すまんかったな。うちらの隊士が失礼なこと言って」
「陰口は聞こえないところで言って欲しいですね」
「ホンマに怒っとるやん」

いつもの冗談とは違う私に気付いたのか少し焦っていた。私はそんな彼にひとつも笑みを見せずに言った。

「自分の隊の悪口を叩かれて、怒らない人なんています?」


この時平子は思い出した。初めに千綾と出会った時のことを。あの時も彼女は十一番隊の大柄な男たち相手に噛み付いていたのだ。何も思わない方がおかしい。すぐに言い返さなかったところを見ると少しは耐えていたのだと思った。隊長相手にはきはきと自分の思いを伝えられる彼女はすごい。思わず彼女の頭に手を乗せぐりぐりと撫でた。

「なっ、なんですか…?」
「千綾はそれでええ」
「はい?」

今はこう強気でいてもきっと後から隊長相手に怒ってしまったとうじうじと悩み出すのだろう。それが目に見えるまで彼女のことを数ヶ月でよく知ったことに少なくても少し嬉しくなりつい笑みが零れた。

「…平子隊長?」
「いや、なんでもあらへん。あいつらにはちゃんと俺から言っとくで、許してやってや」
「そうですね。平子隊長がそこまで仰るなら…」

まだ少し不服そうな顔をしながら、何かを思いついたように彼女はにこりと口角を上げた。

「甘いものがたべたいです、平子隊長」
「あー、そうきたか」
「ダメですか?」
「任せとき。昼休み楽しみにしときや」
「はい。約束です」

こんな一面を持っていたなんて、知らなかった。けれど新たな彼女を見れたことが距離が縮まったような気がして、どうしようもなく嬉しかった。掃除をする彼女もどこか楽しげでその姿が可愛らしく思えた。

「平子隊長、またこんなところでサボって…。あれ、彼女は…?」
「サボりちゃうわ。もう用済んだではよ行くで」
「ちょっと待ってくださいよ隊長」

藍染副隊長は今日も平子隊長に振り回されっぱなしみたいで、ちらりと彼と目が合い軽く会釈で済ますものの副隊長は何かを探るような目で私を見ていた。

「(気のせい…?)」