じゃあ、行ってくるわ。
そう言って廃墟を出た真子にみんなが軽く声をかけた。転校生として真子が潜入し黒崎一護に接触をした今日。近くに虚の気配を感じて黒崎一護が向かうのがわかり、それと同時に真子も向かったのだ。

「なんや、寂しいんか?」
「そんなことない!」

にやにやと笑うひよ里に私は顔を背けた。この気持ちは寂しいとかではなく、私自身よくわからない感情だ。私も見に行こうかなと外に足を向ければ拳西に止められた。

「行くな。今日はアイツに任せろ」
「別に、心配してるからとかじゃなくて…」
「ンなことわかってる。…真子から言われてんだよ。今日は外に出すなって」
「…なにそれ」

それじゃあ私はまるで子供じゃないか。外に出たがりの興味深々な小さな子供だ。

「黒崎一護が気になるんか」
「リサは気にならない?」
「全く」

なにやら怪しい雑誌を読みながら答えられると私が本当に興味深々な子供に思えてきた。

「そんなに気になるんやったら明日から制服来て真子と一緒に学校行きぃや」
「それは嫌」
「じゃあ今日は大人しく待っとき」
「…わかった」

わかった、と言いつつも外に足を向ける私に拳西がおい!と制止する。素直に振り向くと思った通りの怖い顔をしていた。

「少しだけ、夜風にあたるぐらいならいいでしょ?」

外に出ると秋風が優しく吹いた。髪を抑えながら屋根の上に座ると自然に霊圧を感じてしまう。

「ひとつ、ふたつ、みっつ…」

一つ目の虚はすぐに退治されたのであろう。真子は黒崎一護と刀を交えている。それ以外にちらほらと虚も感じた。今回出現した虚はいつもの虚より霊力が強く感じる。大虚によく似た、いやそれ以上だ。目を閉じて少しだけ意識を高めた。知らない死神が近くにいる。そしてまた違う霊圧を感じた。これは…喜助さんのだ。喜助さんが動いてる。これは本格的に始まる予兆なのか。もうあの悪夢が再び起こるなんて御免だ。膝を抱えて俯いた。ぐるぐると頭が回る。もうこのままどこかへ行ってしまおうか。ふう、と溜め息が自然に出た。

「こないなとこで何しとるんや」
「!…おかえりなさい」

真子、と。先程出て行ったのにもう戻って来た彼の名前を呼ぶと何も言わず隣に座った。

「外出んよう見張っとけって拳西に言うたんやけどなァ」
「ここもダメだった?」
「外に出ると嫌でもわかるやろ」
「うん。よくわかった」
「まあ、ついてこやんかっただけ許したるわ」

ちらりと真子を見たが怪我はないようで少しほっとした。

「それにしても、早かったね。黒崎一護にはふられちゃったんだ」
「アホ。ひよ里から誰かさんが寂しい言うとるん聞いたからはよ帰ってきたんや」
「…別に寂しくないもん」

ぽんっと大きな手が私の頭に乗った。ああもう、この人には負けてしまう。先程までの不安が嘘のように消えていく。このまま時が止まればいい。何度こう思ったものか。しかし私の思いも届かない。時は止まることを知らない。

「中入るで」
「もう少しだけ、ここにいる」
「なんやへそ曲げとんのか」
「曲げてません」

満月でもなければ空は雲で覆われ少ししか星が見えなくても、今はこの夜空が自分にぴったりだと思った。先に中に入っていった真子の後ろ姿を見て少しだけ寂しくなった。彼の後ろ姿は何度見てきたかわからない。頼もしくて、強くて、いつも私を助けに来てくれる大きな背中。今では隣に立ちたいと思ってしまう。出来るなら、私が守りたいなんて。

少し肌寒くなってきた。夏が終わりもう秋が近付いてきてる。残暑も夜になると涼しくなる。

「風邪ひくで」
「わ」

先に戻ったはずの真子がまた来て私の肩に自分の上着をかけてくれた。そしてまた私の隣に腰掛けた。

「今日はそんな気分なんやろ?とことん付き合ったるわ」

私の気持ちは隠しても隠しきれていないのだろうか。どうしてこんなにもわかってしまうのだろう。嬉しいような恥ずかしいような、少し困ってしまう、ような。真子の上着をぎゅっと掴んだ。

「ありがとう」
「ん」

本当に時間が止まってしまえばいいのに。願わずにはいられなかった。