久しぶりの非番。私は流魂街に来ていた。草原が広がり修行の場にぴったりだ。誰かに修行をつけてもらうこともなく私は浅打を構える。意識を集中させて、目の前に虚がいる想定で刀を振るった。真央霊術院で習ってきた教科書通りの斬術しかできない自分になんとも言えない気持ちになった。
「おや、先客がいるなんて珍しいっすね」
「!!」
突然声をかけられ驚いて刀を落としてしまった。驚かしてしまってすいません、と私の刀を拾い渡してくれた彼は私の記憶が正しければ、会ったことのない人だった。死覇装を着ている、つまりは死神なわけなのだが。
「あの、この場所、あなたが使うなら私は違うところに行きますけど…」
「いや。いいっすよ」
「そうですか…」
「それよりも。休憩しないと倒れますよ」
どうぞ、と竹の水筒を手渡される。おずおずと受け取る。ありがとうございます、とお礼を言いそれに口をつけた。中には冷たい水が入っていてごくごくと飲んでいた。こんなにも喉が渇いていたなんて気づいていなかった。
「見たところ斬術は苦手そうっすね」
「…わかりますか?」
にこにこと笑われてしまい私は言い返せなかった。他の人から見ても私の刀の使い方はお粗末なものなのか。素直に落ち込んでしまった。
「隊の人に稽古つけてもらわないんすか?」
やはりそれが一番なのだろうが、四番隊の隊士で強い人を探す方が難しいだろう。新米平隊員が隊長や副隊長、席官の先輩たちの手を煩わせる訳にもいかないし、稽古をつけて欲しいと頼める人もいない。言葉に詰まって何も言えなくなった。
「なんか訳ありなんっすか?」
「い、いや、そんなことないですけど!みんな忙しくされてるので…」
「よかったら、僕が付き合いましょうか?」
「え!」
まさかの申し出に驚きが隠せず今度は水筒を落としそうになった。
稽古をつけてくれるのはとても有難いことだ。しかし、初対面の相手から急にそんなことを言われては戸惑ってしまう。ちらりと相手を見るもののこの人が強いのか弱いのかわからない。私よりも弱いということはないと思うけど。
「…お願いしてもいいですか?」
「はい。もちろんです」
どこからか木刀を取り出し私に差し出す。木刀同士がぶつかる鈍い音は嫌いではない。しかし、彼の刀を受け止めるだけで手がひりひりする。意地で自分の木刀を離さない。
「っあ!」
と、思ったが次の彼の攻撃を受けて私の木刀が手から滑り落ちた。じんじんと手が麻痺をしている。たった数分、まだ一回目にも関わらずこんな状態になってしまって自分の力を思い知らされる。
「まだまだ…っ!」
負けじと木刀を握り彼に向かっていくものの何度も私は打ち負かされた。涼し気な顔をしている彼に一度も勝てなかった。
「っは、っは…!」
「大丈夫っすか?」
日もだいぶ暮れてしまい私は力尽き草の上に転がった。汗ひとつかかない彼は一体何者なのだろう。呼吸を整えながら私は話しかけた。
「名前、きいてもいいですか」
「浦原喜助っス。お嬢サンは?」
「高峰千綾です」
「千綾さんは、見たところ四番隊の人ですよね」
どきり。なんで浦原さんは分かったのだろう。私なんて浦原がどこの隊に所属しているかわからないのに。
「…弱すぎましたか?」
「そんなことありませんよ」
その言葉が嘘だということはすぐわかった。
「何故四番隊のあなたが力をつけようと?」
「…自分を守るためです」
「ほう」
「私が死んだら、治療ができませんから」
この前の虚討伐任務のことを思い出してしまう。私は何も出来なかった。虚を倒すことも、隊員を治療することも。あの時は援軍が来てくれたから死者もでず怪我人だけで済んだが、その怪我人は私が治さなければいけなかった。卯ノ花隊長は私に「虚討伐任務において我々四番隊の役目は皆の傷を癒すこと。戦闘に表立って刀を振るうことではありません」と怒った。戦闘に表立つつもりはない。しかし、それでも私は自分の命は自分で守りたい。他の隊士のお荷物にならないように。
「四番隊らしいっすね」
私の話を静かに聞いてくれた彼は優しく笑った。その言葉に少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。